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黎明編
4 女神様、帰れなくなる
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少年イルの薦めてくれた宿は、思った以上に上等だった。
少年が言った通り綺麗ではつらつとした娘が小奇麗な部屋に案内してくれた。大きな宿ではないが、これで料理も旨いとなれば評判にもなるだろう。
街の住民たちの様子は特におかしなこともなく、ごく普通だった。
「思ったより美人ばかりでびっくりだ」
軽口を叩いてみたが、アリスはどこかそっけなかった。
「なら、少し戻しましょうか」
「やめろ。でも、この世界の人間は、何で驚いてないんだ? いきなり、美男美女になったら普通大騒ぎだろ。なんで平静で居られるんだ?」
俺は住民たちが騒いでいないことが不思議でならなかった。いや、なんで普通にしてるんだ? ありえないだろ?
「ああ、それはこの世界の健美パラメータを変更したからよ。みんな健康で美しくなったわけ。だから本人たちからしたら何も変わってないのよ」
アリスは何でもない事のように言った。
「へ? そうなのか?」
「人間は差分で認識するからってこともあるわね。たとえば、全員一緒に身長が伸びたら気づかないでしょ?」
「まぁ、そうかな。けど、写真とかが残るだろ?」
「ううん。この世界に写真は無いし、絵画は昔の人の美的センスは違っていたとか思うだけでしょ」
感性そのものも変わった感じか?
「おお、そういうこともあるか。そういや、昔の絵の美的センスが今と違うと思ったことあるけど、あれって健美パラーメータを変えたんだったりして」
「知らないわよ」
まぁ、普遍的な『美』なんてないのかも。唯一あるのが『健康度』で、あとは時代の流行りでしかないのか。
「じゃあ、あとは任せるわね。とりあえず予定通りってことでいいでしょ?」
「そうだな。分かった」
「なんだか疲れたから帰るわね。健美パラメータいじっただけなのに、どうしてこんなに疲れてんのかしら」
「あ、帰るなら部屋から転移していいぞ。あとで適当に誤魔化すから」
「そう。じゃ、お願い。あと、頑張ってね」
そう言って女神アリスは目を閉じた。
これって、女神の力を使う時のセオリーなんだろうか? それとも、女神アリスの癖?
そんなことを考えながら、俺は女神アリスが神界へ帰るのを見守っていた。だが、いつまで経っても何も起きなかった。
「うん?」
「あれ? 発動しない。なんで?」
「もしかして、帰れないのか?」
「そ、そんな筈は……えっ?」
さらに女神アリスは何か操作をしたようだが、真顔になって固まった。
「なんか、嫌な予感しかしないんだが」
いきなり、汗が噴き出す女神様。目があらぬところを見ているし。
「う、うそよ。うそ。あれ、あれれ」おいおいっ。
「どした」
「さっき、健美パラメータ変更したでしょ?」
「うん、したな」
「あれ、かなり神力を使うんだけど」
「うん」
「なんか私、今日は調子が悪くて、目いっぱい神力を消費しちゃったみたいなのね」
「そうなのか」
「で、神界だとすぐに神力は補充されるんだけど」
「うん」
「地上界では神力は補充されないのよ」
「はぁ? なんだよそれ」
「しょうがないでしょ。そういうシステムなんだから」システムですか。
「で、使い切ったのか?」
「ほぼ」
「でも、飛べてたじゃねーか」
「うん、あれが最後だったみたい」
「ばかだなぁ。神様仲間に連絡して助けてもらえよ」
「うん、だから神界に連絡しようとしたんだけど、そのパワーもない」
「予備バッテリーはないの?」
「何よそれ。普通はリミッターが働いて緊急連絡くらい出来る筈なんだけどダメみたい」
「あはははは」
「あはは、じゃないわよ。あんたもチート能力無くなったわよ」いきなり、あんた呼びかよ。
「なにーっ? あ、脳内スクリーンが消えてる」
