7 / 52
7 四つのテーマ
しおりを挟む
防護スーツの使い方も覚えたので俺はいよいよ研究員として働くことになった。
何もしない生活に飽き飽きしていた俺には、やるべきことがあるのが嬉しい。
空間転移研究所第一研究室は二階にあり、広いベランダに面した解放感のある部屋だった。研究室にしては珍しい贅沢な作りだ。
「まずは、現状の認識を共有したい。リュウに起こったことについてだ」
研究室付属のレクチャールームでホワンが切り出した。
俺の参加もありチーム全員の認識を合わせておこうということのようだ。
「リュウの世界とこの世界は明らかに違うが、同じことも多い。これについては歴史年表を作って比較したいと思う。覚えている限りになるだろうが、どの程度違うのか把握したい」
ホワンはそう言ってメンバーを見渡したあと俺を見た。
「ああ、それは並行世界がどれだけ離れているか調べるってことだよな?」
俺はSF小説で読んだ知識から言った。
「いや、そこはまだ分からない。並行世界かどうかも未確定だ」
ホワンは研究者らしく慎重に言った。
「そうなのか?」
俺はもうホワンが確信しているのかと思ったが違うようだ。
ホワンは頷いてから話した。
「ちょっとリュウの話を聞いた限りでは、どうもそうではない印象を受けた」ホワンはちょっと曖昧な言い方をした。
「そうか?」俺は、思い当たらないが。
「そのあたりをもっと詳しく調査する必要がある」
ホワンは指を立て指すようにしながら言った。
「『この世界は並行世界か』ってことか」
「それが、まず大きなテーマだな」
ホワンは満足そうに言った。
まぁ、いきなり難題だ。
* * *
今のテーマが各自の中で消化された頃を見計らってホワンは続けた。
「次に、なぜ転移してきたのが『リュウとヒカリゴケの付いた溶岩』だったのかだ」
うん、確かになんで俺なんだ?
「もちろんそれは、指定座標のものが転移しただけなんだろうが。それだけじゃない何か意味がある筈だ」
「たまたま、そこにあっただけなんじゃ?」
「ん? ああそうか。リュウは知らないからな」
ホワンは自分は納得したように言った。
「通常、指定座標からの転移は球状に切り取られてくるんだ。今までの転移実験では、ほぼ球状に転移して来た。だが今回はそうならなかったんだ」
「な、なんだって~?」
球状に切り取られるだと~? 想像してぞっとした。
「今回は岩も切り取られた様子ではないし、リュウは五体満足で転移している。それは今までの転移とは全く違うんだ。そもそも、体積も異常に大きい」
流石に、それは知らなかった。俺はかなり危ない状況だったようだ。
「それで奇跡と言っていたのか」
「そういうことだ、新しい種類の転移なんだ」
「転移に種類があるのか」
「そうらしい。これはもう一つのテーマだな」
「『転移の種類』か」
そこで、ふと思い出した。
「あ、そういえば、転移の直前にヒカリゴケが黄色く光ったけど、何か関係あるかな?」
「なに? 本当か? それは聞いてないぞ」ホワンは、身を乗り出して言った。
「すまん、忘れてた」
「どんなふうに光ったんだ?」
「そうだな、ホタルみたいだった。あの苔は自分では発光しないから、何かが起こっていた筈だ」
「そうだな。確か、あの苔は光を反射するだけだよな」
「そうだ」
「ふむ。それが本当だとすると、また違うテーマかも知れないな」
「テーマだらけだな」
「それだけ、大きな事件なんだ」
「確かに」
「ヒカリゴケが発光した理由か」
「そうだな」
* * *
ホワンはここで少し休憩を入れた。
