異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう

文字の大きさ
上 下
50 / 189
神聖アリス教国建国編

50 建国宣言、そうだ迎えに行こう! ナディアス自治領1

しおりを挟む
 いよいよ俺達はナディアス自治領を目指し高速神魔動飛行船で出発した。

 ナディアス自治領は大陸北西の端にあり漁業が盛んな地域だ。
 ただ、四方を山と海に囲まれているため、交易による発展はあまり見込めないという。唯一開けているのは南西方面だが、ここには蛮族が住む荒涼とした土地が広がっているだけだそうだ。
 まぁ、詰んでいるとも言える。しかし、それは安全であるとも言えるので、ここに住むのを理解出来ないという訳ではない。

 位置的には、ナディアス自治領はキリシス地方の北西に位置するのだが、そこには三千メートルを越えるイエルメス山とオルメス山が立ち塞がっている。
 飛行船でこれを超えてもいいのだが、交易路の下見も兼ねて西のオルメス山を南に迂回してキリシス地方西端からナディアス自治領に入ることにした。
 眼下には、岩だらけの大地が広がっている。ここは誰の土地でもないとのこと。

 俺は、何もない地域を飛行する間に飛行船に搭乗しているメンバーを確認した。

<神聖アリス教国代表団>
神聖アリス教国 国王 リュウジ・アリステリアス
神聖アリス教国 王妃 リリー・アリステリアス
神聖アリス教国 元老院議長 マレス
神聖アリス教国 魔法共生菌特効薬配布プロジェクト リーダー ネム
聖アリステリアス王国 国王 ヒュペリオン・アリステリアス
聖アリステリアス王国 宰相 ウィスリム 他補佐一名 
聖アリステリアス王国 近衛自動乗用車隊 五名
王城工事中で暇な執事 バトン リュウジの従者として
王城工事中で暇な旧領主館本館の侍女、メイド三十名
高速神魔動飛行船 スタッフ 三十名

<特別室、上層展望室>
女神アリス
女神ウリス
女神エリス

 女神様については、使徒と王様くらいしか認識していない。つまり、秘密である。

 俺の姓については嫁の姓「アリステリアス」を継ぐことにした。地球での姓もあるけど使ってないし、いいだろう。

「リュウジ殿、アリステリアスを継いでくれて、嬉しいぞ」とヒュペリオン王。
「ぶっちゃけ、アリステリアスって使徒って事ですからね」
「うむ。そういう意味では、本当の名じゃな」
「はい、他人事とは思えません」

 というか、人数はそれなりなのに、まともに外交する気があるのか怪しいメンバーばかりなんだが。
 いや、それはもちろん俺の役目なんだけど、俺一人で飛んで行くほうが楽かもな。

  *  *  *

 それぞれの思惑はともかく、高速神魔動飛行船の飛行はすこぶる順調だ。
 キリシス地方最西端のオルメス山を迂回してから飛行船は進路を北に取った。ここは既にナディアス自治領に入ったと言える。

「まさに北の大地といった感じじゃな」

 オルメス山を越えた大地を見て王様がつぶやいた。

「多少、森林はありますが人の気配はありませんね」

 荒涼とした景色で寒々とした印象だ。
 緯度的には俺達の街とそう違わないのに大違いだ。それだけオルメス山の存在が大きいということか。まぁ、ちょっと前まで水不足だったことを考えれば似たようなものか。

ー ここは、まだいいのよ。これよりさらに西は岩ばかりの土地だから。

 アリスが教えてくれた。

ー そうなんだ。

「わたくしもここまで来たのは初めてです」ウィスリムも興味深げに話す。
「私は、初めての外国なので、この景色は忘れないでしょうな」

 マレスは、やはりまだちょっと不安そうに言った。

  *  *  *

 あまり変化のない景色に飽きた頃、俺たちはナディアス自治領の領都に到着した。
 当然、飛行船の発着場などないので街の上空を一周した後、ゆっくり街の正門近くに降下した。
 門の前では既に事態を把握した人たちが待ち受けていた。

「女神アリス様の使徒様におかれましては、ご機嫌麗しゅう……」

 あれ? 思いっきりバレてる? まぁ、普通に考えて勘違いだろうな、これ。

「私達は、神聖アリス教国の代表団です。親善のため世界を回っています」

 勘違いは早めに訂正しておくに限る。

「ああ、そうでしたか」

 女神アリスを期待する事情が何かあるのか、ちょっと残念そうだ。確かに、神界から降りてきたようにも見えるしな。

「私は、ナディアス自治領の領主をしておりますボーフェン・ウリウスと申します。ようこそおいでくださいました。これより、ご案内いたします」

 女神様の関係者と思ったせいか、領主自ら出迎えてくれたようだ。

  *  *  *

 領主の館に着いて領主と役人たちに挨拶を済ませると、今回の訪問目的である『神聖アリス教国建国記念式典への参加と魔法共生菌防衛体制への加入』を要請した。
 これに対し式典の参加も防衛体制の参加も快諾してくれた。これほどの技術力を持つ国から招待を受けて寧ろ恐縮しているという対応だった。

 早々と訪問の目的が達成して和やかな会談となったので、俺は到着時の領主の対応について聞いてみた。

「女神アリス様の使徒を期待されていたようですが、どうかされたのですか?」

 そう言うと、領主は少し躊躇いを見せたが素直に語り始めた。

「我がナディアスは、御覧の通り貧しい土地です。飢饉こそ免れてはおりますが繁栄とはかけ離れた存在です。土地が痩せておりますので作物も十分には育ちません。そのため、いつも待降教会で女神様に豊作を祈願している次第です」

 なるほど、願いを叶えに来てくれたと思ったのか。それにしては、普通じゃない感じがしたが。ん? 待降教会?

