異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう

文字の大きさ
上 下
24 / 189
黎明編

24 女神像、完成する

しおりを挟む
 新しく婚約したミルルだが体調も戻り全て今まで通りに戻った。

 ニーナと同じようにミルルも館に越してくるか聞いてみたが、おばあちゃんにまだ早いと言われたそうだ。俺もそう思う。というか、神力の流れを見たいので時々は来て貰ってるが、さしあたってミルルが必要な用事もないし、これでいいだろう。
 いつ眷属になるのか分からないが特に何も試してはいない。

 最近の俺はというと、自動荷車と並行して製鉄も試している。
 理科年表やタブレットにある情報を元に適当に実験してただけだが、なんとか生産できるようになってきた。そうなると増産したくなるのだが、忙しくなるので助けがほしい。
 ニーナでもネムでもいいが、興味がありそうだったのでネムに任せることにした。

  *  *  *

 そうこうしているうちに季節は夏真っ盛りとなった。
 この辺りは夏と言ってもそれほど暑くない。日本の夏で言えば軽井沢あたりにいる感じだ。

 隣の教会では、このところ忙しなく人が出入りしている。
 俺たちが旧領主の館に越して来たのが春の半ば過ぎだったので、教会の改築も進み、あとは女神像を待つばかりとなった。

 以前は寂れるままだった教会だが、このごろは引っ切り無しに信者がやって来ているようだ。っていうか、地元の信者だけでなく遠く王都からも、場合によっては他国からも来ているようで、教会前の広場にはびっしり馬車が止まっている。馬車を止める場所でまごついてるのを見ると、もうライン引いとけよと思う。
 これでは、まるで巡礼だな。

 そんな感想を抱きつつ通り過ぎようとして、改築が終わった教会をふと見上げてみたら『聖アリス教会』って書いてあった。って、どゆこと? あれ? いかんいかん、今日は調子が悪いに違いない。改めて明日見てみよう。

 翌日、改めて見てみたがやっぱり『聖アリス教会』とある。
 わかった、これは何かの仕込みだ。いや陰謀だ。あるいはドッキリだ。などと考えていると横から声がした。

「ししょ~、聖アリス教会の改築終わりましたね!」
「うん」

  *  *  *

 それはともかく、石工オットーから女神像が完成したと連絡が入った。
 やっとか。これだけ待たせたんだ、期待していいよなオットー?

「なぁ、当日は俺たちも招待されてるし、なにか祝辞とか用意しないとだめかな? ちょっと期待とかされてるんじゃないか?」

 俺は執務室のソファでお茶を飲みながら言った。

「えっ? ん~、どうだろ。そういうのって、町長とか顔役の仕事なんじゃない?」

 隣で飲んでたニーナが言う。

「そりゃそーか。ただ、『聖アリス』って名前が気になってるんだが」

「そういえば、そうね。なんか、誰ともなしにそう言いだしたそうで、信者がみんなアリス様って言うからそうなったらしいわよ」
「知ってたのかよ。ってか、そんなことでいいのか?」

「だって、この教会が総本山だって言ってたし」
「なに? い、いつの間に」

「さぁ? 今度セシルさんに会ったとき聞いてみようか?」
「あ、いい。別に神様を間違えてるわけじゃないし。実際、間違ってないし。っていうか、本人だし。降臨しちゃったし、突っ込むの止めよう」

 そんなことを話していたら、執事のバトンが入ってきた。

「旦那様、セシル様がお見えです」

「入って貰ってくれ」

「噂をすればだな」
「噂をすれば?」

 ニーナは知らないよな。

「気にするな」

 そこに、セシルが入ってきた。

「突然、お邪魔して申し訳ございません」
「いえ、かまいません。いよいよ女神像のお披露目ですね!」

 俺はソファを勧めつつ言った。

「はい、待ち人来たるといったところでしょうか、わくわくが止まりません」

 とシスターは、おみくじみたいなことを言った。巫女さん? ま、アリス大好きシスターだから、素直な気持ちなんだろう。

「それで、今日はどうしました?」

「はい。実はそのお披露目のことで、ご相談に上がりました」

 ちょっと躊躇いがあるのか、こちらの様子を見るように言葉を切った。

「完成した女神様の像は、お披露目の前日に教会に搬入される予定です。ですが、その方法について少々心配しております」
「ほう」

「大きくて重い石像を、この高台まで坂道を引いて来なければなりません。なんとか運べたとしましても、そんな状態では女神様に何かないとも限りません」

「ああ、なるほど」
「それで、より確実な方法はないものかと苦慮しているわけです」

「そうですね、間違いがあってはいけませんからね」
「はい、ニーナ様。その通りです。神父などは、心配ないと申しておりますが」

「あっ。ねぇ、ししょー! 自動荷車使えばいんじゃない?」

 ニーナは名案を思い付いたとばかりに言った。

「ああ、そうだな。性能も上がったし、ちょうどいいかもな。あれだったら息切れもしないし」
「まぁ、あの素晴らしい魔道具を! もし提供していただけるなら、これほど嬉しいことはありません」

 あれ? セシルさん期待してました?

