薄暗い闇の先に

瀬間諒

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2話 リリカの実

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 焚火の火を見つめながら、周りから聞こえてくる得体の知れない声に怯えつつも、男が戻ってくるのをひたすら待つ。
 今は自分を助けてくれたらしい男に縋るしか道は無いのだから…。

 時計が動いていないとわかっていても、無意識のうちに腕時計へと幾度となく視線を落としては小さなため息が溢れる。

 いつになったら、あの男は戻ってくるのだろう?
 まさかもう戻って来ないのでは?

 そんな不安がふと心の中に過ぎり、きゅっと唇を噛みしめた。
 その時、近くの茂みがガサリと音を立てる。
 ビクッと五十鈴の身体が音に反応して、小さく跳ねて音の方向に顔を向けると、あの大柄の男が麻袋らしき物を片手に持ってこちらに歩いて来ていた。

「寝ていなかったのか…」

 呟かれた声は、感情など無いように思えるほど低く冷たい。
 しかし、戻って来てくれた事に心に過ぎった不安が消えた。 

 自分を見て、明らかに安堵の溜息を吐く様子に男は眉根を寄せる。

 
「焚火の火が…消えるんじゃないかと思って…」


 男は腰に携えていた剣を外すと、どかりと座り込み地面に剣を置き、麻袋の口を広げて中からソフトボールぐらいの大きさの赤い木の実を取り出して、五十鈴に向けて軽く投げる。
 赤い放物線を描いた木の実を目で追い、両手でキャッチすると、投げて来た正面の男と木の実を視線を向ける。

 
「食え。リリカの実だ」

「あ、ありがとう…」


 リリカと呼ばれた赤い木の実は、よく見るとリンゴの様な形をしており、五十鈴は恐る恐るその実を齧っだ。
 少しばかり酸味がきついが、味は間違いなくリンゴと同じであった。
 五十鈴はそのままリンゴもどきのリリカの実を夢中になって食べる。
 怯え・心細さ・不安と言う負の気持ちが、男が戻って来た事により薄らいで、空腹感が持ち上がってきたのだった。

 男は黙したまま目を細めて、その様子をじっと見つめている。
 その目や表情には何の感情らしきものは無いが、リリカの実を夢中になって食べている五十鈴を観察していた。 

 やがて暗かった空が白み始めてきて、辺りが次第と明るくなってきた。
 リリカの実を食べ終わると、その果汁で濡れた口の周りと手をバッグに入れいたハンカチで拭いて、男へと顔を向けて頭を下げた。



「ありがとうございます」

「礼ならさっき聞いた」



 会話が止まる。
 聞きたい事が山とある。
 男は元々無口なのか、五十鈴は会話を続けようとしたが、男の醸し出す薄暗い雰囲気もあって続ける事が出来ない。
 どうしたらいいものかと、考えあぐねる。

 次第に明るくなる連れて、男の容貌がはっきりと見えてきた。


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