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24 神海一族と歴史
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「実際に別世界遷移を試す前に、まず神海の歴史を説明しておく」
神海意次はそう言って神海三世界の説明を始めた。
いよいよ神海一族の秘めた歴史が明かされるのか! 俺はちょっと緊張した。
昨日、神海一族が別の世界から『転移』して来たという話を聞いたばかりで、まだあまり実感はない。だが、実際に行くことになるんだと思うと俄然興味が湧いてきた。
神海一族に一体何があったんだろう?
「歴史ですか!」
「そうだ。なぜ神海一族が三世界に移ってきたのかだ」意次は神妙な顔で話した。
俺たちは、いつものように奥の仮眠室の会議テーブルで意次からレクチャーを受けていた。今日は俺と今宮麗華、上条絹と夢野妖子の四人だ。
希美は表の事務所で留守番である。
「まずは、そもそも神海一族が多重世界に飛び出すことになった経緯からだ。もちろん神海の者は皆知っている話だ」
見ると、麗華と妖子が頷いた。
「伝承によると今から一千年前、神海一族のいた『原初の星』が『浮遊恒星』と遭遇したことが事の発端だ」
「『原初の星』?」
「そうだ。神海一族は母星のことをそう読んでいる」
「『浮遊恒星』は?」
「単独で銀河を彷徨う恒星だな。超巨大な隕石のようなものだ」
「そんなものがあるんですか」
「ああ、銀河同士の衝突で弾き出された星のことらしい。稀にそういうのが彷徨ってるってことだ」
「それで、その浮遊恒星と衝突したんですか?」
「衝突するという事態になったわけだ。衝突というより単に飲み込まれるだけのようだがな。恐らく恒星としての寿命が尽きかけていて巨大化していたんだろう」
「ああ、赤色巨星か」
「おっ、詳しいな」
「太陽だけでなく、惑星ごと飲み込んでしまうでしょうね」
「そうだな。生存率ゼロだそうだ。当然、他の惑星へ逃げ出すという案も出たそうだが、生存可能で到達可能な星は見つからなかったそうだ」
「そうでしょうね」と絹。
「普通、無理だよな」
「それで、別世界に」
「そういうことだな」
「その星はもう存在しないんですか?」
「普通なら、そうなる。だが、神海の先祖は逃げ出すだけじゃなく回避策まで考え出したそうだ」
「回避策?」
「実験的な策だったようだが、浮遊恒星を回避する方法を考え出したらしい」
「ああ、成功する確率は低かったんだ」
「そう伝わっている」
「神海のご先祖様、途方も無い事やったっぽいな」
俺が言うと、麗華も妖子も誇らしそうに笑った。
「ほんとね。想像も出来ないけど」と上条絹。
「浮遊恒星が通り過ぎたら元に戻す計画だったそうだ。だが、それはうまく行かなかったらしい」
「どうしてですか? 『原初の星』はまだあるんですよね?」
「分からん。何処にあるのかも不明だ」
「そうですか。じゃぁ、単なる伝説なんだ」
「千年経ってるからな。だが諦めてはいない」
「えっ? まだ可能性があるんですか?」
「そうらしい。それで神海三世界は今でも『原初の星』に帰ることを目指して連携している」
三つの世界に分かれた神海一族の悲願という事か。
「この話、中央研究所の人なら詳しく知ってるかしら?」と絹。
「そうだな」意次は言った。
「今度、聞いてみたいな」と絹。
上条絹は研究心を刺激されたようだ。
「ともかく、こうして神海一族は三つの世界に渡った訳だ」意次は続けた。
「まず第一の世界は、一番最初に移り住んだ世界。つまり、この世界だ。最初に旅立った勇敢な民族の末裔がこの世界の神海一族ということになる。知っての通り、学園村としてまとまって生活している」と意次は自慢げに説明した。
「千年前ですよね」
「そうだな」と意次。
おとぎ話が入ってそうだ。
「第二の世界は、ほぼ同じ時期に続けて移った世界だ。安全第一というか、ちょっと慎重派ではあるのだろうが、まぁ、今となってはあまり変わらない。というか、反動なのか享楽的なのかわからないが、彼らは遊園地を経営している」
「遊園地?」
「そうだ。まぁ、遊園地に限らず娯楽を提供する仕事に従事しているようだ」
なるほど、テーマパークのようなものか。
俺たちの学園村とは大違いだな。まぁ、それはそれで楽しそうでいい。楽しませるのと楽しむのは違うだろうが。
「そして、第三の世界は一番最後に転移した世界だ。故郷の世界をぎりぎりまでなんとかしようと努力していた人々の末裔だ。誇り高き、そして高い文明を持つ一族だ」
なんか、凄そう。科学者や技術者の一団なのか? 高い文明を維持しているのも頷ける。
「今でも、高い文明を維持しているんですか?」と上条が興味を惹かれる。
「うん? もちろんだ。ただし、人口が少ないからな。難しい状況ではあるようだ」
確かに、最後まで対策を研究していた人たちなら優秀な研究者がごろごろいたんだろう。ただ、その子孫だとしても限界はあるだろうな。
そこで、神海希美がお茶を持って来てくれた。いつもながら、いいタイミングだ。希美は分かってやってるよな?