「かまいませんよ、せっかく作ったものです。魔道具のお披露目としても申し分ありません」

「良かった! 実は、それが願ってもないこととは思ったのですが、あまりにも図々しいかと。ありがとうございます」
「とんでもない、お互い様です」

  *  *  *

 当日、俺は自動荷車を石工オットーのところまで持って行った。

「リュウジさん、こいつが自動荷車ってやつですかい。へぇ~、大したもんだ」

 オットーは、興味深そうに言った。

「小さいが、これで馬十頭より力があるよ」

「へぇ~、そいつぁ凄い。うちにも一台欲しいもんだ」

 オットーは目を丸くして言った。

「そのうち、手に入るさ。沢山作る予定だ」
「ほんとですかい」

 そこに、弟子がやって来た。

「親方、用意できやした」
「おう。じゃ、リュウジさんおねげぇしやす」

 見ると頑丈に作った台車に、ベールのかかった女神像を厳重にくくり付けてあった。
 俺は台車を自動荷車の牽引用フックにつないだ。

「じゃ、ゆっくり行くぞ」

「了解っす、後ろから全員でついていきやす」
「なんかあったら、下敷きになってでも守れ!」

 オットーが弟子に喝を入れる。

「もちろんでさ親方! ここまで苦労した石像でさぁ、絶対守って見せやす」

 なんか気合いが違うな。こりゃ下手なこと出来ない。

「行くぞ!」

 俺は、変速機は第一段のままでゆっくりアクセルを踏み込んだ。

 ぶろろろろろぉ

 マフラーなども改良したので、もう牛とは言わせない。

「すげーな、熊みてぇだ」

 く、熊にバージョンアップしたようです。進化したのか? してるよな? なんで熊? クマ? くま?

「わぁ~、なんか凄い」

 後ろの弟子たちから思わず声が上がる。

  *  *  *

 大通りを進んでいくと周りに人が集まってきた。
 石像の周りはオットーの弟子たちがしっかりガードしてるので心配いらないが、その物々しさも手伝って何事かと人が集まってきたのだ。

「女神様だって~」
「ほぉ、ついに出来たのか」
「明日、お披露目だそーだ」
「おれ、明日休みにしよ~っ」
「おまえ、毎日休んでるだろ」
「自宅警備してるけど?」

 そんな風に、ぞろぞろと付いて来た。

 教会は今日ばかりは閉めているので巡礼者は居ないのだが、女神像到着とあって引きつれた群衆はいつもより多いくらいだ。
 群衆は、教会に引き込むまで広場に陣取って見守っている。しまいには出店まで出てきた。こいつら逞しいな。

  *  *  *

 翌日のお披露目は、さらに信者たちが集まってきて大騒ぎになった。
 とんでもない人混みになったが特段の混乱もなく済んだのは神父モートンの手腕だろう。もちろん、町長や顔役も協力したのだろうが。
 ふと見ると。なんかスタンプを押してる。

「それなに?」

 俺は近くの子供に聞いてみた。

「スタンプラリーだよ」
「女神様を順番に回ってスタンプ集めると、女神様の絵を貰えるんだ!」

 貰った絵を持って嬉しそうに話してくれた。
 どうも、女神様の版画を作ったらしい。モートン神父、流石です。

 ちなみに、石像は女神様にも好評だった。
 もう、ずっと前から見てたみたいだけど。手出しとかしてないよね? 彫刻の神様とか連れてきてないよね?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生社畜、転生先でも社畜ジョブ「書記」でブラック労働し、20年。前人未到のジョブレベルカンストからの大覚醒成り上がり!

nineyu
ファンタジー
 男は絶望していた。  使い潰され、いびられ、社畜生活に疲れ、気がつけば死に場所を求めて樹海を歩いていた。  しかし、樹海の先は異世界で、転生の影響か体も若返っていた!  リスタートと思い、自由に暮らしたいと思うも、手に入れていたスキルは前世の影響らしく、気がつけば変わらない社畜生活に、、  そんな不幸な男の転機はそこから20年。  累計四十年の社畜ジョブが、遂に覚醒する!!

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します 小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。 そして、田舎の町から王都へ向かいます 登場人物の名前と色 グラン デディーリエ(義母の名字) 8才 若草色の髪 ブルーグリーンの目 アルフ 実父 アダマス 母 エンジュ ミライト 13才 グランの義理姉 桃色の髪 ブルーの瞳 ユーディア ミライト 17才 グランの義理姉 濃い赤紫の髪 ブルーの瞳 コンティ ミライト 7才 グランの義理の弟 フォンシル コンドーラル ベージュ 11才皇太子 ピーター サイマルト 近衛兵 皇太子付き アダマゼイン 魔王 目が透明 ガーゼル 魔王の側近 女の子 ジャスパー フロー  食堂宿の人 宝石の名前関係をもじってます。 色とかもあわせて。

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

処理中です...