31 / 189
黎明編
31 王国の危機
しおりを挟む
王女リリーが来てからというもの、俺は千里眼を時々使うようになった。
女神様の千里眼のサブセットではあるがトラッキングすることも出来るし音声も拾えるのは便利だ。
ある日、聖アリステリアス王国の王都に第一級緊急招集がかかった。
第一級緊急招集とは、戦争勃発など王国の第一級危機にのみ適用される国家危機管理会議の招集を意味する。
王城にある国王の執務室には深刻な表情の宰相と各大臣たちが集まっていた。
これは、キリシス地方を急速に発展させ、数々の驚くべき改革を行い、さらに国を揺るがす多くの製品を生み出した『魔法使いリュウジ』の懐柔に失敗したためである。
「このまま、物流を彼の地の商人に握られたままとなると大変なことになりますぞ」
事の顛末を説明した後、その意味するところが十分に伝わるのを待って宰相は言った。
「左様、この国の経済活動は全て彼の地に握られることになるであろう。他国に握られる訳ではないのが、せめてもの救いと言うもの」と、国王が腕を組んで苦々しげに言う。
「この国だけではありませんぞ。自動荷車を利用した輸送は荷馬車が到達する距離の三倍に達するという。既に彼の地の商人は、この国のみならず周辺諸国までもその勢力圏内に収める勢いとのこと」これは商会などを仕切る経済担当大臣だ。
「うむ。彼の者の囲い込みが叶わなかったのは痛恨の極みじゃ。叶いさえすれば我が国の繁栄は約束されたも同然となったであろう。必要な時に必要なものが届けられるのじゃからな。需要に即座に応える供給とは、まさに究極の物流」と国王が言った。
この国の国王は出来る男のようだ。
「おっしゃる通りです。各地の倉庫などの無駄が省け、余った食材を腐らせることもありません」と、宰相も異論はないようだ。
「さらに、素早い輸送では同時に時間が手に入る。時間が手に入るということは競争に勝つと言うことじゃ。我が国は物と時間を掌握し、戦争せずとも諸外国を支配することが可能となる筈じゃった」悔しそうに国王は言う。
「しかも、物流だけではありません。量だけでなく高品質の食料、自動荷車を初めとする見たことの無い魔道具、さらに希少金属の鉄。これら誰もが欲しがる交易品を持っています。この鉄の剣をご覧ください」
王に断ってから、宰相は持っていた剣を抜いて見せた。
「おおおおおっ」
その剣の輝きを見て、大臣たちがどよめく。
「この剣は美しいだけではありません。この鉄で出来た剣は真鍮の剣を容易く両断することが出来るのです。これを装備した兵は、とてつもない脅威となりましょう」と宰相。
「な、なんと言うことだ」と、先ほどの経済担当大臣。
「素晴らしい輝きじゃのぉ」と国王。
「このような剣、見たことありませんな」と軍事担当の大臣。
「か、鏡のようだ」などと、大臣たちから感嘆の声が上がる。
宰相の腕の動きに合わせて剣は煌めき、その輝きに誰もが見惚れてしまった。
「彼の者の価値は計り知れぬ。それゆえ、辺境伯の叙爵も承認したのじゃからな。しかし、拒否されたとあらば……」
ため息交じりに吐き出すように国王は言う。
「いえ、だからと言って下手なことは出来ませんぞ。彼の地は今や聖アリス教会の総本山。聞くところによれば、女神アリス様の降臨時には彼の者が共にいたと言うではありませんか。間違っても敵対してはなりません」
経済担当大臣は商人などから情報を得ているようだ。
「一体、何者なのでしょうか? 一介の魔法使いとは到底思えませんが」と言って宰相は国王を見た。
「そうよの。手を尽くして彼のリュウジなるものについて調べさせたのじゃが、突然女神アリス様と共に現れたとの事じゃった」
国王、配下の密偵を放った模様。
「それでは、まるで……」
「待て待て、普通に彼の地のおなごを娶っているというではないか。しかも何人も。普通に欲望を持った人間ということだ。軽々に結論を出すわけにはゆかぬぞ」
ある大臣の発言を窘めるように国王は言った。
「なんにしても、敵に回すわけには参りませぬ。それは、我が国の死活問題となりましょう」これは宰相だ。
