多重世界の旅人/多重世界の旅人シリーズII

りゅう

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16 この夜まで

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 ヒカリゴケの発光現象だが、新たな発見もあった。
 遠く離れても減衰せずに光ることが確認されたのだ。つまり、長距離通信が容易なのだ。どうも、確率波の伝搬はこの世界の距離に関係ないらしい。そりゃそうか。

 これを受けて、多重世界通信機の本格的な開発がスタートした。

 また、この転移発光物質の有無で、それぞれの世界を識別できる可能性が出て来た。
 多くの種類の転移発光物質を用意しておけば、その発光パターンで世界を識別できるのではないかということだ。
 もちろん絶滅危惧種を使っているため、絶滅による変動は覚悟しなければならないだろう。また、生物である以上、長期保存が出来ない場合もある。苔の場合は胞子が使えるので長期保存に向いている。このため、苔を中心希少生物を集めることにした。

「流石に、多重世界通信機は他のチームに任せることにしたよ」ユリはちょっと残念そうに言った。
「ああ、そうか。こっちは多重世界の識別で手一杯だもんな」
「通信機は門外漢だしね」

 最近ユリと俺は一緒に研究していることが多い。
 ヒカリゴケで見付けた転移発光現象は他の生物でも実験をしているが、発光物質は多ければ多いほど世界識別能力が増すので、いくらあっても足りない。だから他の研究をする時間などないのだ。
 今日も、休日なのに俺の部屋に来て研究の話をしていた。
 研究者って、休みを取らないのかな? たまには息抜きしないのか?

「うん、うっかり大変な研究に手を出しちゃったって気はする」

 恨みがましい目で俺を見ないでほしい。泣きついたのお前だからな!

「でも、それだけ重要な研究だよ」
「そうよ! それよ! 他人に先を越されたくないし」
「だよな」
「初めての高等研究員らしい成果が大発見なのよ! やるっきゃないよね?」

「うん、分かった。俺も手伝ってやるから、頑張ろう」
「うん。ありがとう! 頼りにしてる!」

  *  *  *

「そう言えば、今やってるのって生物ばかりだけど、特定の発明品とか技術とかはどうなんだろうな?」

 俺はちょっと気になっていたことを言ってみた。

「どういうこと?」
「ああ、例えばメモリーチップとか、もっと言えば半導体の小片とかも転移発光物質の可能性があるんじゃないかってこと」

 ユリはちょっと考えてから答えた。

「どうかな~っ? 細かい違いとかでも反応するかな?」

「確かに、難しいか」
「絶滅しないとね」
「じゃ、レトロな技術とかならあるかもな」
「たぶん、ブレークスルーしてるようなものとか?」
「ああ、なるほど」

「流石に世界の存在確率にまで関与するような技術って難しいのかもな」
「そうね。でもなんで生物以外でやろうと思ったの?」
「いや、だって生物だと標本にするの大変だし、物質なら扱い易いかなと」
「あ、そうか。仕事が捗るのか。でも、この世界の文明レベルに近くないと反応しないよね、きっと」
「そうか。思いっきり相手を選びそうだな」

 生物なら存在するだけで意味があるが、人工物は理解されないと意味ないからな。そういう意味では逆に難易度が上がるか。

 ユリはぶつぶつ言いながら、サーバーから二人分のコーヒーを入れて来た。

「でも、そういう大量生産品が全宇宙で発光するのって変じゃない?」

 ユリはコーヒーカップを持ったまま窓の外を眺めつつ言った。

「ああ、確かにな。けど、それを言ったら生物だってそうだろう?」
「どっちも考えにくい気がする」

「数が多くなると検出不能になるとか?」
「ありそうね。とりあえず絶滅危惧種で頑張る。他に手を出す余裕なんてないし」
「そうだな」

  *  *  *

「この世界って俺の世界より進んでると思うけど、多重世界ではどのあたりなんだろうな?」ふと思い付いて俺は言った。

「どのあたりって?」とユリ。
「いや、だから文明レベルが」
「ああ、そっちね」
「そっちって?」
「確率論的な世界なら、存在確率のことかと」
「それはそうだけど」

「技術レベルや文化レベルが高いと存在確率は低くなりそうだよね!」
「やっぱ、そうなるよな。あ、逆の場合も存在確率が低くなるかも。平均が一番存在確率が高くなるとか」
「ううっ。その研究も面白そう。『文化レベルはポワソン分布するか?』とか。もう! リュウといると、やりたいことが増えすぎる」

 やりたいのは君だけど? 
 まぁ、文化レベルの測定方法なんてどうすんだろう? 感覚的にはわかっても数値化はむりだよな? 単純に人口とか、死亡率とか、平均寿命とかくらいか?

「ご愁傷さま」
「面白すぎる!」
「まぁ、さすがに簡単には分からないようなことだけどな」
「それだけに面白いんじゃない?」

「そうだけど今すぐに分からないのは焦れったいな」
「全部、自分で発見したいの?」
「まさか。人に投げるほうが楽しいよ」

「そうか。大丈夫、絶対手伝ってもらうから!」逃がさないんだ。

 だが、そんな暢気なこと言ってられたのは、この日までだった。
 もっと正確に言うと、この夜までだった。
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