薄暗い闇の先に

瀬間諒

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22話 報復

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 いろんな職人たちがそれぞれ工房を開いている、街の外れにある出島の様な地区をザッカスは歩いていた。
 1軒の武器工房に立ち寄り、商品である剣や短剣が壁に幾つも飾られている。
 剣ばかり飾られいる壁で、足を止めて眺めていると、如何にも頑固親爺といった工房の主人が声をかけてきた。



「旦那、冒険者かい?気に入ったもんがありゃ手に取って見てくれても構わねぇよ」



 数ある剣の中から、見映えのしない地味な意匠な1本のブロードソードを手に取り、その剣身を確かめて、軽く素振りをする。



「やや軽いが、悪くない」

「旦那、それを選んだのか?なかなかの目利きだな」

「これをくれ」



 ブロードソードを主人に渡すと、次に短剣が飾られている壁の前に立つ。
 1本だけ他の物とは違って、柄に野薔薇のいばらと蔓が彫られた小振りの短剣が目に入る。
 短剣の長さも女の五十鈴には丁度良い。いつも自分の目が届く場所には居るとは限らない。現に今がそれである。護身用として持たしておくのも1つの手かもしれないと考え、それを手に取る。



「それはワシが悪戯心で作ったんだが、出来が思ったより良くてな。だが、このサイズじゃ女子供にしか向かんで、売れてないんじゃ」

「これもくれ」

「毎度あり!」


 ザッカスは言い値でいいと告げたが、主人は職人として自分の作った自信作が売れたのが余程嬉しいのか、多少利益があるぐらいの値段を言い、その金額を支払った。
 ご満悦でブロードソードと短剣を別々に厚地の布に包んで渡した。


  工房から出ると、わざと人が少ない通りを選び、そして入り組んだ裏路地を選んで歩く。
 気づいていた。
 ギルドから出てから、ずっと気配を消したつもりで自分の後をつける輩が居る事に。最初は2人であったが、工房に入った時にでも他の仲間を呼んだのであろう人数が増えていた。

 人気が無い袋小路となる場所に行き着くと、ザッカスは足を止める。つけて来た輩らは逃げ場所が無い事を確認したのか、一斉に現れる。
 逃げ道を塞ぐ様に6人の冒険者崩れの男たちが、それぞれに剣や短剣を手にして立つ。
 その中には、ギルドでザッカスに手首を潰された男が、首から布で腕を吊るし短剣を構えていた。
  その男が一歩前に出ると、殺気を露わにしてザッカスを睨む。



「てめぇは殺す。手首潰されて、ギルドまで追放になって冒険者廃業だ。きっちりお返しはさせて貰わねぇと気が済まねぇ」

「くだらん」



 平然として動じる事もないザッカスに、男は苛立つ。



「あぁ、治療費も貰わねぇとだな…有り金全部出せ。あと、装備品も全部出し置け」

「前置きが長い。殺して勝手に漁れば済むだけだろ」



 挑発するかの様に、嘲り含んだ言いように男は怒りで顔を真っ赤にした。



「てめぇを殺した後、あのガキは俺らが貰う。皆で輪姦まわして、奴隷として売っ払う。あんな貧相なガキでも、好きモノの変態爺の玩具ぐらいにはなるだろうさ」



 その言葉に、男の仲間たちは互いに顔を見合わせて、にやけた笑いを浮かべ、耳障りな声を出して低く笑いだす。



「今、なんと言った…」



 ぞくりとする程冷たく響く低い声がし、男たちの視線が一斉にザッカスへと向けられる。
 周りの空気が急激に湿り気を帯びて冷えてくる。
 まだ日中というのに辺りが薄暗くなり始め、男たちが周りを見回すと、自分たちが居るこの場所だけが薄暗くなっている事に気づく。



輪姦まわすだと……奴隷だと……玩具だと……」



 顎を上げ男たちを見下す闇色の瞳が赤く異様に光っている。
 激しく重苦しい威圧感と底冷えする殺気が男たちに向けられ、禍々しい程の瘴気がザッカスから流れてくる。
 男たちは、小刻みに身体を震わせて後ずさる。剣や短剣も震わせているが、構えは辛うじて崩さないでいる。



「お前ら如きが…俺を殺し…を慰み者にしようと言うのか……殺すぞ、人間」


 
 ザッカスの足元から、赤黒い霧が立つ。
 ぞわぞわと霧らしからぬ動きをしながら地を這い、男たちの足元へと移動し纏わりつく。
 恐怖で顔が引き攣り、手にしていた武器を落とし、走って逃げようとするが、それを赤黒い霧が許さず、底無し沼の如く男たちを悲鳴ごと跡形も無く引き摺り飲み込んいく。
 残された物は、落とされた剣や短剣の武器のみであった。
 赤黒い霧は、ザッカスの足元に吸われる様に消え去る。


 ザッカスはまるで何事も無かったかの様に、平然としてまた歩き始めた。





 
 




 
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