「こちらの教会では、まだ女神様の降臨を認知していないのですか?」

 ふと、マレスが言った。

「ああ、つい古い言い方をしてしまいました。聖アリス教会です」
「そうですか」

 聖アリス教会は、元は待降教会と言っていたらしい。

ー ああ、肖像画を持って行ったから名前が変わったのね。
ー 待降教会って、神様の降臨待ちって意味だよね。思いっきりバレてるし。

 もう伝わってるのは凄いな。てか、俺たちが思い切り当事者なのに、ちゃんと分かってないってどゆこと?

「確かに、穀類は難しいかも知れませんね。でも、海産物は豊富に見えました。交易が出来れば穀物も手に入るのでは」

 俺は領主の館に来る途中で見た街の様子から言った。

「豊富と申されますと?」

 領主は不思議そうに言った。思い当たらないようだ。

「ここへ来る途中、毛ガニが沢山捨てられていましたが」

 俺がそう言うと、ボーフェンは、しばし考えを巡らしてから言った。

「あ、あれは食べられません。今年は、大量に発生してしまい、みんなで駆除しているところです」
「え? 食べられないの?」

 不思議に思って、千里眼とスキャンで調べたが普通に毛ガニだった。

ー ここの土地の人は食べないようね。

 アリスがそっと指摘してくれた。

「なるほど、こちらでは食べないのですか」
「えっ? あれは食べられるのですか?」領主は意外そうに言う。

「はい、とても美味しくて、地域によっては非常に高値で取引されています。今が旬で一番おいしい筈です」

「な、なんと」

 領主を始め、自治領の役人たちがどよめいた。
 もしかして、毛ガニを悪魔の使いか何かと勘違いしてた? まぁ、ありうるな。あの見た目だもんなぁ。まぁ、過去に何かあったのかもしれないが。

「リュウジ殿、わしも毛ガニは知らんが、旨いのか?」

 聖アリステリアス王国でも食べないようだ。この世界の常識なのか?

「そうか、結構知らない人居るんだ。じゃぁ、ちょっと料理してみますか」

 そう言って、俺はまだ生きている毛ガニを沢山用意してもらい、洗って塩ゆでにして貰った。

  *  *  *

 用意された歓迎会の席に移って早々、毛ガニの試食会が始まった。
 皆、興味津々である。

「魚を食べるときは何をつけますか?」

 俺が聞いたら、魚醤のようなものが出てきたので、まず俺が毛ガニの足を折って食べて見せる。

「うん、旨い。そのままでも旨いが、この魚醤もいいな」

 俺の言葉に、領主も恐る恐る食べてみる。

「こ、これは」

 領主の反応見て、初めて旨いものを食った時の顔は皆同じだなと思った。幸せな顔だ。

「この、筋みたいなのは、硬いので食べません。あとは柔らかくて誰でも食べられます」

「おお、これは食べたことのない味じゃ」とボーフェン領主。
「うむ。婿殿、これはいけるな」ヒュペリオン王も気に入ったようだ。
「あらっ、美味しい」とニーナ。

「魚醤でも、あと酸っぱい柑橘類の汁をたらしてもいけます」

 俺がそう言ったら、厨房にあったらしく持って来てくれた。柚子に似た香りが爽やかでうまかった。

「ほう、これは香りもいいですね。うむ。旨い」

 領主も早速真似てみた。既に、躊躇する気はないようだ。つぎつぎと口に運んでいる。

「おおおお、こんな旨いものを我々は捨てていたのか。女神様の好意を無駄にしていたのか!」

 領主、涙まで流し始めた。

ー 女神様の好意なの?
ー 知らないわよ?
ー だよな。たぶん、悪魔の使いとか思ってたんじゃないかな?
ー えっ? あ~、そうみたい。
ー なるほど、悪魔だらけか。ちょっと被害妄想入ってる? それで迎えに来たのか。

「これなら、いくらでも食べられるでしょう?」

 カニが出ると黙々と食べちゃうもんな~っ。

「確かに」
「これは、体にもいいんですよ。特に子供や年配の人には。骨が丈夫になります」
「おお、本当ですか。それは、素晴らしい」とボーフェン。

ー えっ? 本当なの?
ー なんで知らないんだよ。カルシウム豊富なんだよ。
ー へぇ~。

 結局、俺以外は全員初めて食べたようだが、あっという間に無くなってしまった。
 そりゃ、宴会なのに無言で食べてしまうほどのものだからなぁ。ウィスリムさんなど、口に入れるたびに頷いてたし。

「この分だと、他にも商品になるものがありそうですね」ウニとかな。

「美味しいものを教えていただいたのは有難いのですが、我々には貴国のような空を飛ぶ機械はありません。高く売れると言っても、あのような魔道具を使っての交易が出来ないのが残念なところです」とボーフェン。

 確かに、領主の言うのも分かる。

「そうですね、小さい飛行艇もあるので商人は来れるでしょうが、コストはかかってしまいますからね」

 そう言って、俺は来る途中に見て来た険しい峠道を思い出していた。あれがある限り、コストは掛かってしまう。

 ん?

「リュウジ、また何か思い付いたのかえ?」とリリー。鋭いな。
「婿殿、また途方もない事をしでかすのか?」なんか、親子して酷いじゃないの?
「もしや」マレスさんは思い当たった模様。

 普通ですよ普通。常識人ですもん。あ、常識使徒だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされ、生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれてしまった、ベテランオッサン冒険者のお話。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

処理中です...