「神力尽きる寸前なのよ。あんたの能力はわたしの神力に頼ってるから」
「リミッター効いてないじゃん。岩も切れたしな。あ、あれで最後の神力使い切ったのか?」
女神様、ジト目で睨むの止めてください。やらせたのアリスじゃん。
「は~。もう、ゆっくり回復するのを待つしかないわ」
さすがに疲れたのか、アリスはベッドに座り込んで言った。
「けど、さすがに神界の誰かが気づくんじゃないか?」
「百年もすれば、誰か気づくかも」遠い目でアリスは言った。
「お前、神界でヒキコモリしてたんか?」
「そんなわけないでしょ? 時間感覚が地上界とは違うのよ。あ、でもヤバいかも」
アリスは急に目をきょろきょろさせた。
「どうした?」
「長く地上界に留まると、受肉が進んじゃって」
「進んじゃって?」
「帰れなくなる」
「なに?」
「に、人間になっちゃう~っ」
女神アリスは慌てた顔で言った。
「えっ? そんなことアリなのか?」
「アリなのよ~。今はまだ仮想的な物質を纏ってるだけだけど、だんだん本物に置き換わっていっちゃう。魂が物質に覆われたら抜け出せないのよ」
「そいつは……ちょっとまて、それって俺も帰れねぇってことか? もろともじゃねーか?」
「そーよ、もろともよ~。一心同体よ。運命共同体よ。ええ~っ。どうしよ~っ」いや、ちょっと違うの混じってますけど。
「な、泣くなよ。この世界で神力とかを吸収できるんだろ?」
「信仰心が集まってきて、それが私の中で少しづつ神力に変わるのよ。でも、間に合わない。私、この世界に骨を埋めることになるんだわ~っ」
「いや、だからまだ決まったわけじゃないし。とにかく落ち着け。今日はもう休もう」
「そ、そうね。わかったわ。もう神力尽きて倒れそう。休みましょう」
アリスの神力が尽きたせいか俺もただでは済まなかった。
自分でもあり得ないと思うけど超絶美しい女神さまと同じ部屋に居ながら、ベッドに潜り込むと深い眠りに落ちていった。
そう、とてもぐっすりと。ふか~く。
少年が言った通り綺麗ではつらつとした娘が小奇麗な部屋に案内してくれた。大きな宿ではないが、これで料理も旨いとなれば評判にもなるだろう。
街の住民たちの様子は特におかしなこともなく、ごく普通だった。
「思ったより美人ばかりでびっくりだ」
軽口を叩いてみたが、アリスはどこかそっけなかった。
「なら、少し戻しましょうか」
「やめろ。でも、この世界の人間は、何で驚いてないんだ? いきなり、美男美女になったら普通大騒ぎだろ。なんで平静で居られるんだ?」
俺は住民たちが騒いでいないことが不思議でならなかった。いや、なんで普通にしてるんだ? ありえないだろ?
「ああ、それはこの世界の健美パラメータを変更したからよ。みんな健康で美しくなったわけ。だから本人たちからしたら何も変わってないのよ」
アリスは何でもない事のように言った。
「へ? そうなのか?」
「人間は差分で認識するからってこともあるわね。たとえば、全員一緒に身長が伸びたら気づかないでしょ?」
「まぁ、そうかな。けど、写真とかが残るだろ?」
「ううん。この世界に写真は無いし、絵画は昔の人の美的センスは違っていたとか思うだけでしょ」
感性そのものも変わった感じか?
「おお、そういうこともあるか。そういや、昔の絵の美的センスが今と違うと思ったことあるけど、あれって健美パラーメータを変えたんだったりして」
「知らないわよ」
まぁ、普遍的な『美』なんてないのかも。唯一あるのが『健康度』で、あとは時代の流行りでしかないのか。
「じゃあ、あとは任せるわね。とりあえず予定通りってことでいいでしょ?」
「そうだな。分かった」
「なんだか疲れたから帰るわね。健美パラメータいじっただけなのに、どうしてこんなに疲れてんのかしら」
「あ、帰るなら部屋から転移していいぞ。あとで適当に誤魔化すから」
「そう。じゃ、お願い。あと、頑張ってね」
そう言って女神アリスは目を閉じた。
これって、女神の力を使う時のセオリーなんだろうか? それとも、女神アリスの癖?
