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神聖アリス教国建国編
56 建国宣言、そうだ迎えに行こう! 都市国家シュゼール
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出発が多少遅れたが砂の王国カセームのパタンから大陸南部を一時間ほど東進すると、ロズ山脈の最南端にある南国リゾート地ピラールに達する。
ここはルセ島がある場所で聖アリステリアス王国である。改めて、聖アリステリアス王国が南北に長い大国なのだと分かる。
そのまま東に向かうと聖アリステリアス王国を抜けて昼頃には都市国家シュゼールに達した。
都市国家シュゼールは、その名の通り一つの都市だ。
湾港都市シュゼールを中心とした小国である。シュゼール湾を望む貿易港であり漁港でもある。古くから貿易と漁業で繁栄し、単一の都市でありながら国家として存続していた。
ただし、大陸全土が衰退すると、当然貿易は縮小し漁業も売る相手が無くなり衰退していった。
貿易主体の国が単体で繁栄できる筈はないのだ。加えて、脆弱だった農業を旱魃が襲い穀倉地帯は壊滅的な打撃を受けてしまった。
聖アリステリアス王国への支援を表明していた友好国であり、セレーネやアルテミスの婚約者がいた国でもある。
聖アリステリアス王国の国王自身が随伴していることもあり、俺たちの訪問は大歓迎された。
しかし今もなお続く旱魃により食糧生産は半減したままだという。聖アリステリアス王国を支援するどころか、奇跡的な回復を遂げたキリシス地方を擁する聖アリステリアス王国から逆に支援される立場になっていた。勿論それが出来たのは、それまでの国家間の信頼関係があったからこそである。
簡素ではあるが歓迎の席で新国王ナエル・シュゼールがワイン片手に言った。
「貴国の繁栄はひとえに貴殿の活躍と聞き及んでおります」
もちろん、それは言い過ぎだが、部外者から見ればそう見えるのも確かだろう。
「協力してくれた仲間も多かったので出来たことです」
さすがに、女神様の話までは出来ない。
「なるほど、そうですね。ただ一人の活躍だけに頼っていては国は立ちいきませんからね」
「はい」
天才一人がすべてを出来る筈はないからな。
「しかし、ただ一人の逸材を逃して国が立ちいかない場合もありましょう」
この国王自身、なかなかの逸材のようだ。
「ただ、我が国の旱魃のような自然災害を前にしては人材だけでは解決できないのも事実」ナエル王は、やや疲れた顔で言った。
俺は、ふと気になってアリスに聞いてみた。
ー このあたりって、水はないの?
ー 水源ってこと? 穀倉地帯の近場には……ない事もないけど。
ー あるのかよ。
ー 前人未踏の秘境なのよ。
ー ああ、なるほど。知らないのか。
ー そうね。それに、他国の領地だし。
ー 他国?