「左様。一度の不手際程度で投げ出せるものではない。加えて、この件これだけでは済まぬ気がする。ならば、簡単に諦める訳にもいかん」
「そうですな」
「ともかく当面は、最大限の優遇を行い友好関係を築くことこそ肝要というもの」と国王。
「確かに」
宰相も他の大臣たちも異存はないようだ。
* * *
その夜、聖アリステリアス王国宮廷の奥深く、とある部屋に国王の娘達三人が集められていた。
国家危機管理会議の結論を国王自ら娘たちに話して聞かせるためである。
「お父様が第三王女などを送って出し惜しみなどするから、このような事になるのです」
第一王女セレーネ(十八歳)が言った。このごろ結婚を心配され始めた長女である。
この世界の王族では、女は二十歳より前に結婚する。
ただし、アリステリアスには王子が生まれなかったためセレーネは婿を取ることになる。実際、婚約していた他国の王子が急死しなければ今頃は結婚していた筈なのである。
急死はこの衰退している世界ではよくある話ではあるが、結婚相手を選ぶのが難しい第一王女の婚姻の確率は、これによりかなり低くなってしまった。
ただ、第一王女の特権で女王として君臨することも可能なので本人としては覚悟しているのかも知れない。
「第三王女などとは、酷い言い様ではありませんか。姉上」リリーが不満げに言う。
「そうじゃないのよ、リリー。第三王女では辺境伯程度しか与えられません。それでは足りないと言っているのよ。辺境伯に満足できる男にあれほどの事は出来ません。わずか一年で世界の覇権を握ろうとしているのですから」
一般論としては正しいのかも知れないが、それが一個人の思惑と一致するとは限らない。
「では、第一王女のセレーネ姉様ならば、どうなさるのです?」
第二王女のアルテミス(十六歳)である。彼女も、ちょっと焦っている。
姉のセレーネと同時に同じ国のもう一人の王子へ嫁ぐ予定だったのだが姉の婚約者急死の騒動に巻き込まれてしまった。自分だけ結婚することも出来ず、その後婚約も解消になってしまったのだ。
第二王女の場合、姉が嫁いで自分が婿を取るというケースもあるので姉の結婚が決まらないと自分の結婚も決まらないという難しい立ち位置なのであった。
それはともかく、第一王女の結婚相手は昔から王族と決まっている。
「まずは、その者を彼の地の国王にしてしまいましょう」第一王女、願望全開である。
「キリシスを国にか?」さすがに国王は驚いて言った。
「はい、そうです。それだけ繁栄しているのなら、国家として独立してもおかしくないでしょう」第一王女セレーネは事も無げに言った。
「そうですね。彼の者が伝え聞くような傑物であるなら、遅かれ早かれそのようになるでしょう」第二王女アルテミスも同意する。
「それは、わらわが保証する。あやつ、とんでもない男ぞ」
リリーのその言葉にセレーネは強く頷いた。
「ならば、すぐにも国家として独立し内外に強い影響力を持つようになることでしょう。いえ、実際に国を名乗るかどうかは問題ではありませんわ。実質的にそうなるということです」
「うむ。そうじゃの」国王も同意した。
「はい。むしろ国を名乗ってくれたほうが、わが国としては付き合い易いと言えましょう。いわゆる国家間の流儀というものがありますから」
「なるほどのぉ」
国王、感心しきり。大変な話をしつつも、娘の成長を喜ぶ国王であった。
「厄介なのは、そうでない場合です。実体が分からず、影響力のみ振るわれるのは極力避けねばなりません。ですので、国を名乗らせるしかありませんわ」
セレーネは未来を見通すような目で言った。
「しかし、いまだ領主にもなっていない男に、国を作れという訳にもいかん」
国王は困り切った顔で腕を組みながら言った。
「ですから、わたくしが参りますの。これは第一王女としての務めと考えます」
「お姉さま。カスタムモデルが欲しいだけなんじゃ……」とリリー。
「違います。貴女じゃなくてよ」
「しかし、王族として行っても。リリー同様にあしらわれて終わるだろう。爵位に興味を示さぬ男だぞ」
