ネトゲ世界転生の隠遁生活 〜俺はのんびり暮らしたい〜

瀬間諒

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47話

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 口の中の血の味に顔をしかめて、シャツの袖で濡れた唇を拭いながらオロフを睨む。
 何年経っても血の味と匂いは好きじゃないし、自分の中の何かが騒めき落ち着かなくなる。
 俺の口調の豹変に酷く驚いたみたいで、口を開けたままフリーズしている。
 そら、驚いたって仕方ないわな。
 引き篭りを決めてから、粗野だった自分を変えて少しは穏やかになろうと口調から直した。とは言え、元々はモデルにした某アニメの悪役キャラも穏やか口調だったから真似をしたんだけとな。でも、この500年以上は1度とて人前で素の口調を出したことがないからなっ!
 まぁ、人前に出ることがなかったんのもあるけど。
 


「おい、クソガキ。人が大人しく甘い顔してりゃ好き勝手にしやがって…」


 オロフの頭を鷲掴みにして、枕にその顔面を力ずくで押しつける。
 息が出来ないで抗おうとして手足を必死で動かしているけど、そんなの俺からしてみりゃ抵抗の内じゃない。
 泣こうが喚こうが止める気なんてさらさら無い。
 只今、俺、絶賛ブチ切れ中。
 兎に角腹が立って仕方ないってーのっ!!


「てめぇ、ふざけてんじゃねぇよ。何をまた1人で暴走してやがるんだぁ?俺のことが好きなら何してもいいのかよ?魅了チャームなんざ小細工使いやがって…クソッ」


 本当に好きならそれなりの手順を踏んで、小狡い真似をしないで俺をちゃんとその気にさせてみろってんだよ。
 いやいやだからと言って、その気にはなんねーけどさ!


「おい、何とか言ってみろよ!」


 髪を掴んで押しつけていた枕から引き上げると、オロフは荒く呼吸し涙目になっていた。
 けど、その口は固く閉ざされたまま視線を外して俺を見ようとしない。
 それがまるで不貞腐れて拗ねた子供みたいで、余計に苛つかせてくる。

 いい歳した大人がとる態度かよ…ホント、ムカつくっ!
 どうせちょっと殴られる程度で済むとか甘っちょろいこと考えてんだろ…マジで俺のことを舐めきってんのなっ!

 小さく…だけど深く息を吸い込んで、自分の中の奥深く封じ込めていたモノをほんの少しだけ解放した。
 それは殺気。
 500年以上もの間使う必要がなかったモノだ。
 俺が放つ殺気を即座に感じたオロフの身体がガチガチに固まり、小刻みに震えだす。
 涙で潤んでいた紫の目が大きく見開かれて、恐怖と怯えの色が見えた。
 唇もわなわなと震えている。

 
「し…ない…」

「あん?何?聞こえねぇよ、ちゃんとわかるようにハッキリ言え。てめぇ、このままブチ殺すぞ。てめぇだから俺が本気で殺すとかねぇとか思うなよ」


 殺しても経験値ロスがないノーリスクなスキル【復活リザレクション】を使って蘇生はする…つもりだ、一応。
 オロフは俺が拾って育てた息子同然な訳で、離れていた期間あったけどさ、そりゃそれなりに情てもんも当然ある。
 まぁだから、尚更腹が立ちまくりなんだよなっ!


「し、仕方なった…んだ」

「はぁ?何が仕方ねぇんだよ」

「手っ取り早く…あ、なたを自分のものにするには、ああするしか…」

「何それ、俺の身体だけ欲しいって意味か?ふざけんな、それじゃてめぇの自己満足に俺の身体を使いてぇだけか?俺の気持ちは無視ってか?あぁ、なるほど好きとか言ったのは全部口実で嘘ってことか」

「違うっ!!スルジェが好き…それは本当…身体から先に僕に夢中になれば…いつかは…気持ちもついて来てくれると…」


 は?何んじゃそりゃ…。


「馬鹿だ馬鹿だとずっと思っていたけどな、あーもう…ここまで馬鹿だとは思わなかったわ」


 なんと言うか…呆れて果てて溜息が出る。
 オロフの髪を離し解放してやり、ベッドの縁に座って片手でガシガシと自分の髪を掻き毟る。

 あぁ、もうっ!!
 だから順番もやり方も何もかも全部違うだろうがっ!!
 こいつ…どうしたらいいんだよ…全くっ!!
 えーと…要はあれだろ?
 こいつがしようとしてたのは、なんだかんだと素っ飛ばして俺を快楽堕ちかなんかにさせて自分から逃げれないように囲い込むやつだよな?
 おいおい、それってちょいとばかし病んでないか?
 なんかヤバくね?
 あれか!俺の育て方が悪かったのか?!
 俺が厳し過ぎて間違った方向に行ったのか?!
 や、でもそれなら俺だって……。

 頭の中でぐるぐると養父オヤジと暮らした日々が思い出される。
 ザァーっと血の気が引いていくのを感じる。

 ああぁーー。
 完璧に俺の育て方が甘かったわ…。
 よく俺…病まなかったな…俺、凄いわ…自分で自分を褒めてやりたいわ。


「あ、あの…スル…ジェ?」


 少しばかり震えた小声で呼ぶオロフに振り返り、ベッドに突っ伏したままで、上目遣いでおどおどと様子を伺っているその姿が目に入る。


「2度と同じ事はしないで下さいね」

「え…やだ…」


 ビキッと米神の血管が浮き上がるのを感じつつ、ゴチンと1発頭に拳を落とす。


「し、しません…」

「宜しい。取り敢えず私にも少しは責任があると思ったので…今回は無かったことにしますけど…この際はっきり言っておきます。私、貴方の嫁にはなりませんよ。かと言って夫にもなりませんから」