ー 一応、聖アリステリアス王国の領地だから、立ち入って調べたり出来ないでしょ。
ー なるほど。
「そうですね。人材の他に武器となるものがあるとしたら『情報』でしょうか」
アリスの話を聞いちゃったので謎をかけしてしまった。
「情報……ですか?」
ナエル王、あまり聞かない言葉に怪訝な顔をする。
「はい。例えば、どこかに水があるという情報があれば違ってくるでしょう?」
まぁ、本当は情報を見付け出すことが大事なんだが。
「まさしく……もしや、何か御存じなのでしょうか?」おっ、鋭いな。
そこで、俺はアリステリアスの王様に向き直った。
「このシュゼールの周辺は聖アリステリアス王国ですが、ここに水源があったとしたら使っても大丈夫でしょうか?」
「このシュゼールの近くにあるのか? あるなら、ぜひ支援したいが」とヒュペリオン王。
「そうですか。東の山を越えたところに、あるらしいのです」
「ああ、あの辺りは誰も立ち入らない秘境だな」とヒュペリオン王。
「ええ、その秘境に湖があるようなのです」
「ほう」
「そ、そのような話を、どこから?」さすがにナエル王、寝耳に水という顔だ。
「婿殿は、便利な魔法が使えるのです」ヒュペリオン王。ちょっと自慢げな顔で言う。
「な、なんとそのような魔法があるのですか!」さすがに、驚く。
はい。そんな魔法はありません。これ女神様情報なので。
「はい。探査の魔法です。その魔法で見つけました。そこから水が引ければ、旱魃は何とかなるのではないかと思います」
そこで、ちょっとその場が静まり返った。それぞれに、水を引く方法を想像したようだ。
「婿殿、あの山の向こう側から水を引くのか? キリシスの時のように水道を作るのか?」
「おお、その話は私も聞いております。あのイエルメス山を越えて水道を作られたとか。では、ここでも同じように出来るのでしょうか?」とナエル王。
「いえ。今回は山が低いので、うまくすれば川を作れるかも知れません。川なら手入れも楽だと思います」
「山の向こうから川を引く……ですと?」
この一団に同行してだいぶ慣れてきた宰相ウィスリムだが、改めてとんでもない人だと認識し直しているようだ。
まぁ、最初のナディアス自治領でトンネル掘ったんだけど? 川はまた別なのか?
「水道の時も驚きましたが、流石ですね」と、これはマレスだ。ちょっと余裕。
「さすが、婿殿らしい方法じゃな。わははは」ヒュペリオン王は、あまり細かいことは考えて無い模様。
「恐れ入ります」
「おおおおおお。ま、まことでしょうか。俄かには信じがたいことですが……」
さすがに、まだ半信半疑らしい。うん、常識人であればあるほど、信じられなくて当然。賢い人の証明みたいなもんだな。簡単に信じるようなら逆に危ない。
「ええ、まぁたぶん。貴国との友好の印として、ちょっと試してみましょう」
「は、はい。ありがとうございます。どうか、よろしくお願いします」
「まぁ、婿殿にやらせておけば大丈夫じゃろ」
よく分からないけれど、とっても嬉しそう。もしかして、こういうのを見たくて付いて来た?
* * *
翌日、干上がった穀倉地帯の真ん中に俺は立っていた。
まず、シュゼール側の水路を確保する。湾に向かって緩やかに下がるようビームを調整して撃つ。
「エナジービーム」
ゴゴゴゴゴーーーーーッ
土壁を盛ったほうが簡単にも思えるが、溶かして成形するほうが水漏れの無い水路が出来る。これはキリシスの用水路で実証済みだ。
「よし」
次は、湖への水路だ。
山と山の間を抜けて湖に達する水路を設ける。今、作った水路に立って方向を見定める。千里眼の探知なので、難しい。
「エナジービーム」
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴーーーーーッ
あっと、やり過ぎた。ちょっと湖を通り過ぎてしまった。まぁ、問題はないだろ。
しばらく待っていると、水路を伝って勢いよく水が流れて来た。
「おおおおおおおおっ。水だ! 川だ川が出来た」
これは、一緒について来たボーフェン氏だ。流石にまだ慣れていないようだ。
「さすがじゃの~。婿殿」
「おおおおお、ありがとうございます。まさか、こんなことが出来るとは」
ナエル王、さすがに目の前で直に見せられたので信じないわけにはいかないといった顔だ。ほとんど信じてなかったようだ。
「これも、女神アリス様の思し召しです」
ちょっと神父のセリフぽいけど、この場合ホントだからな。
ー エッヘン。
ー はいはい。
「本当にそうですね。ありがとうございます」ナエル王は、俺の手を強く握って言った。
さらに、取水口を作ったので、とりあえずこれで使えるだろう。
「あ、この川は常に流れるかどうかはわかりません。湖の水源次第なので。場合によっては上流で堰き止めたほうがいいかも知れません。ただ、今までよりは水の確保が楽になると思います」