「はい。ですから、街の女として参ります。ハーレムを作ると言っていたのでしょう? いいおなごであれば迎えるということ。子供ではだめですわ。わたくしならば、すぐさま迎え入れられることでしょう。」セレーネ、確信を持って言う。
「そうなりましたら、わたくしが国王として立つよう説得致しますわ。愛する妻の言葉ならば容易く聞き入れてくれるでしょう。あとは陛下が国家として承認すれば良いのです」
「そうかのう。既に、容姿端麗な妻を三人も娶っておったがのぉ。もう満足じゃと言っておったがのぉ」リリーには信じられないようだ。
「ふふふっ。殿方はよくそうしたことを言いますが、それは更に美しいおなごに出会うまでのことです。欲望とは果てしないものなのです。それこそが発展の起爆剤であり、それのない男に事を成せる筈がないのです」
これは、侍女からの情報である。さらに、侍女は恋愛小説からの情報である。つまり、全く根拠のない情報である。それらしく聞こえるというだけで、殆ど当事者の願望である。
「姉上、姉上が美しいのはわらわも知っておるが……その自信は逆効果のような」とリリーが突っ込みを入れる。
「でしたら、姉さま。わたくしもお供致しますわ」
これは第二王女アルテミスだ。この話の流れで自分が選ばれれば、そのまま嫁げるだろう。
相手が見つからないまま宮廷内で年を重ねるよりずっといい。可能性は希望へ、希望は期待へ、期待は願望へ、願望は確信へと勝手に成長していく。
「アル姉さままで。ならば、わらわも」
「貴女はだめよリリー。バレバレじゃない」とセレーネ。
「まだ、ちこっと会っただけじゃ、興味のないおなごのことなど忘れておるに違いない」
「興味のないおなごが行っても意味ないのでは?」アルテミスからもダメ出しされる。
「違うのじゃ、わらわに似た年も近い妻もおるのじゃ、じゃから興味がない訳ではない筈じゃ。付け入る隙はどこかにあるハズなのじゃ」
リリーの場合は、単に遊び相手として面白いと思ってるだけかも知れない。
「三段構えの作戦ね」とセレーネ。
「なんですの?」とアルテミス。
「美人王女三人、好きな者を召し上がれ大作戦」
「まぁ」
「むふふっ」
「これで落ちない殿方はおりませんわ。とにかく子を成せばわたくしたちの勝ちです」
セレーネがぶち上げた。
「おお、それは凄い。お前たちの魅力ならば可能であろう」
国王は第一王女の言葉を信じた模様。
既に、ひとり失敗してるのだが。
女神様の千里眼のサブセットではあるがトラッキングすることも出来るし音声も拾えるのは便利だ。
ある日、聖アリステリアス王国の王都に第一級緊急招集がかかった。
第一級緊急招集とは、戦争勃発など王国の第一級危機にのみ適用される国家危機管理会議の招集を意味する。
王城にある国王の執務室には深刻な表情の宰相と各大臣たちが集まっていた。
これは、キリシス地方を急速に発展させ、数々の驚くべき改革を行い、さらに国を揺るがす多くの製品を生み出した『魔法使いリュウジ』の懐柔に失敗したためである。
「このまま、物流を彼の地の商人に握られたままとなると大変なことになりますぞ」
事の顛末を説明した後、その意味するところが十分に伝わるのを待って宰相は言った。
「左様、この国の経済活動は全て彼の地に握られることになるであろう。他国に握られる訳ではないのが、せめてもの救いと言うもの」と、国王が腕を組んで苦々しげに言う。
「この国だけではありませんぞ。自動荷車を利用した輸送は荷馬車が到達する距離の三倍に達するという。既に彼の地の商人は、この国のみならず周辺諸国までもその勢力圏内に収める勢いとのこと」これは商会などを仕切る経済担当大臣だ。
「うむ。彼の者の囲い込みが叶わなかったのは痛恨の極みじゃ。叶いさえすれば我が国の繁栄は約束されたも同然となったであろう。必要な時に必要なものが届けられるのじゃからな。需要に即座に応える供給とは、まさに究極の物流」と国王が言った。
この国の国王は出来る男のようだ。
「おっしゃる通りです。各地の倉庫などの無駄が省け、余った食材を腐らせることもありません」と、宰相も異論はないようだ。
