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18 共感仲間を増やせ2
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俺たち神岡龍一と今宮麗華の共感エージェントは、共感能力者であり共感エージェント候補の夢野妖子の教育を任された。
「俺たちで、ほんとに良かったのかな?」
俺は誰ともなしに言った。
もちろん共感能力を教える自信なんてない。妖子が少しでも不安なら意次に言って代わってやろうと思った。
「私、先輩たちでラッキーだと思ってます」と妖子。
「そうなの? どうして?」と意外そうに言う麗華。
「お二人の話はボスから聞いてます。驚くべきスーパー新人が現れたとか。初めから次々と仕事をこなす稀に見ぬ逸材だと言ってました」
「あ、それは主に龍一の話ね」
「いえ、龍一さんもですが麗華さんも凄いって以前から言ってました」と妖子。
そう言えば麗華の話はあまり聞いてなかったな。
結構無謀な事するみたいだけど? ああ、苦労してないから無謀なのかも。って、じゃ教官としてはまずいじゃん。全然ラッキーじゃないよ。
「そんなことないわよ」麗華、ちょっと照れる。
「んふっ。だから、とっても楽しみです。頑張ります先輩!」
なんて前向きで健気な後輩なんだ! 先輩もやる気満々だよ!
「ふふっ。わかったわ」
「うん、任せろ」
思えば、天才的な奴ほど教育には不向きなものだった。
* * *
最初は俺と同じで定点遷移からやってみることにした。
まぁ、同じことをするしか方法はない。とにかく行って帰るだけだから簡単だ。
起動装置はインストール済みだし使い方も一通り説明した。
そして今、夢野妖子はベッドに横になって遷移を待っていた。当然、起動するのは妖子本人ではない。
「じゃ、行くぞ。目標地点は十年後の今日、昼の12時だ。いいな?」
「分かりました」夢野妖子は素直に言った。
「じゃ、遷移トリガー」
俺は分かるように声に出して言った。
すると夢野妖子を纏っているオーラが強くなった。バディは監視中、共感チェックを起動したままにしておく。
「うまくいったわね」
もう一人のバディの麗華は、妖子に毛布を掛けてやった。
* * *
「ちょっと、遅いんじゃないか?」
十分経過したころから気になっていたが、妖子はなかなか戻らなかった。
「そうかな? まだ普通でしょ。龍一とは違うのよ」と麗華は言う。
「俺の時はどうだったっけ? 最初の時は、就職先が倒産する話だったけど」
「あれは特別よ。長時間行ってたから比較できない」
「それはそうか。思えば、いきなり無茶な事してたよな」
「そ、そうね」
ちょっと麗華は申し訳なさそうな顔をした。自覚はあったんだ。
「麗華の時はどうだった?」
「最初の定点遷移は、十分くらいだったかな」
「もう、十五分だよ」
「そうか。ちょっと遅いね」
「共感解除するか?」
「共感解除はしたくないな」
「なんでだよ」
「ショックがあるらしいから。普通、共感解除するのは共感チェックの発光色が変わった時だけよ」
俺の時はやってたけどな。
あれって発光色が変わったのか? イリーガル過ぎだろ俺の時。
「じゃ、どうするんだ?」
「十年後に行って彼女を探して連れ戻すしかないわね」
「手分けして探すか?」
「それもだめ。一人は残らなくちゃ」
「そうかわかった。じゃ、俺が行く。予定の時間なら花屋にいる筈だよな?」
「そうね。お店の仕事してる筈」と麗華。
もちろん彼女が十年後に何をしているかは確認している。
「じゃ、行ってくる」
「うん、しっかりね!」
俺は、もう一つの開いたベッドに横になった。
「遷移トリガー」
俺は迷いなく未来へ飛んだ。
* * *
俺は十年先の自分に向かって飛んだ。
定期便みたいなもので慣れたものだ。
その時の俺は探偵社の接客テーブルにいた。仕事をしていた訳ではないらしい。
「ちょっと出て来ます」
「どうしたの? あ、なるほど」
隣にいた麗華は気が付いたようだ。
花屋は階下だ。
俺は階段を下りて花屋の前を通りながら中の様子を伺った。
妖子は店先にいた。だが、俺に気付いたが微妙な顔をした。
「こんにちは」
俺は、声を掛けてみた。
「……」
「あら、龍一さんこんにちは。ごめんなさい、この子昨日からおかしいのよ」奥から妖子の母親が出て来て言った。
「そうですか」
どうも遷移点がズレたようだ。
俺はおばさんとの会話をそこそこに、問題があったと思われる昨日へと遷移した。
* * *
俺が昨日に飛んで改めて花屋に行ってみると、妖子は店の前でパニックになっていた。
どうも一日ズレたようだ。だが、このくらいの誤差は当たり前だ。
「おい、妖子。俺が分かるか?」
俺は肩を掴んで少し揺さぶってみた。
だが、目の焦点が合っていなかった。
「えっ?」
「俺だ、龍一だ。しっかりしろ。先輩が向かいに来たぞ!」
「せんぱい? 先輩!」
やっと気が付いたようだ。そして、いきなり目から涙を流し始めた。ちょっと待て。
「大丈夫だ、大丈夫だから」
花屋の前で泣く女の子に縋りつかれる男ってのは一大事だ。
どう見ても俺が別れ話を切り出している? いや、店員だから! 花屋の店員だからな!
