多重世界の旅人/多重世界の旅人シリーズII

りゅう

文字の大きさ
1 / 52

1 気付いたら、カプセルの中にいた

しおりを挟む
 その日、俺リュウ(32歳)は仕事の仲間に誘われて紅葉狩りをしていた。

 俺が務める会社の創立記念日に慰安旅行があり、その帰りに誘われたのだ。
 普通ならさっさと家に帰るところだが、ついうっかり浅間山の遊歩道にヒカリゴケがあることを教えてしまった。それで案内役を頼まれたというわけだ。
 口は災いの元だよな。

「リーダー、その貴重な苔は何処にあるんですか?」

 リーダーというのは俺のことだ。プライベートでリーダー呼びは止めてほしい。

「ちょっと待て。確か、この辺に……」

 俺は遊歩道を歩きながら、ときどき溶岩の割れ目を覗き込んでヒカリゴケを探した。
 このコケはちょっと環境が変わるだけで生育できなくなる絶滅危惧種だ。そのため以前と同じ場所で見付けられるとは限らない。

 そんな風にしてしばらく探していたが、なんとか岩の隙間に黄緑色に光るヒカリゴケらしきものを見つけた。綺麗に光を反射している。確か、こんな奴だ。

 『ヒカリゴケ』と聞くとホタルのように発光すると思いがちだが、これはそうじゃない。単に効率よく光を反射するだけだ。普通は光を吸収するだけの植物が、なんで大切な光を反射するようになったのか。そこには進化の謎が隠されているような気がする。

 そんなことを考えながら少し見とれていたら、その苔は突然黄色く発光し始めた。
 いやいや、そんな筈はない。この苔は発光なんてしない。
 しかし目の前の苔は明らかに発光していた。まるでLEDのように。

 怪訝に思った俺は、さらに岩の奥を覗き込んだ。

「ホタル?」

 その言葉を最後に、俺の意識は途切れてしまった。

 微かに仲間が俺を呼ぶ声が聞こえた気がする。

  *  *  *

 気が付くと俺は固い床に寝ていた。

 ついさっきまで浅間の遊歩道にいた筈だが、どうも意識を失っていたようだ。

 ちょっと状況がわからない。
 ともかく、俺は起き上がって周りを見回した。周囲は、全面ガラスのようなもので覆われていた。
 天井からの白い光が妙に眩しく外は暗かった。俺の足元にはさっき見ていたような溶岩が転がっている。
 どうもここは救護施設ではないらしい。ベッドもない。

 そう。俺は円筒形のカプセルの中に閉じ込められていた。

「なんだ! ここは!」

 思わず俺は叫んでいた。

  *  *  *

 天井の照明が明るすぎるせいで判り難かったが、カプセルの周りには人がいた。
 いたというか、何人も中を覗き込んでいた。
 しかも、全員が驚愕していた。

「こっ、これはどういうことだ!」年配風の男が叫んだ。

「なんで人間がいるんだ? 地底人か?」別の男が怪しいことを言う。

「ちょっとどうなってるのよ。普通の人間じゃない!」隣の女が、声を荒げる。

「そ、そんなこと言われても」若い男が委縮している。

「また、設定値を間違えたのねトウヤ! いい加減にしてよ!」もう一人の若い女が叱責した。

 覗き込んでいる人間は口々に勝手なことを言っているが、俺はそんなことはどうでも良かった。俺には差し迫った大きな問題があるのだ。

「おい! つべこべ言ってないで、こっから出せ!」

 俺は閉所恐怖症なのだ。

  *  *  *

「いや、すまなかった。本当に申し訳ない」

 カプセルの周りにいた人間のリーダーだという男が俺に謝罪した。
 あれこれと、よく分からない検査をされた後でだ。
 なんでこんな扱いをされているのか見当も付かない。
 怪しい組織に拉致されたのか?
 てか、極秘情報とか持ってないぞ?
 とりあえず、拷問とかはされていない。

「人間を転移させるつもりは無かったんだ」

 男はしれっと、凄いことを言った。『転移』って、あれだよな?

「転移? ここは転移の施設なのか?」

 魔法陣なんてなかった筈だが?
 いや、あったとしても本当に転移なんて出来ないか。
 もしかして、この男はマッドサイエンティストなのか?
 そういえば、どことなく怪しい気がする。
 まぁ、それにしては真新しい奇麗な施設だが。

「そうだ。ここでは空間転移の研究をやっている。まだ始まったばかりだが既に空間転移の実験に成功している」

 ホワンと名乗ったこの男は自慢げに言った。

「今回も、地中深くから岩石を取り出す予定だった」

 いつもは地下から岩石を取り出しているようだ。
 地殻の調査でもしているのか? 今回も、地表のものだが確かに岩石の転移には成功している。
 ただ、俺というおまけ付きだが。おまけのほうが高額だから違法だと思うぞ。

「俺は、遊歩道にいた筈なんだが?」
「いや、全く面目ない。どうして座標計算が狂ったのか分からないが、完全にこちらの落ち度だ」

 ホワンは本当に済まなそうに言った。

「体に異常は見られないようだが、最高レベルの補償をさせてもらうので勘弁してほしい。空間保安局から正式な謝罪と補償金が出るだろう」

 さらにホワンはディスプレイの検査結果を見ながらそう付け加えた。
 俺は聞きなれない言葉に戸惑った。

「空間保安局って何だ?」
「うん?」

「聞いたことがない」
「なんだと?」

 俺は『空間保安局』なんて聞いたことがなかった。
 しかし、この施設は誰もが知る国の機関『空間保安局』の研究所だという。
 自分たちは空間転移研究所第一研究室の研究員だと言うのだ。少なくとも、この男はそう主張した。
 怪しい奴は常に自信満々なものだな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-

半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。

【リクエスト作品】邪神のしもべ  異世界での守護神に邪神を選びました…だって俺には凄く気高く綺麗に見えたから!

石のやっさん
ファンタジー
主人公の黒木瞳(男)は小さい頃に事故に遭い精神障害をおこす。 その障害は『美醜逆転』ではなく『美恐逆転』という物。 一般人から見て恐怖するものや、悍ましいものが美しく見え、美しいものが醜く見えるという物だった。 幼い頃には通院をしていたが、結局それは治らず…今では周りに言わずに、1人で抱えて生活していた。 そんな辛い日々の中教室が光り輝き、クラス全員が異世界転移に巻き込まれた。 白い空間に声が流れる。 『我が名はティオス…別世界に置いて創造神と呼ばれる存在である。お前達は、異世界ブリエールの者の召喚呪文によって呼ばれた者である』 話を聞けば、異世界に召喚された俺達に神々が祝福をくれると言う。 幾つもの神を見ていくなか、黒木は、誰もが近寄りさえしない女神に目がいった。 金髪の美しくまるで誰も彼女の魅力には敵わない。 そう言い切れるほど美しい存在… 彼女こそが邪神エグソーダス。 災いと不幸をもたらす女神だった。 今回の作品は『邪神』『美醜逆転』その二つのリクエストから書き始めました。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

処理中です...