「さらに、素早い輸送では同時に時間が手に入る。時間が手に入るということは競争に勝つと言うことじゃ。我が国は物と時間を掌握し、戦争せずとも諸外国を支配することが可能となる筈じゃった」悔しそうに国王は言う。
「しかも、物流だけではありません。量だけでなく高品質の食料、自動荷車を初めとする見たことの無い魔道具、さらに希少金属の鉄。これら誰もが欲しがる交易品を持っています。この鉄の剣をご覧ください」
王に断ってから、宰相は持っていた剣を抜いて見せた。
「おおおおおっ」
その剣の輝きを見て、大臣たちがどよめく。
「この剣は美しいだけではありません。この鉄で出来た剣は真鍮の剣を容易く両断することが出来るのです。これを装備した兵は、とてつもない脅威となりましょう」と宰相。
「な、なんと言うことだ」と、先ほどの経済担当大臣。
「素晴らしい輝きじゃのぉ」と国王。
「このような剣、見たことありませんな」と軍事担当の大臣。
「か、鏡のようだ」などと、大臣たちから感嘆の声が上がる。
宰相の腕の動きに合わせて剣は煌めき、その輝きに誰もが見惚れてしまった。
「彼の者の価値は計り知れぬ。それゆえ、辺境伯の叙爵も承認したのじゃからな。しかし、拒否されたとあらば……」
ため息交じりに吐き出すように国王は言う。
「いえ、だからと言って下手なことは出来ませんぞ。彼の地は今や聖アリス教会の総本山。聞くところによれば、女神アリス様の降臨時には彼の者が共にいたと言うではありませんか。間違っても敵対してはなりません」
経済担当大臣は商人などから情報を得ているようだ。
「一体、何者なのでしょうか? 一介の魔法使いとは到底思えませんが」と言って宰相は国王を見た。
「そうよの。手を尽くして彼のリュウジなるものについて調べさせたのじゃが、突然女神アリス様と共に現れたとの事じゃった」
国王、配下の密偵を放った模様。
「それでは、まるで……」
「待て待て、普通に彼の地のおなごを娶っているというではないか。しかも何人も。普通に欲望を持った人間ということだ。軽々に結論を出すわけにはゆかぬぞ」
ある大臣の発言を窘めるように国王は言った。
「なんにしても、敵に回すわけには参りませぬ。それは、我が国の死活問題となりましょう」これは宰相だ。
「左様。一度の不手際程度で投げ出せるものではない。加えて、この件これだけでは済まぬ気がする。ならば、簡単に諦める訳にもいかん」
「そうですな」
「ともかく当面は、最大限の優遇を行い友好関係を築くことこそ肝要というもの」と国王。
「確かに」
宰相も他の大臣たちも異存はないようだ。
* * *
その夜、聖アリステリアス王国宮廷の奥深く、とある部屋に国王の娘達三人が集められていた。
国家危機管理会議の結論を国王自ら娘たちに話して聞かせるためである。
「お父様が第三王女などを送って出し惜しみなどするから、このような事になるのです」
第一王女セレーネ(十八歳)が言った。このごろ結婚を心配され始めた長女である。
この世界の王族では、女は二十歳より前に結婚する。
ただし、アリステリアスには王子が生まれなかったためセレーネは婿を取ることになる。実際、婚約していた他国の王子が急死しなければ今頃は結婚していた筈なのである。
急死はこの衰退している世界ではよくある話ではあるが、結婚相手を選ぶのが難しい第一王女の婚姻の確率は、これによりかなり低くなってしまった。
ただ、第一王女の特権で女王として君臨することも可能なので本人としては覚悟しているのかも知れない。
「第三王女などとは、酷い言い様ではありませんか。姉上」リリーが不満げに言う。
「そうじゃないのよ、リリー。第三王女では辺境伯程度しか与えられません。それでは足りないと言っているのよ。辺境伯に満足できる男にあれほどの事は出来ません。わずか一年で世界の覇権を握ろうとしているのですから」
一般論としては正しいのかも知れないが、それが一個人の思惑と一致するとは限らない。
「では、第一王女のセレーネ姉様ならば、どうなさるのです?」