「うっ…」

 お前…やっぱそっちに考えを向けかけたか…。
 このお馬鹿が…俺は自分よりデカい男を抱く趣味はねーんだよ。
 や、だからと言って抱かれるのもごめんだけどさ…。

「貴方の気持ちはわかりましたが、応える事はありません。貴方は私の息子同然です。それ以上でもそれ以下でもないです。なので、諦めなさい」

「それは無理…諦めない…スルジェが振り向いてくれるまで、貴方の傍でいつまでも待つ…」

「待っても無駄なんですけどね…こんな私へ執着した処で辛いだけでしょうに…全く貴方はどうしようもない不憫な子ですね」


 う~ん…諦めるつもりは全く無しですかい…まぁ、その健気さに憐みを感じない訳でもないけどさ…。


 背後からおずおずと緩く抱き締めてくる腕の温もりを感じつつも、どうやって諦めさせるかと悩んでいると何やらオロフの手が妙な動きをしている。

 ん、あの…オロフさんや…どこをお触りですかね…?

 俺の鎮静化したムスコさんへ向かって下腹辺りを撫で始めているのが目に入った。



「オロフ、この手は何ですか?」

「正々堂々と触ってる。小賢しい事はもうしない。普通にその気させればいいとわかった」

「……」

 こりゃ、ダメだ。
 そうじゃないだろ…身体からって考えは変わらないって事ね…はぁ。
 こいつに僅かでも憐みを感じた俺が大馬鹿だったわ。


「だからですね、気持ちの問題でしょうが…それに何度も言いますが、我が子に恋人や伴侶としての感情は倫理的に無理ですから」

「意味がわからない」

「だからぁ、親子なんですから恋愛感情なんて持てないんですよ」

「血は繋がってないから問題ない」

「気持ちの問題って言ってるでしょ。いい加減に離れなさいな」

「親子じゃなければいいなら、親子の縁を切る」
 
「それ…本気ですか?」


 いきなりの言葉にぎょっとして、振り返ってオロフの顔を見てしまう。真剣な表情に真っ直ぐに見つめてくる紫の目。その目に俺の驚いてる顔が映っているのが見えた。


「本当に縁を切るつもりですか?本当にそれでいいんですね?それがどういう意味かわかってるんですね?」

「構わない。スルジェが振り向いてくれる可能性が出来るなら」

「そう、ですか…」
 

 あぁ、そうか…最初にを使うべきだったんだ。
 独り立ちの別れをした時に使うのが一番良かったんだろうけど、あの時はまだ使えなかったから。
 本気で縁を切ると言うなら、使うべきだよな。それが本当にオロフの為になるとは言いがたいけど、本人が望むなら仕方ない。
 俺だって一時はそれを願ったこともあったんだし…うん、俺への執着から解放させてやるべきだ。


「スルジェ?」

「お前ってホントお馬鹿だけどさ、俺はお前が可愛くて仕方なかったよ。縁を…繋がりを切っても、やっぱお前は俺の息子には変わりはねーよ。お前の気持ち、応えてやれなくてごめんな。次は好きな子が出来たら、ちゃんと口説いてからエッチするようにな。無理強いは絶対にダメだぞ」

「それ、どういう意味?」
 
「ん?言葉のまんまだよ。いい子だから目を閉じてな。チューしてやっから」

「どうして、そんな泣きそうな顔なの?」

「気のせいだよ。ほら、目閉じろって」



 オロフの銀の髪を梳くように撫でると、訝しげに見つめてくる紫の目を閉じさせてて、両の目蓋の上に軽くキス。その額に右手を当てがい、呪術師シャーマンのスキル【忘却オブリヴィオン】を使う。
 ぼんやりと右手を当てた額がオレンジ色に光る。
 これで今までの俺の記憶は消える。記憶の中の育ての親は俺ではなくエルフの爺さんの姿にすり替えた。
 オレンジ色の光りが消えると、トランス状態になっているオロフの耳元で囁く。


「今日一日外出しないで、ずっと宿舎で過ごした。このまま真っ直ぐ宿舎に戻り、そしてベッドで深い眠りに着く。朝目覚めればスッキリした気持ちになる。さぁ、行きな」



 バイバイ、俺のお馬鹿で可愛い息子。






ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ご無沙汰しておりますm(_ _)m

このご時世の中、多忙になり過ぎて更新が全く出来ない状態になりましたが、漸く更新出来ました。
とんんでもなく遅くなり申し訳ありません。

次の更新は1週間以内の予定となります。

感想のお返事も出来ておりませんが、全て拝読させて頂いてます。
モチベーションに繋がるので、とても感謝しています!!


これからも宜しくお願いします。



 
 

 
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感想 88

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みんなの感想(88件)

ここなっつ
2023.01.11 ここなっつ

とっても面白いです!!
オロフ、報われてほしい、!
スルジェのこと、いつか思い出してほんとに個人的だけど結ばれてほしい

解除
Καzυ
2022.06.25 Καzυ

とても面白かったです。続きが物凄く気になります。更新頑張って下さい。楽しみにしてます。

解除
yasu
2022.06.11 yasu

続きがとっても気になります。
本当にオロフは、スルジェのことを忘れてしまうのでしょうか。
想いが強ければ、いずれ思い出すとか。
親同然のスルジェを忘れてしまうのは、ちょっと悲しいから。
できたら、いつか思い出してほしいかなぁ。

それにしても、色んな人から執着されるのって、神様のせいか?

解除

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