神海意次はそう言って神海三世界の説明を始めた。
いよいよ神海一族の秘めた歴史が明かされるのか! 俺はちょっと緊張した。
昨日、神海一族が別の世界から『転移』して来たという話を聞いたばかりで、まだあまり実感はない。だが、実際に行くことになるんだと思うと俄然興味が湧いてきた。
神海一族に一体何があったんだろう?
「歴史ですか!」
「そうだ。なぜ神海一族が三世界に移ってきたのかだ」意次は神妙な顔で話した。
俺たちは、いつものように奥の仮眠室の会議テーブルで意次からレクチャーを受けていた。今日は俺と今宮麗華、上条絹と夢野妖子の四人だ。
希美は表の事務所で留守番である。
「まずは、そもそも神海一族が多重世界に飛び出すことになった経緯からだ。もちろん神海の者は皆知っている話だ」
見ると、麗華と妖子が頷いた。
「伝承によると今から一千年前、神海一族のいた『原初の星』が『浮遊恒星』と遭遇したことが事の発端だ」
「『原初の星』?」
「そうだ。神海一族は母星のことをそう読んでいる」
「『浮遊恒星』は?」
「単独で銀河を彷徨う恒星だな。超巨大な隕石のようなものだ」
「そんなものがあるんですか」
「ああ、銀河同士の衝突で弾き出された星のことらしい。稀にそういうのが彷徨ってるってことだ」
「それで、その浮遊恒星と衝突したんですか?」
「衝突するという事態になったわけだ。衝突というより単に飲み込まれるだけのようだがな。恐らく恒星としての寿命が尽きかけていて巨大化していたんだろう」
「ああ、赤色巨星か」
「おっ、詳しいな」
「太陽だけでなく、惑星ごと飲み込んでしまうでしょうね」
「そうだな。生存率ゼロだそうだ。当然、他の惑星へ逃げ出すという案も出たそうだが、生存可能で到達可能な星は見つからなかったそうだ」
「そうでしょうね」と絹。
「普通、無理だよな」
「それで、別世界に」
「そういうことだな」
「その星はもう存在しないんですか?」
「普通なら、そうなる。だが、神海の先祖は逃げ出すだけじゃなく回避策まで考え出したそうだ」
「回避策?」
「実験的な策だったようだが、浮遊恒星を回避する方法を考え出したらしい」
「ああ、成功する確率は低かったんだ」
「そう伝わっている」
「神海のご先祖様、途方も無い事やったっぽいな」
俺が言うと、麗華も妖子も誇らしそうに笑った。
「ほんとね。想像も出来ないけど」と上条絹。
「浮遊恒星が通り過ぎたら元に戻す計画だったそうだ。だが、それはうまく行かなかったらしい」
「どうしてですか? 『原初の星』はまだあるんですよね?」
「分からん。何処にあるのかも不明だ」
「そうですか。じゃぁ、単なる伝説なんだ」
「千年経ってるからな。だが諦めてはいない」
「えっ? まだ可能性があるんですか?」
「そうらしい。それで神海三世界は今でも『原初の星』に帰ることを目指して連携している」
三つの世界に分かれた神海一族の悲願という事か。
「この話、中央研究所の人なら詳しく知ってるかしら?」と絹。
「そうだな」意次は言った。
「今度、聞いてみたいな」と絹。
上条絹は研究心を刺激されたようだ。
「ともかく、こうして神海一族は三つの世界に渡った訳だ」意次は続けた。
「まず第一の世界は、一番最初に移り住んだ世界。つまり、この世界だ。最初に旅立った勇敢な民族の末裔がこの世界の神海一族ということになる。知っての通り、学園村としてまとまって生活している」と意次は自慢げに説明した。
「千年前ですよね」
「そうだな」と意次。
おとぎ話が入ってそうだ。
「第二の世界は、ほぼ同じ時期に続けて移った世界だ。安全第一というか、ちょっと慎重派ではあるのだろうが、まぁ、今となってはあまり変わらない。というか、反動なのか享楽的なのかわからないが、彼らは遊園地を経営している」
「遊園地?」
「そうだ。まぁ、遊園地に限らず娯楽を提供する仕事に従事しているようだ」
なるほど、テーマパークのようなものか。
俺たちの学園村とは大違いだな。まぁ、それはそれで楽しそうでいい。楽しませるのと楽しむのは違うだろうが。
「そして、第三の世界は一番最後に転移した世界だ。故郷の世界をぎりぎりまでなんとかしようと努力していた人々の末裔だ。誇り高き、そして高い文明を持つ一族だ」
なんか、凄そう。科学者や技術者の一団なのか? 高い文明を維持しているのも頷ける。
「今でも、高い文明を維持しているんですか?」と上条が興味を惹かれる。
「うん? もちろんだ。ただし、人口が少ないからな。難しい状況ではあるようだ」
確かに、最後まで対策を研究していた人たちなら優秀な研究者がごろごろいたんだろう。ただ、その子孫だとしても限界はあるだろうな。
そこで、神海希美がお茶を持って来てくれた。いつもながら、いいタイミングだ。希美は分かってやってるよな?
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