第二王女のアルテミス(十六歳)である。彼女も、ちょっと焦っている。
姉のセレーネと同時に同じ国のもう一人の王子へ嫁ぐ予定だったのだが姉の婚約者急死の騒動に巻き込まれてしまった。自分だけ結婚することも出来ず、その後婚約も解消になってしまったのだ。
第二王女の場合、姉が嫁いで自分が婿を取るというケースもあるので姉の結婚が決まらないと自分の結婚も決まらないという難しい立ち位置なのであった。
それはともかく、第一王女の結婚相手は昔から王族と決まっている。
「まずは、その者を彼の地の国王にしてしまいましょう」第一王女、願望全開である。
「キリシスを国にか?」さすがに国王は驚いて言った。
「はい、そうです。それだけ繁栄しているのなら、国家として独立してもおかしくないでしょう」第一王女セレーネは事も無げに言った。
「そうですね。彼の者が伝え聞くような傑物であるなら、遅かれ早かれそのようになるでしょう」第二王女アルテミスも同意する。
「それは、わらわが保証する。あやつ、とんでもない男ぞ」
リリーのその言葉にセレーネは強く頷いた。
「ならば、すぐにも国家として独立し内外に強い影響力を持つようになることでしょう。いえ、実際に国を名乗るかどうかは問題ではありませんわ。実質的にそうなるということです」
「うむ。そうじゃの」国王も同意した。
「はい。むしろ国を名乗ってくれたほうが、わが国としては付き合い易いと言えましょう。いわゆる国家間の流儀というものがありますから」
「なるほどのぉ」
国王、感心しきり。大変な話をしつつも、娘の成長を喜ぶ国王であった。
「厄介なのは、そうでない場合です。実体が分からず、影響力のみ振るわれるのは極力避けねばなりません。ですので、国を名乗らせるしかありませんわ」
セレーネは未来を見通すような目で言った。
「しかし、いまだ領主にもなっていない男に、国を作れという訳にもいかん」
国王は困り切った顔で腕を組みながら言った。
「ですから、わたくしが参りますの。これは第一王女としての務めと考えます」
「お姉さま。カスタムモデルが欲しいだけなんじゃ……」とリリー。
「違います。貴女じゃなくてよ」
「しかし、王族として行っても。リリー同様にあしらわれて終わるだろう。爵位に興味を示さぬ男だぞ」
「はい。ですから、街の女として参ります。ハーレムを作ると言っていたのでしょう? いいおなごであれば迎えるということ。子供ではだめですわ。わたくしならば、すぐさま迎え入れられることでしょう。」セレーネ、確信を持って言う。
「そうなりましたら、わたくしが国王として立つよう説得致しますわ。愛する妻の言葉ならば容易く聞き入れてくれるでしょう。あとは陛下が国家として承認すれば良いのです」
「そうかのう。既に、容姿端麗な妻を三人も娶っておったがのぉ。もう満足じゃと言っておったがのぉ」リリーには信じられないようだ。
「ふふふっ。殿方はよくそうしたことを言いますが、それは更に美しいおなごに出会うまでのことです。欲望とは果てしないものなのです。それこそが発展の起爆剤であり、それのない男に事を成せる筈がないのです」
これは、侍女からの情報である。さらに、侍女は恋愛小説からの情報である。つまり、全く根拠のない情報である。それらしく聞こえるというだけで、殆ど当事者の願望である。
「姉上、姉上が美しいのはわらわも知っておるが……その自信は逆効果のような」とリリーが突っ込みを入れる。
「でしたら、姉さま。わたくしもお供致しますわ」
これは第二王女アルテミスだ。この話の流れで自分が選ばれれば、そのまま嫁げるだろう。
相手が見つからないまま宮廷内で年を重ねるよりずっといい。可能性は希望へ、希望は期待へ、期待は願望へ、願望は確信へと勝手に成長していく。
「アル姉さままで。ならば、わらわも」
「貴女はだめよリリー。バレバレじゃない」とセレーネ。
「まだ、ちこっと会っただけじゃ、興味のないおなごのことなど忘れておるに違いない」
「興味のないおなごが行っても意味ないのでは?」アルテミスからもダメ出しされる。