「はい、わかりました。それで、十分です。大切に管理したいと思います」とナエル王。
その後、俺たちはナエル・シュゼール王を含む代表団を連れて、次の目的地オキ神国を目指すのだった。
ここはルセ島がある場所で聖アリステリアス王国である。改めて、聖アリステリアス王国が南北に長い大国なのだと分かる。
そのまま東に向かうと聖アリステリアス王国を抜けて昼頃には都市国家シュゼールに達した。
都市国家シュゼールは、その名の通り一つの都市だ。
湾港都市シュゼールを中心とした小国である。シュゼール湾を望む貿易港であり漁港でもある。古くから貿易と漁業で繁栄し、単一の都市でありながら国家として存続していた。
ただし、大陸全土が衰退すると、当然貿易は縮小し漁業も売る相手が無くなり衰退していった。
貿易主体の国が単体で繁栄できる筈はないのだ。加えて、脆弱だった農業を旱魃が襲い穀倉地帯は壊滅的な打撃を受けてしまった。
聖アリステリアス王国への支援を表明していた友好国であり、セレーネやアルテミスの婚約者がいた国でもある。
聖アリステリアス王国の国王自身が随伴していることもあり、俺たちの訪問は大歓迎された。
しかし今もなお続く旱魃により食糧生産は半減したままだという。聖アリステリアス王国を支援するどころか、奇跡的な回復を遂げたキリシス地方を擁する聖アリステリアス王国から逆に支援される立場になっていた。勿論それが出来たのは、それまでの国家間の信頼関係があったからこそである。
簡素ではあるが歓迎の席で新国王ナエル・シュゼールがワイン片手に言った。
「貴国の繁栄はひとえに貴殿の活躍と聞き及んでおります」
もちろん、それは言い過ぎだが、部外者から見ればそう見えるのも確かだろう。
「協力してくれた仲間も多かったので出来たことです」
さすがに、女神様の話までは出来ない。
「なるほど、そうですね。ただ一人の活躍だけに頼っていては国は立ちいきませんからね」
「はい」
天才一人がすべてを出来る筈はないからな。
「しかし、ただ一人の逸材を逃して国が立ちいかない場合もありましょう」
この国王自身、なかなかの逸材のようだ。
「ただ、我が国の旱魃のような自然災害を前にしては人材だけでは解決できないのも事実」ナエル王は、やや疲れた顔で言った。
俺は、ふと気になってアリスに聞いてみた。
ー このあたりって、水はないの?
ー 水源ってこと? 穀倉地帯の近場には……ない事もないけど。
ー あるのかよ。
ー 前人未踏の秘境なのよ。
ー ああ、なるほど。知らないのか。
ー そうね。それに、他国の領地だし。
ー 他国?
ー 一応、聖アリステリアス王国の領地だから、立ち入って調べたり出来ないでしょ。
ー なるほど。
「そうですね。人材の他に武器となるものがあるとしたら『情報』でしょうか」
アリスの話を聞いちゃったので謎をかけしてしまった。
「情報……ですか?」
ナエル王、あまり聞かない言葉に怪訝な顔をする。
「はい。例えば、どこかに水があるという情報があれば違ってくるでしょう?」
まぁ、本当は情報を見付け出すことが大事なんだが。
「まさしく……もしや、何か御存じなのでしょうか?」おっ、鋭いな。
そこで、俺はアリステリアスの王様に向き直った。
「このシュゼールの周辺は聖アリステリアス王国ですが、ここに水源があったとしたら使っても大丈夫でしょうか?」
「このシュゼールの近くにあるのか? あるなら、ぜひ支援したいが」とヒュペリオン王。
「そうですか。東の山を越えたところに、あるらしいのです」
「ああ、あの辺りは誰も立ち入らない秘境だな」とヒュペリオン王。
「ええ、その秘境に湖があるようなのです」
「ほう」
「そ、そのような話を、どこから?」さすがにナエル王、寝耳に水という顔だ。
「婿殿は、便利な魔法が使えるのです」ヒュペリオン王。ちょっと自慢げな顔で言う。
「な、なんとそのような魔法があるのですか!」さすがに、驚く。
はい。そんな魔法はありません。これ女神様情報なので。
「はい。探査の魔法です。その魔法で見つけました。そこから水が引ければ、旱魃は何とかなるのではないかと思います」
そこで、ちょっとその場が静まり返った。それぞれに、水を引く方法を想像したようだ。
「婿殿、あの山の向こう側から水を引くのか? キリシスの時のように水道を作るのか?」
「おお、その話は私も聞いております。あのイエルメス山を越えて水道を作られたとか。では、ここでも同じように出来るのでしょうか?」とナエル王。
「いえ。今回は山が低いので、うまくすれば川を作れるかも知れません。川なら手入れも楽だと思います」
「山の向こうから川を引く……ですと?」
この一団に同行してだいぶ慣れてきた宰相ウィスリムだが、改めてとんでもない人だと認識し直しているようだ。
まぁ、最初のナディアス自治領でトンネル掘ったんだけど? 川はまた別なのか?
