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9話 待ちわびて
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粗方燃やせる物は全て燃やした。念の為にパンツスーツのポケットの中や、バッグの中も確認した。
チリチリと小さく燃える音と共に揺らぐ炎を膝を立て腕を回し座って眺める。
燃やして処分出来ない物は、電源の入らないスマホ・時が止まった腕時計・小さなルビーのピアス・アパートの部屋や会社のロッカーとデスクなど鍵をまとめたキーケース・ポーチに入った化粧品・手鏡・小銭が入ったコインケース・バッグ。
それらの全てをバッグの中に入れて、自分の傍に置いている。
あと捨てる物といえば自分が着ている衣類とパンプスぐらいなものだ。
いつ戻るとは告げずに、ミルドという街に向かったザッカスはまだ戻って来てはない。
おそらく街に向かったのは、自分の衣服を調達する為なのだろう。
ザッカスの事を考えると、自分にしたあの行為を思い出し、顔が赤くなり頰が熱くなる。
「何よ…あのおっさん…無自覚なんだろうけど、無駄にエロ過ぎんのよ……」
主人となったザッカスを「おっさん」と呼び、口を尖らして小さく文句を言う。
おっさん呼ばわりしたものの、あれほどの精悍な顔だちと成熟した大人の男の色気を持ち合わせる人は、海外の映画俳優にもそうはいないだろうと、五十鈴は思っていた。
声も渋みのある響く様な低音で、耳元で囁かれた時は背中がぞくりとし小さく跳ねたぐらいだ。
あと10歳ぐらい若くて無精髭が無ければ、かなりのイケメン。さぞかしモテたに違いないはず。
だが、あの真っ暗な闇の様な冷たさは異質で、底が知れないというより、やはり不気味である。
五十鈴のお腹の虫がきゅるりと鳴く。
人間どんな時でもお腹が空くもんだなぁと思いつつ、ザッカスが残していった麻袋に手を伸ばして引き寄せる。
いそいそと結わえてある麻紐を解いて、中を探れば水の入った革袋と、昨晩食べたリリカの実が3個ほど入っていた。
1個を手に取り、齧りつきながら空腹を満たしていく。
やがて、辺りが夕暮れのオレンジ色に染まり始める。未だにザッカスは戻って来ない。夜になればまたあの得体の知れない生き物が動きだす。あれはきっと魔物に違いない。
加護の効果が出ているのであれば、あれらは自分には近づく事は出来ない筈と頭ではわかっていても、不安と怯えは関係なく五十鈴の中で生まれる。
「早く戻って来い……天然エロおっさん」
負の感情を紛らわすかの様に、戻って来ないザッカスへの八つ当たりを口にして、手にしていた短く折っていた枝を投げ入れる。
その枝は先程まで、五十鈴がガリガリと地面にいたずら描きをするのに使っていた枝であった。
「天然エロおっさんとは、俺の事か?酷い言われようだな」
突然、五十鈴の真後ろから低く冷たい声が降ってきた。
驚き慌てて振り向くと、そこにはザッカスの姿があり、何故五十鈴にその様な言われ方をされたのか理解できないと、右のこめかみに右の中指と人差し指を当てて、眉根を寄せていた。
「お、お帰りな、なさいましぇ……あは、ははは……」
五十鈴は、言葉を噛みながら引き攣った笑顔でザッカス見上げた。
全身から冷や汗がどっと噴き出し始める。
そして、いつの間にか負の感情は消え去っていた。
チリチリと小さく燃える音と共に揺らぐ炎を膝を立て腕を回し座って眺める。
燃やして処分出来ない物は、電源の入らないスマホ・時が止まった腕時計・小さなルビーのピアス・アパートの部屋や会社のロッカーとデスクなど鍵をまとめたキーケース・ポーチに入った化粧品・手鏡・小銭が入ったコインケース・バッグ。
それらの全てをバッグの中に入れて、自分の傍に置いている。
あと捨てる物といえば自分が着ている衣類とパンプスぐらいなものだ。
いつ戻るとは告げずに、ミルドという街に向かったザッカスはまだ戻って来てはない。
おそらく街に向かったのは、自分の衣服を調達する為なのだろう。
ザッカスの事を考えると、自分にしたあの行為を思い出し、顔が赤くなり頰が熱くなる。
「何よ…あのおっさん…無自覚なんだろうけど、無駄にエロ過ぎんのよ……」
主人となったザッカスを「おっさん」と呼び、口を尖らして小さく文句を言う。
おっさん呼ばわりしたものの、あれほどの精悍な顔だちと成熟した大人の男の色気を持ち合わせる人は、海外の映画俳優にもそうはいないだろうと、五十鈴は思っていた。
声も渋みのある響く様な低音で、耳元で囁かれた時は背中がぞくりとし小さく跳ねたぐらいだ。
あと10歳ぐらい若くて無精髭が無ければ、かなりのイケメン。さぞかしモテたに違いないはず。
だが、あの真っ暗な闇の様な冷たさは異質で、底が知れないというより、やはり不気味である。
五十鈴のお腹の虫がきゅるりと鳴く。
人間どんな時でもお腹が空くもんだなぁと思いつつ、ザッカスが残していった麻袋に手を伸ばして引き寄せる。
いそいそと結わえてある麻紐を解いて、中を探れば水の入った革袋と、昨晩食べたリリカの実が3個ほど入っていた。
1個を手に取り、齧りつきながら空腹を満たしていく。
やがて、辺りが夕暮れのオレンジ色に染まり始める。未だにザッカスは戻って来ない。夜になればまたあの得体の知れない生き物が動きだす。あれはきっと魔物に違いない。
加護の効果が出ているのであれば、あれらは自分には近づく事は出来ない筈と頭ではわかっていても、不安と怯えは関係なく五十鈴の中で生まれる。
「早く戻って来い……天然エロおっさん」
負の感情を紛らわすかの様に、戻って来ないザッカスへの八つ当たりを口にして、手にしていた短く折っていた枝を投げ入れる。
その枝は先程まで、五十鈴がガリガリと地面にいたずら描きをするのに使っていた枝であった。
「天然エロおっさんとは、俺の事か?酷い言われようだな」
突然、五十鈴の真後ろから低く冷たい声が降ってきた。
驚き慌てて振り向くと、そこにはザッカスの姿があり、何故五十鈴にその様な言われ方をされたのか理解できないと、右のこめかみに右の中指と人差し指を当てて、眉根を寄せていた。
「お、お帰りな、なさいましぇ……あは、ははは……」
五十鈴は、言葉を噛みながら引き攣った笑顔でザッカス見上げた。
全身から冷や汗がどっと噴き出し始める。
そして、いつの間にか負の感情は消え去っていた。
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