薄い彼女

りゅう

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11 共感定期便1

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 今日は『共感遷移』訓練の最終日だ。

「最後に最終確認の試験だ。これにパスすれば、お前は正式な『共感エージェント』だ」

 意次は俺に向かって宣言した。
 共感エージェントって何? アルバイトじゃなかったっけ?

「『共感エージェント』になったら、いよいよちゃんと仕事をして貰うことになる」

 意次は満足そうに言う。

「ヤバイ仕事人ですか?」
「そんな訳ないだろ。法律に触れるようなことはしないぞ」

 ヤバイ仕事人ではないらしい。そういや、波風立てないんだもんな。

「俺たちは、波風が立ちそうなのを食い止めるのが仕事だからな」

 意次は小声で言った。なんで小声なんだ?

「波風が立ってしまったら、その時点で俺たち的には失敗なんだ。だから、人知れず実行する必要がある」それ、やっぱり仕事人っぽいんだけど?

 あの力は法律で禁止されてはいないが、ちょっとズルい力だとは思う。使い方は気を付けないとな。

「正規のミッションを受けられるかどうかも、この最終試験で分かるだろう」
「そうなんですか?」

 そういや、一族に入るかどうかの決断もしなくちゃならないんだったな。

「最終試験は、共感定期便だ」意次が言った。

  *  *  *

 共感定期便というのは神海一族内のミッションだ。
 神海一族の連絡手段の一つなのだが、もちろん通常の通信設備を使ったものではない。
 共感定期便とは共感能力で過去から未来へ飛び、仕事の依頼を受けることだ。

 つまり、未来で解決困難な問題が発生した場合、過去で対策して貰うのだ。
 ただ、俺たちの共感能力は未来へは行けるが過去には行けない。
 過去に仕事を依頼するには、過去から依頼を取りに来て貰わなければならない。

 そこで『共感定期便』である。
 定期的に未来へ依頼を取りに行くのだ。

  *  *  *

 今の俺は、過去から共感遷移されることはない。
 始めたばかりなので未来へ行くだけだ。十年後の朝9時を目指して遷移して依頼を受けるのが俺の仕事だ。

 ただし、確実に到着する保証はなく、かなりアバウトな方式である。
 もちろん、緊急の案件などには対応できない。まぁ、そういう依頼は元々ないし受け付けていないとのことだが。

 昨日までは神海意次がやっていたので、今日から俺が担当することになった。

「まぁ、御用聞きみたいなもんだが、これしかやりようがない」と意次は言う。

 確かに、能力の性質上こうなるよな。

「未来と直接通信は出来ないんでしょうか?」

「そうだな。俺達のような存在がいるんだから、出来そうなものだよな。実際情報は移動している訳だし不可能ではない筈だ」
「ですよね」

「ただ、未来は不安定だからな」

 ああ、確かに未来を知った時点で歴史が変わるだろうな。

「一応、研究はしているようだが、実用化出来るかどうかは怪しいようだ」

「なるほど。難しそうですね。むしろ別の世界との通信のほうが簡単かも」

 別世界なら依存関係はないからな。

「ああ、そっちもそうだな」

「俺達も、複数の世界間で情報交換は多少するんだが、こっちはかなり難しい」

 別の世界と情報交換? どうするんだろう? 共感能力で出来るのか?

「そうなんですか?」

「まぁ、いつまで相手の世界があるか分からないけどな」と意次は怖いことを言った。

 確かに、他の世界のことまでは、面倒見切れない。
 この世界だって、結構危ないようなことを言ってたしな。まぁ、消されたりするのは特殊なケースなんだろうけど。

「とにかく、まずは共感定期便だ。最後の試験として十年後の神海探偵社へ行って、ボスから依頼を聞いてきてくれ」

「ボスって、神海意次さんですよね」
「その筈だな」と意次。

 ただ、違う可能性はある。
 っていうか、いつの日か違うボスになる日が来る筈だ。ちょっと怖い。

「じゃ、行ってきます」
「うむ。頼む! エージェント神岡!」

 おお、なんかそれっぽい。

「あれ? 起動装置は?」
「行った先で貰うことになってる。未来にある最新の起動装置だ」

 最新か! えっ? どゆこと? 共感遷移は意識だけ飛ぶんだから、貰えないよ?

「それは……」
「行けば分かる」と意次。
「わかるのよ」と麗華。

 行けば分かるって、行きつくまで不安なんだけど? ドッキリなのか?

 そうして、俺は麗華に見守られて仮眠室から共感遷移した。
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