「水道の時も驚きましたが、流石ですね」と、これはマレスだ。ちょっと余裕。
「さすが、婿殿らしい方法じゃな。わははは」ヒュペリオン王は、あまり細かいことは考えて無い模様。
「恐れ入ります」
「おおおおおお。ま、まことでしょうか。俄かには信じがたいことですが……」
さすがに、まだ半信半疑らしい。うん、常識人であればあるほど、信じられなくて当然。賢い人の証明みたいなもんだな。簡単に信じるようなら逆に危ない。
「ええ、まぁたぶん。貴国との友好の印として、ちょっと試してみましょう」
「は、はい。ありがとうございます。どうか、よろしくお願いします」
「まぁ、婿殿にやらせておけば大丈夫じゃろ」
よく分からないけれど、とっても嬉しそう。もしかして、こういうのを見たくて付いて来た?
* * *
翌日、干上がった穀倉地帯の真ん中に俺は立っていた。
まず、シュゼール側の水路を確保する。湾に向かって緩やかに下がるようビームを調整して撃つ。
「エナジービーム」
ゴゴゴゴゴーーーーーッ
土壁を盛ったほうが簡単にも思えるが、溶かして成形するほうが水漏れの無い水路が出来る。これはキリシスの用水路で実証済みだ。
「よし」
次は、湖への水路だ。
山と山の間を抜けて湖に達する水路を設ける。今、作った水路に立って方向を見定める。千里眼の探知なので、難しい。
「エナジービーム」
ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴーーーーーッ
あっと、やり過ぎた。ちょっと湖を通り過ぎてしまった。まぁ、問題はないだろ。
しばらく待っていると、水路を伝って勢いよく水が流れて来た。
「おおおおおおおおっ。水だ! 川だ川が出来た」
これは、一緒について来たボーフェン氏だ。流石にまだ慣れていないようだ。
「さすがじゃの~。婿殿」
「おおおおお、ありがとうございます。まさか、こんなことが出来るとは」
ナエル王、さすがに目の前で直に見せられたので信じないわけにはいかないといった顔だ。ほとんど信じてなかったようだ。
「これも、女神アリス様の思し召しです」
ちょっと神父のセリフぽいけど、この場合ホントだからな。
ー エッヘン。
ー はいはい。
「本当にそうですね。ありがとうございます」ナエル王は、俺の手を強く握って言った。
さらに、取水口を作ったので、とりあえずこれで使えるだろう。
「あ、この川は常に流れるかどうかはわかりません。湖の水源次第なので。場合によっては上流で堰き止めたほうがいいかも知れません。ただ、今までよりは水の確保が楽になると思います」
「はい、わかりました。それで、十分です。大切に管理したいと思います」とナエル王。
その後、俺たちはナエル・シュゼール王を含む代表団を連れて、次の目的地オキ神国を目指すのだった。
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