まぁ、花屋の店員を泣かしてる男も大概だが。
* * *
暫く泣くと、さすがに妖子も落ち着いたようだ。
「先輩、ごめんなさい。暗くて、ちょっとパニックになっちゃいました」
「そうか。そりゃ仕方ないな。けど、もう大丈夫だ」
「はい」
どうも、暗転時間が長くてパニックになったようだ。
そりゃ怖いよな。
「帰れそうか?」
「はい」
「コマンドは分かる?」
「はい。大丈夫です。遷移解除」そう言って、妖子は帰っていった。
「あらっ?」
いきなり、けろっとした表情で妖子が言った。
「帰りましたね!」
「うん」
未来の妖子は問題ないようだ。
「お疲れ様です。確か、ちゃんと帰れた筈です」
「それは、良かった」
妖子は、すっかり普通の表情になっていた。
いつもの明るいはつらつとした女の子だった。ただ、涙の痕はあったが。
「あの先輩。離れたほうが」
まだ、俺たちは抱き合っていた。いや、軽くだが。
「あっ、すまん」
「もう少し、このままでもいいです」
妖子はおどけた顔をした。ふざけたりもするんだ。
そんなことはあったが、その後は特に問題なく夢野妖子の訓練は終了した。
「俺たちで、ほんとに良かったのかな?」
俺は誰ともなしに言った。
もちろん共感能力を教える自信なんてない。妖子が少しでも不安なら意次に言って代わってやろうと思った。
「私、先輩たちでラッキーだと思ってます」と妖子。
「そうなの? どうして?」と意外そうに言う麗華。
「お二人の話はボスから聞いてます。驚くべきスーパー新人が現れたとか。初めから次々と仕事をこなす稀に見ぬ逸材だと言ってました」
「あ、それは主に龍一の話ね」
「いえ、龍一さんもですが麗華さんも凄いって以前から言ってました」と妖子。
そう言えば麗華の話はあまり聞いてなかったな。
結構無謀な事するみたいだけど? ああ、苦労してないから無謀なのかも。って、じゃ教官としてはまずいじゃん。全然ラッキーじゃないよ。
「そんなことないわよ」麗華、ちょっと照れる。
「んふっ。だから、とっても楽しみです。頑張ります先輩!」
なんて前向きで健気な後輩なんだ! 先輩もやる気満々だよ!