「違うのじゃ、わらわに似た年も近い妻もおるのじゃ、じゃから興味がない訳ではない筈じゃ。付け入る隙はどこかにあるハズなのじゃ」
リリーの場合は、単に遊び相手として面白いと思ってるだけかも知れない。
「三段構えの作戦ね」とセレーネ。
「なんですの?」とアルテミス。
「美人王女三人、好きな者を召し上がれ大作戦」
「まぁ」
「むふふっ」
「これで落ちない殿方はおりませんわ。とにかく子を成せばわたくしたちの勝ちです」
セレーネがぶち上げた。
「おお、それは凄い。お前たちの魅力ならば可能であろう」
国王は第一王女の言葉を信じた模様。
既に、ひとり失敗してるのだが。
67
お気に入りに追加
582
あなたにおすすめの小説

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~
冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。
俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。
そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・
「俺、死んでるじゃん・・・」
目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。
新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。
元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️
転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!
nineyu
ファンタジー
男は絶望していた。
使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。
しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!
リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、
そんな不幸な男の転機はそこから20年。
累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされ、生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれてしまった、ベテランオッサン冒険者のお話。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

斯くて少女は、新たな一歩を踏み出す
takosuke3
ファンタジー
〝出来損ない〟の烙印を押されたアレクシアの日々は、不遇の一言だった。挙句、彼女を虐げる者によって濡れ衣を着せられ、死刑宣告を受ける。
絶望の中で与えられた法具の転移術式によって難を逃れるも、アレクシアが飛ばされたのは敵国にして未知の只中だった。
未知の言葉、未知の文化、未知の文明、未知の価値観──それらを知っていく中で、アレクシアの閉ざされていた世界は、大きく広がっていく。
<2018年8月1日告知>
本日より、連載を開始します。
今作は、可能な限り短い間隔での更新に挑戦します。だいぶ粗が目立つと思いますので、気づいた点がございましたらご指摘をお願いします。
<2018年8月29日告知>
本日の更新で本編は完結いたします。以降は主な登場人物の紹介と補足を掲載していきます。
<2018年9月6日告知>
本日の更新をもちまして、当作品は完結といたします。短い間でしたが、お付き合いくださりありがとうございました。
なお、第11回ファンタジー小説大賞に応募しておりますので、よろしければ温かいご一票を・・・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる