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17 共感仲間を増やせ1
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春も三月半ば近くになって、かなり明るくなって来た。
時折吹く冷たい風も春の喜びの引き立て役でしかない。
「気持ちのいい日ね」と麗華。
今日は共感定期便は休みだ。
それで俺は麗華と近くの公園にピクニックにやって来た。
公園の梅は綺麗に咲いているし、彼方此方で春の装いが始っている。
この学園村の人たちは出歩くのが好きなのか、まだ春も早いのに公園にはチラホラと散策している人も見えた。
まぁ、俺たちも同じなんだが。
「やっぱり、出て来て正解だったでしょ?」
麗華は公園のベンチに座って言った。
「そうだな。俺はこのくらいの季節も好きだな」
そんなことを言う割に、ぐずぐずしていた俺なんだが。
特に珍しい細工もない素朴な公園だが、俺はこの公園が好きだった。
ベンチも控えめに端に置いてある感じが良かった。目の前の原っぱには子供連れの人達が遊んでいた。
麗華が弁当を広げようとしていたらフリスビーがスーッと飛んできた。
面白いんだけど、これ音がしないからちょっと危ないんだよな。まぁ、ブーメランほどじゃないが。
俺はすっと立ち上がって掴んだ。
「ごめんなさ~いっ」
遠くから、投げた本人と思われる人間が叫びながら走って来た。
「申し訳ありません。あっ」
見ると、それは夢野妖子だった。
「あら、妖子ちゃん」と麗華。
「ごめんなさい。手元が狂っちゃって」
「いや、大丈夫。えっと?」
後ろの子供を見て何だろうと思った、彼女の子供のハズないしな。
「あ、近所の子供なんです。ちょっと頼まれちゃって」と妖子が言った。
そういや、探偵社の仕事も手伝うとか言ってたし頼まれやすいのかな?
「そうなんだ。大変ね」と麗華。
「すみません、おじゃましました。それじゃ」そう言って、また子供と遊ぶ妖子だった。
「断れない性格なのかな?」
俺は弁当を食べながら原っぱを眺めつつ言った。
「ううん、どうだろ。子供も好きなんじゃないかな」と麗華だ。
気持ちが分かるのか? 何が面白いのか俺には全然分からないが、見ていて楽しそうなのは分かった。
「保母さんになってもいいかも」
「そうよね」
それから俺達は麗華の旨い弁当を食べたあと、ちょっとベンチでうたた寝してしまった。
* * *
「風邪ひきそう」
麗華もさすがに後悔してた。
暖かいとは言っても、まだ三月だ。夕方の寒さに凍えて俺達は探偵社で温まって帰ることにした。
「こんにちは~っ」
「あら、いらっしゃい。今日はどうしたの?」と神海希美。
「ちょっと公園でうたた寝しちゃって」と肩を震わせて言う麗華。
「あらいけない。ちょっと座ってて。温かいもの用意するから」と希美。
接客テーブルを見たら、そこには夢野妖子が座っていた。
「あら、妖子ちゃん」
「今日は、よく会いますね」と妖子。
今度はこっちの手伝いか。一日中大変だな。
「やあ、お待たせ。あれ、お前たちもいたのか」
意次はそんなことを言いながら、書類を片手にテーブルに座った。
「面倒な依頼でも?」と俺は聞いてみた。
「ん? いや、そういう訳じゃない。ちょっと、勧誘だ」
「勧誘?」
「ああ。妖子ちゃんには、いろいろ手伝って貰ってるんだが、もっとお願いしようかと」
どこか微妙な言い回しだなと思った。
「はい。これ飲んで温まって」
希美がホットココアを持って来てくれた。
「済みません」
「ありがとうございます」
俺達はありがたく貰って飲んだ。それでやっと人心地着いた。
* * *
「よく妖子ちゃんには探偵社の普通の依頼をこなして貰ってたんだが、お前達と同じ種類の仕事もできそうなんだ」
落ち着いた俺達を見て意次が話し出した。ちょっと驚きだ。
「そうなんですか!」
共感能力があるってことか。
いや、普通の探偵社の仕事が出来る花屋の店員ってだけで凄いんだけど。
俺は改めてまじまじと夢野妖子を見た。
俺達と同世代か、ちょっと下くらいだと思うが普通に可愛い女の子だ。この雰囲気で探偵の仕事をこなしていたと言うのか。まぁ、公園で子供と遊ぶ健康的な人間なのは知ってるけど。
意次が普通の仕事を頼んでたのも、その能力に気付いていたからなのか?
「龍一、そんなに見つめて失礼よ」麗華に注意された。
「あ、ごめん」
「いえ、だいじょうぶです」
妖子は、ちょっと恥ずかしそうにしたが、笑顔に不自然さは無かった。まぁ、顔見知りだしな。
「お前らも分かると思うが、彼女には特別な能力がある。俺たちと同じだ」と意次。
「分かるんですか?」俺には分からなかった。
「んっ? そうか、まだ言ってないコマンドがあったな。『共感チェック』だ」と意次が言った。忘れてたのかよ。アバウトだなぁ。
「共感チェック」と俺は言ってみた。
すると、俺たちの周りにオーラのような薄い光が見えた。同じように夢野妖子にも。
「何か光をまとってますね」
「解除は、『共感チェック解除』だ」
もちろん、すぐに解除した。光はすっと消えた。
「これで共感能力の素質が分かる。ただ、ちゃんと使えるかどうかは別だ。素質がある人間はそこそこいるが正しく使える人間は、かなり少ないのが現実だ」
意次はそう説明した。確かに、以前にもそんなこと言ってたな。どこが難しいのかは分からないが。
「それで、俺たちの仕事について一通り説明したところだ」
「そうなんですか?」
恋人でもないのに一族に入れていいのか?
「あぁ、彼女は神海一族だ」
俺の表情を見て意次が説明した。
なるほど。いろいろ教えてもいい立場なのか。
「それで、訓練をどうしようかと思ってたんだが、丁度いい。お前達に頼めるか?」と意次。
ちょうど良くないと思うが。
「いや……」
「はい、もちろんです!」と麗華。おいおい。
「うれしい! 麗華さんと仕事出来るんですね!」と妖子。
あれ? 俺のバディだけど?
「バディって、三人でもいいの?」
「いやいや、訓練だけだ。お前に会う前に麗華は訓練を済ませてただろう?」と意次。
確かに、既にちゃんと共感能力に長けていた。
「そういうことか」
「そういうことだ」
「頑張れよ!」と俺は言った。
「お前もな」と意次が言った。
「えっ?」
「当然、お前も参加だ。バディだからな。一人で行動しないって言っただろ?」
「ああ、これもですか」
「これもだ」
「よろしくお願いします、先輩!」と妖子。
先輩? そう言われると頑張らなくちゃと思う単純な俺。
「うん、よろしくな」と、さっそく先輩風を吹かせる俺。
「ふふふっ」と笑う麗華。見透かされてるし。
こうして、俺たちは共感能力の教官みたいな仕事をすることになった。まだ、初心者なのに。
まぁ、覚えたてなので教えられるけど。
時折吹く冷たい風も春の喜びの引き立て役でしかない。
「気持ちのいい日ね」と麗華。
今日は共感定期便は休みだ。
それで俺は麗華と近くの公園にピクニックにやって来た。
公園の梅は綺麗に咲いているし、彼方此方で春の装いが始っている。
この学園村の人たちは出歩くのが好きなのか、まだ春も早いのに公園にはチラホラと散策している人も見えた。
まぁ、俺たちも同じなんだが。
「やっぱり、出て来て正解だったでしょ?」
麗華は公園のベンチに座って言った。
「そうだな。俺はこのくらいの季節も好きだな」
そんなことを言う割に、ぐずぐずしていた俺なんだが。
特に珍しい細工もない素朴な公園だが、俺はこの公園が好きだった。
ベンチも控えめに端に置いてある感じが良かった。目の前の原っぱには子供連れの人達が遊んでいた。
麗華が弁当を広げようとしていたらフリスビーがスーッと飛んできた。
面白いんだけど、これ音がしないからちょっと危ないんだよな。まぁ、ブーメランほどじゃないが。
俺はすっと立ち上がって掴んだ。
「ごめんなさ~いっ」
遠くから、投げた本人と思われる人間が叫びながら走って来た。
「申し訳ありません。あっ」
見ると、それは夢野妖子だった。
「あら、妖子ちゃん」と麗華。
「ごめんなさい。手元が狂っちゃって」
「いや、大丈夫。えっと?」
後ろの子供を見て何だろうと思った、彼女の子供のハズないしな。
「あ、近所の子供なんです。ちょっと頼まれちゃって」と妖子が言った。
そういや、探偵社の仕事も手伝うとか言ってたし頼まれやすいのかな?
「そうなんだ。大変ね」と麗華。
「すみません、おじゃましました。それじゃ」そう言って、また子供と遊ぶ妖子だった。
「断れない性格なのかな?」
俺は弁当を食べながら原っぱを眺めつつ言った。
「ううん、どうだろ。子供も好きなんじゃないかな」と麗華だ。
気持ちが分かるのか? 何が面白いのか俺には全然分からないが、見ていて楽しそうなのは分かった。
「保母さんになってもいいかも」
「そうよね」
それから俺達は麗華の旨い弁当を食べたあと、ちょっとベンチでうたた寝してしまった。
* * *
「風邪ひきそう」
麗華もさすがに後悔してた。
暖かいとは言っても、まだ三月だ。夕方の寒さに凍えて俺達は探偵社で温まって帰ることにした。
「こんにちは~っ」
「あら、いらっしゃい。今日はどうしたの?」と神海希美。
「ちょっと公園でうたた寝しちゃって」と肩を震わせて言う麗華。
「あらいけない。ちょっと座ってて。温かいもの用意するから」と希美。
接客テーブルを見たら、そこには夢野妖子が座っていた。
「あら、妖子ちゃん」
「今日は、よく会いますね」と妖子。
今度はこっちの手伝いか。一日中大変だな。
「やあ、お待たせ。あれ、お前たちもいたのか」
意次はそんなことを言いながら、書類を片手にテーブルに座った。
「面倒な依頼でも?」と俺は聞いてみた。
「ん? いや、そういう訳じゃない。ちょっと、勧誘だ」
「勧誘?」
「ああ。妖子ちゃんには、いろいろ手伝って貰ってるんだが、もっとお願いしようかと」
どこか微妙な言い回しだなと思った。
「はい。これ飲んで温まって」
希美がホットココアを持って来てくれた。
「済みません」
「ありがとうございます」
俺達はありがたく貰って飲んだ。それでやっと人心地着いた。
* * *
「よく妖子ちゃんには探偵社の普通の依頼をこなして貰ってたんだが、お前達と同じ種類の仕事もできそうなんだ」
落ち着いた俺達を見て意次が話し出した。ちょっと驚きだ。
「そうなんですか!」
共感能力があるってことか。
いや、普通の探偵社の仕事が出来る花屋の店員ってだけで凄いんだけど。
俺は改めてまじまじと夢野妖子を見た。
俺達と同世代か、ちょっと下くらいだと思うが普通に可愛い女の子だ。この雰囲気で探偵の仕事をこなしていたと言うのか。まぁ、公園で子供と遊ぶ健康的な人間なのは知ってるけど。
意次が普通の仕事を頼んでたのも、その能力に気付いていたからなのか?
「龍一、そんなに見つめて失礼よ」麗華に注意された。
「あ、ごめん」
「いえ、だいじょうぶです」
妖子は、ちょっと恥ずかしそうにしたが、笑顔に不自然さは無かった。まぁ、顔見知りだしな。
「お前らも分かると思うが、彼女には特別な能力がある。俺たちと同じだ」と意次。
「分かるんですか?」俺には分からなかった。
「んっ? そうか、まだ言ってないコマンドがあったな。『共感チェック』だ」と意次が言った。忘れてたのかよ。アバウトだなぁ。
「共感チェック」と俺は言ってみた。
すると、俺たちの周りにオーラのような薄い光が見えた。同じように夢野妖子にも。
「何か光をまとってますね」
「解除は、『共感チェック解除』だ」
もちろん、すぐに解除した。光はすっと消えた。
「これで共感能力の素質が分かる。ただ、ちゃんと使えるかどうかは別だ。素質がある人間はそこそこいるが正しく使える人間は、かなり少ないのが現実だ」
意次はそう説明した。確かに、以前にもそんなこと言ってたな。どこが難しいのかは分からないが。
「それで、俺たちの仕事について一通り説明したところだ」
「そうなんですか?」
恋人でもないのに一族に入れていいのか?
「あぁ、彼女は神海一族だ」
俺の表情を見て意次が説明した。
なるほど。いろいろ教えてもいい立場なのか。
「それで、訓練をどうしようかと思ってたんだが、丁度いい。お前達に頼めるか?」と意次。
ちょうど良くないと思うが。
「いや……」
「はい、もちろんです!」と麗華。おいおい。
「うれしい! 麗華さんと仕事出来るんですね!」と妖子。
あれ? 俺のバディだけど?
「バディって、三人でもいいの?」
「いやいや、訓練だけだ。お前に会う前に麗華は訓練を済ませてただろう?」と意次。
確かに、既にちゃんと共感能力に長けていた。
「そういうことか」
「そういうことだ」
「頑張れよ!」と俺は言った。
「お前もな」と意次が言った。
「えっ?」
「当然、お前も参加だ。バディだからな。一人で行動しないって言っただろ?」
「ああ、これもですか」
「これもだ」
「よろしくお願いします、先輩!」と妖子。
先輩? そう言われると頑張らなくちゃと思う単純な俺。
「うん、よろしくな」と、さっそく先輩風を吹かせる俺。
「ふふふっ」と笑う麗華。見透かされてるし。
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