そんなことを考えながら、俺は女神アリスが神界へ帰るのを見守っていた。だが、いつまで経っても何も起きなかった。
「うん?」
「あれ? 発動しない。なんで?」
「もしかして、帰れないのか?」
「そ、そんな筈は……えっ?」
さらに女神アリスは何か操作をしたようだが、真顔になって固まった。
「なんか、嫌な予感しかしないんだが」
いきなり、汗が噴き出す女神様。目があらぬところを見ているし。
「う、うそよ。うそ。あれ、あれれ」おいおいっ。
「どした」
「さっき、健美パラメータ変更したでしょ?」
「うん、したな」
「あれ、かなり神力を使うんだけど」
「うん」
「なんか私、今日は調子が悪くて、目いっぱい神力を消費しちゃったみたいなのね」
「そうなのか」
「で、神界だとすぐに神力は補充されるんだけど」
「うん」
「地上界では神力は補充されないのよ」
「はぁ? なんだよそれ」
「しょうがないでしょ。そういうシステムなんだから」システムですか。
「で、使い切ったのか?」
「ほぼ」
「でも、飛べてたじゃねーか」
「うん、あれが最後だったみたい」
「ばかだなぁ。神様仲間に連絡して助けてもらえよ」
「うん、だから神界に連絡しようとしたんだけど、そのパワーもない」
「予備バッテリーはないの?」
「何よそれ。普通はリミッターが働いて緊急連絡くらい出来る筈なんだけどダメみたい」
「あはははは」
「あはは、じゃないわよ。あんたもチート能力無くなったわよ」いきなり、あんた呼びかよ。
「なにーっ? あ、脳内スクリーンが消えてる」
「神力尽きる寸前なのよ。あんたの能力はわたしの神力に頼ってるから」
「リミッター効いてないじゃん。岩も切れたしな。あ、あれで最後の神力使い切ったのか?」
女神様、ジト目で睨むの止めてください。やらせたのアリスじゃん。
「は~。もう、ゆっくり回復するのを待つしかないわ」
さすがに疲れたのか、アリスはベッドに座り込んで言った。
「けど、さすがに神界の誰かが気づくんじゃないか?」
「百年もすれば、誰か気づくかも」遠い目でアリスは言った。
「お前、神界でヒキコモリしてたんか?」
「そんなわけないでしょ? 時間感覚が地上界とは違うのよ。あ、でもヤバいかも」
アリスは急に目をきょろきょろさせた。
「どうした?」
「長く地上界に留まると、受肉が進んじゃって」
「進んじゃって?」
「帰れなくなる」
「なに?」
「に、人間になっちゃう~っ」
女神アリスは慌てた顔で言った。
「えっ? そんなことアリなのか?」
「アリなのよ~。今はまだ仮想的な物質を纏ってるだけだけど、だんだん本物に置き換わっていっちゃう。魂が物質に覆われたら抜け出せないのよ」
「そいつは……ちょっとまて、それって俺も帰れねぇってことか? もろともじゃねーか?」
「そーよ、もろともよ~。一心同体よ。運命共同体よ。ええ~っ。どうしよ~っ」いや、ちょっと違うの混じってますけど。
「な、泣くなよ。この世界で神力とかを吸収できるんだろ?」
「信仰心が集まってきて、それが私の中で少しづつ神力に変わるのよ。でも、間に合わない。私、この世界に骨を埋めることになるんだわ~っ」
「いや、だからまだ決まったわけじゃないし。とにかく落ち着け。今日はもう休もう」
「そ、そうね。わかったわ。もう神力尽きて倒れそう。休みましょう」
アリスの神力が尽きたせいか俺もただでは済まなかった。
自分でもあり得ないと思うけど超絶美しい女神さまと同じ部屋に居ながら、ベッドに潜り込むと深い眠りに落ちていった。
そう、とてもぐっすりと。ふか~く。
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