「ふふっ。わかったわ」
「うん、任せろ」
思えば、天才的な奴ほど教育には不向きなものだった。
* * *
最初は俺と同じで定点遷移からやってみることにした。
まぁ、同じことをするしか方法はない。とにかく行って帰るだけだから簡単だ。
起動装置はインストール済みだし使い方も一通り説明した。
そして今、夢野妖子はベッドに横になって遷移を待っていた。当然、起動するのは妖子本人ではない。
「じゃ、行くぞ。目標地点は十年後の今日、昼の12時だ。いいな?」
「分かりました」夢野妖子は素直に言った。
「じゃ、遷移トリガー」
俺は分かるように声に出して言った。
すると夢野妖子を纏っているオーラが強くなった。バディは監視中、共感チェックを起動したままにしておく。
「うまくいったわね」
もう一人のバディの麗華は、妖子に毛布を掛けてやった。
* * *
「ちょっと、遅いんじゃないか?」
十分経過したころから気になっていたが、妖子はなかなか戻らなかった。
「そうかな? まだ普通でしょ。龍一とは違うのよ」と麗華は言う。
「俺の時はどうだったっけ? 最初の時は、就職先が倒産する話だったけど」
「あれは特別よ。長時間行ってたから比較できない」
「それはそうか。思えば、いきなり無茶な事してたよな」
「そ、そうね」
ちょっと麗華は申し訳なさそうな顔をした。自覚はあったんだ。
「麗華の時はどうだった?」
「最初の定点遷移は、十分くらいだったかな」
「もう、十五分だよ」
「そうか。ちょっと遅いね」
「共感解除するか?」
「共感解除はしたくないな」
「なんでだよ」
「ショックがあるらしいから。普通、共感解除するのは共感チェックの発光色が変わった時だけよ」
俺の時はやってたけどな。
あれって発光色が変わったのか? イリーガル過ぎだろ俺の時。
「じゃ、どうするんだ?」
「十年後に行って彼女を探して連れ戻すしかないわね」
「手分けして探すか?」
「それもだめ。一人は残らなくちゃ」
「そうかわかった。じゃ、俺が行く。予定の時間なら花屋にいる筈だよな?」
「そうね。お店の仕事してる筈」と麗華。
もちろん彼女が十年後に何をしているかは確認している。
「じゃ、行ってくる」
「うん、しっかりね!」
俺は、もう一つの開いたベッドに横になった。
「遷移トリガー」
俺は迷いなく未来へ飛んだ。
* * *
俺は十年先の自分に向かって飛んだ。
定期便みたいなもので慣れたものだ。
その時の俺は探偵社の接客テーブルにいた。仕事をしていた訳ではないらしい。
「ちょっと出て来ます」
「どうしたの? あ、なるほど」
隣にいた麗華は気が付いたようだ。
花屋は階下だ。
俺は階段を下りて花屋の前を通りながら中の様子を伺った。
妖子は店先にいた。だが、俺に気付いたが微妙な顔をした。
「こんにちは」
俺は、声を掛けてみた。
「……」
「あら、龍一さんこんにちは。ごめんなさい、この子昨日からおかしいのよ」奥から妖子の母親が出て来て言った。
「そうですか」
どうも遷移点がズレたようだ。
俺はおばさんとの会話をそこそこに、問題があったと思われる昨日へと遷移した。
* * *
俺が昨日に飛んで改めて花屋に行ってみると、妖子は店の前でパニックになっていた。
どうも一日ズレたようだ。だが、このくらいの誤差は当たり前だ。
「おい、妖子。俺が分かるか?」
俺は肩を掴んで少し揺さぶってみた。
だが、目の焦点が合っていなかった。
「えっ?」
「俺だ、龍一だ。しっかりしろ。先輩が向かいに来たぞ!」
「せんぱい? 先輩!」
やっと気が付いたようだ。そして、いきなり目から涙を流し始めた。ちょっと待て。
「大丈夫だ、大丈夫だから」
花屋の前で泣く女の子に縋りつかれる男ってのは一大事だ。
どう見ても俺が別れ話を切り出している? いや、店員だから! 花屋の店員だからな!
まぁ、花屋の店員を泣かしてる男も大概だが。
* * *
暫く泣くと、さすがに妖子も落ち着いたようだ。
「先輩、ごめんなさい。暗くて、ちょっとパニックになっちゃいました」
「そうか。そりゃ仕方ないな。けど、もう大丈夫だ」
「はい」
どうも、暗転時間が長くてパニックになったようだ。
そりゃ怖いよな。
「帰れそうか?」
「はい」
「コマンドは分かる?」
「はい。大丈夫です。遷移解除」そう言って、妖子は帰っていった。
「あらっ?」
いきなり、けろっとした表情で妖子が言った。
「帰りましたね!」
「うん」
未来の妖子は問題ないようだ。
「お疲れ様です。確か、ちゃんと帰れた筈です」
「それは、良かった」
妖子は、すっかり普通の表情になっていた。
いつもの明るいはつらつとした女の子だった。ただ、涙の痕はあったが。
「あの先輩。離れたほうが」
まだ、俺たちは抱き合っていた。いや、軽くだが。
「あっ、すまん」
「もう少し、このままでもいいです」
妖子はおどけた顔をした。ふざけたりもするんだ。
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