それぞれ思い思いに飲み物を用意した。
「後は、何故その場所だったのかだな。空間転移装置で指定した座標とは明らかに違う」
最初にホワンが言った。
「そうなんだよ。絶対、俺の計算は間違ってない。地表から転移する筈はないんだ」
トウカが思わず声を上げた。
「落ち着けトウカ。お前の計算違いだとは言ってない」とホワン。
「それ、全く同じ座標でもう一度やるんだろ?」
俺はふと言ってみた。再現テストだ。
「それは、危険じゃない? また誰かが転移して来たらどうするの?」
メリスは、別の人間も巻き込みそうで心配なようだ。
「確かに同じことをするのは、まずいだろうな」ホワンも消極的のようだ。
「いや、でも、同じことをして結果がどうなるかを知る必要はあるのでは?」
「確かにそうだが」
そこで俺は折衷案を出してみた。
「そういえば、向こうの世界の時刻は、ここと同じだったと思う。あの時間の遊歩道だから人が居たが、夜なら人はいないかも」
「ああ、なるほど。別の時間で実行してみようということか」とホワン。
「そうだね。それならやれそう」とマナブ。
「よし、まずはその条件で実験許可を取ってみよう。第四のテーマとしては『座標の誤差の理由』だな」
「あと、こっちから向こうへ送れないのか?」
俺は少し前から気になっていたことを言ってみた。
「ん? ああ、物質が交換になっている可能性か」
ホワンも納得したようだ。
「それはまだ実験していない」
「やっぱり、必要ですね」とマナブ。
どうも、そういう話はあったようだ。
「資源探査の一環として始めたから今までは一方通行でも良かったんだが、リュウを送り返すなら当然研究しないとだめだよな! よし『転移の方向』もテーマとしよう」
こうして、暫定的に中断していた空間転移実験だが、研究テーマも明確になり再度実施することになるのだった。
何もしない生活に飽き飽きしていた俺には、やるべきことがあるのが嬉しい。
空間転移研究所第一研究室は二階にあり、広いベランダに面した解放感のある部屋だった。研究室にしては珍しい贅沢な作りだ。
「まずは、現状の認識を共有したい。リュウに起こったことについてだ」
研究室付属のレクチャールームでホワンが切り出した。
俺の参加もありチーム全員の認識を合わせておこうということのようだ。
「リュウの世界とこの世界は明らかに違うが、同じことも多い。これについては歴史年表を作って比較したいと思う。覚えている限りになるだろうが、どの程度違うのか把握したい」
ホワンはそう言ってメンバーを見渡したあと俺を見た。
「ああ、それは並行世界がどれだけ離れているか調べるってことだよな?」
俺はSF小説で読んだ知識から言った。
「いや、そこはまだ分からない。並行世界かどうかも未確定だ」
ホワンは研究者らしく慎重に言った。
「そうなのか?」
俺はもうホワンが確信しているのかと思ったが違うようだ。
ホワンは頷いてから話した。
「ちょっとリュウの話を聞いた限りでは、どうもそうではない印象を受けた」ホワンはちょっと曖昧な言い方をした。
「そうか?」俺は、思い当たらないが。
「そのあたりをもっと詳しく調査する必要がある」
ホワンは指を立て指すようにしながら言った。
「『この世界は並行世界か』ってことか」
「それが、まず大きなテーマだな」
ホワンは満足そうに言った。
まぁ、いきなり難題だ。
* * *
今のテーマが各自の中で消化された頃を見計らってホワンは続けた。
「次に、なぜ転移してきたのが『リュウとヒカリゴケの付いた溶岩』だったのかだ」
うん、確かになんで俺なんだ?
「もちろんそれは、指定座標のものが転移しただけなんだろうが。それだけじゃない何か意味がある筈だ」
「たまたま、そこにあっただけなんじゃ?」
「ん? ああそうか。リュウは知らないからな」
ホワンは自分は納得したように言った。
「通常、指定座標からの転移は球状に切り取られてくるんだ。今までの転移実験では、ほぼ球状に転移して来た。だが今回はそうならなかったんだ」
「な、なんだって~?」
球状に切り取られるだと~? 想像してぞっとした。
「今回は岩も切り取られた様子ではないし、リュウは五体満足で転移している。それは今までの転移とは全く違うんだ。そもそも、体積も異常に大きい」
流石に、それは知らなかった。俺はかなり危ない状況だったようだ。
「それで奇跡と言っていたのか」
「そういうことだ、新しい種類の転移なんだ」
「転移に種類があるのか」
「そうらしい。これはもう一つのテーマだな」
「『転移の種類』か」
そこで、ふと思い出した。
「あ、そういえば、転移の直前にヒカリゴケが黄色く光ったけど、何か関係あるかな?」
「なに? 本当か? それは聞いてないぞ」ホワンは、身を乗り出して言った。
「すまん、忘れてた」
「どんなふうに光ったんだ?」
「そうだな、ホタルみたいだった。あの苔は自分では発光しないから、何かが起こっていた筈だ」
「そうだな。確か、あの苔は光を反射するだけだよな」
「そうだ」
「ふむ。それが本当だとすると、また違うテーマかも知れないな」
「テーマだらけだな」
「それだけ、大きな事件なんだ」
「確かに」
「ヒカリゴケが発光した理由か」
「そうだな」
* * *
ホワンはここで少し休憩を入れた。
それぞれ思い思いに飲み物を用意した。
「後は、何故その場所だったのかだな。空間転移装置で指定した座標とは明らかに違う」
最初にホワンが言った。
「そうなんだよ。絶対、俺の計算は間違ってない。地表から転移する筈はないんだ」
トウカが思わず声を上げた。
「落ち着けトウカ。お前の計算違いだとは言ってない」とホワン。
「それ、全く同じ座標でもう一度やるんだろ?」
俺はふと言ってみた。再現テストだ。
「それは、危険じゃない? また誰かが転移して来たらどうするの?」
メリスは、別の人間も巻き込みそうで心配なようだ。
「確かに同じことをするのは、まずいだろうな」ホワンも消極的のようだ。
「いや、でも、同じことをして結果がどうなるかを知る必要はあるのでは?」
「確かにそうだが」
そこで俺は折衷案を出してみた。
「そういえば、向こうの世界の時刻は、ここと同じだったと思う。あの時間の遊歩道だから人が居たが、夜なら人はいないかも」
「ああ、なるほど。別の時間で実行してみようということか」とホワン。
「そうだね。それならやれそう」とマナブ。
「よし、まずはその条件で実験許可を取ってみよう。第四のテーマとしては『座標の誤差の理由』だな」
「あと、こっちから向こうへ送れないのか?」
俺は少し前から気になっていたことを言ってみた。
「ん? ああ、物質が交換になっている可能性か」
ホワンも納得したようだ。
「それはまだ実験していない」
「やっぱり、必要ですね」とマナブ。
どうも、そういう話はあったようだ。
「資源探査の一環として始めたから今までは一方通行でも良かったんだが、リュウを送り返すなら当然研究しないとだめだよな! よし『転移の方向』もテーマとしよう」
こうして、暫定的に中断していた空間転移実験だが、研究テーマも明確になり再度実施することになるのだった。
0
あなたにおすすめの小説
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-
半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。
【リクエスト作品】邪神のしもべ 異世界での守護神に邪神を選びました…だって俺には凄く気高く綺麗に見えたから!
石のやっさん
ファンタジー
主人公の黒木瞳(男)は小さい頃に事故に遭い精神障害をおこす。
その障害は『美醜逆転』ではなく『美恐逆転』という物。
一般人から見て恐怖するものや、悍ましいものが美しく見え、美しいものが醜く見えるという物だった。
幼い頃には通院をしていたが、結局それは治らず…今では周りに言わずに、1人で抱えて生活していた。
そんな辛い日々の中教室が光り輝き、クラス全員が異世界転移に巻き込まれた。
白い空間に声が流れる。
『我が名はティオス…別世界に置いて創造神と呼ばれる存在である。お前達は、異世界ブリエールの者の召喚呪文によって呼ばれた者である』
話を聞けば、異世界に召喚された俺達に神々が祝福をくれると言う。
幾つもの神を見ていくなか、黒木は、誰もが近寄りさえしない女神に目がいった。
金髪の美しくまるで誰も彼女の魅力には敵わない。
そう言い切れるほど美しい存在…
彼女こそが邪神エグソーダス。
災いと不幸をもたらす女神だった。
今回の作品は『邪神』『美醜逆転』その二つのリクエストから書き始めました。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる