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37話

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「「お帰りさないませ、旦那様」」


 玄関の前でフリオさんと息ぴったりにハモって、頭を下げてお出迎え…。
 なんかこの台詞…メイドカフェのメイドさんみたいだ…俺、メイドカフェ行った事ないけどな…。
 微妙に小っ恥ずかしい。
 メイド服を着せられている訳じゃなんいだから、これぐらい耐えないとだ。


「あ、あぁ…た、ただいま?」
 

 えっ?何?何よっ?!
 何で一斉に全員が俺を見てんのっ。
 視線がめっちゃ痛いんだけど…。
 ちょっと不躾過ぎないか?
 それにアルベルトさん…何故「ただいま?」って疑問符が後ろに付く。
 


「恐れ入りますが、皆様。私の顔に何か付いていますでしょうか?そうでありましたらお教え頂きたく存じます」


 人の顔をジロジロ見んなよっ!
 猫みたいにシャーッ!って頭の中で威嚇のイメージを浮かばせつつ、無表情で冷たく言うと効果てき面。
 一斉にばつが悪そうに視線を外して、痒くもない頭や顔や腕を掻いて誤魔化し始めた。


「皆様を広間にご案内してもよろしいでしょうか?」


 これはいかんと思ったのかフリオさんが前に1歩出て、にこやかに申し出た。

 気を遣わせてすみません、フリオさん。
 

「皆、先に広間に行っておいてくれないか?私は着替えをしてくる。フリオ、皆を頼む」

「かしこまりました。ささ、皆様、こちらへ…」


 フリオさんがハーメルンの笛吹き男みたいに、ぞろぞろと引き連れ始める。俺もその後に続こうとしたらアルベルトさんに呼び止められてしまった。


「スルジュ、ちょっとこっちに来なさい」

「はい?」


 腕を掴まれると、そのまま誰も居ない応接室に連れて行かれてしまった。
 俺、フリオさんの手伝いしないといけないんだけどなぁ。
 応接室の扉を閉めると、いきなりアルベルトさんが大きな溜息を吐き、俺の背を壁に押し付けてきた。
 んん?これはまさしく壁ドン。長い人生で2度目だよ、これ。


「なんで…」

「なんで?」

「なんで…そんな格好でいる」

 あ、あれ?声…めっちゃ低くない?なんか顔怖いんですけど…。
 アルベルトさん、もしかして…おこ?おこなの?
 何故に…おこ?
 俺の可愛いらしい些細な威嚇がバレた?

「イネスさんがいらっしゃらないので、その代わりに私が給仕のお手伝いする事になっただけなのですが…」

「私は君に給仕させる為に、ただ単に雇っている訳じゃない」

 いやまぁ、そりゃそうなんだけど。ちゃんとわかってるし。
 でもさ、困ってんのを助けるぐらいよくね?
 そのぐらいいいじゃん。

「はぁ…ですが、フリオさんお1人では大変ですし…」

「フリオだけで十分ことが足りる。人手が足りないならエッダやダフネがいるだろ。君は必要ない」

 何それ。
 ちょっと今のはカチンときたぞ。

「それにわざわざめかし込んで…一体どういうつもりなんだ?誰かに色目でも使う気か?まるで盛りがついた雌犬のようだな。あぁ、もういい。さっさと自分の住まいに戻れ」

 ちょい待て。なんだそれは。聞き捨てならない。
 必要ない?
 めかし込む?
 色目?
 雌犬?
 さっさと戻れ?
 はぁぁぁぁぁぁぁぁ??
 なんか俺が男漁りする気まんまんて感じに思われてね?
 俺、男だし!男に興味ねーしっ!つーか、女にもあまり興味ねーけどさっ!
 冗談じゃないっ!馬鹿にすんなっ!
 人を発情期迎えた動物みたいな扱いしやがって…。
 結局のところ、こいつも気位の高いお貴族様と同じかよ。違うと思ってたのに。
 ムカつく。ムカつく。ムカつくっ!!

「お断り致します。私は旦那様に必要とされなくてもフリオさんには必要とされております。エッダさんやダフネさんの様なうら若い女性をお酒で酔われた男性ばかりの場で給仕させるのいかがなものかと。旦那様の事を主人として好ましく思っておりましたが、どうやら私の目が曇っていたようです。どうぞ私の事などお気にかけず旦那様はホスト役に徹して下さいませ。私は勝手にフリオさんのお手伝いをさせて頂きますので」

「なんて言い種だっ。人の気持ちも知らないで…」

「それは旦那様のお気持ちでございますか?わかる筈がございません。私は所詮下賎な流浪の民でございますので。では、お伺い致しますが旦那様には私の今の気持ちがおわかりで?あぁ、これは失礼致しました。貴族で御立派な近衛騎士団の団長様とならば当然おわかりのことでしょうとも」
 
「私を侮る気か?」
 
「侮る?とんでもございません。寧ろ旦那様が私を侮っているのでは?どうやら旦那様の目には私が発情期の犬か猫のようにお映りになっておられるようですからね」

「そんなことは言ってない」

 言ったじゃん!
 この野郎…ぬけぬけと否定しやがって…。

「舌の根が乾かぬ内に、ご自分の言をお忘れで?はぁ…もう結構です。これ以上旦那様とお話をする気は私にはございません。失礼致します」


 お偉い団長様の横をすり抜け、応接室から出ようとしたところでまた腕を掴まれ力任せに後ろに引っ張られる。
 振り向きざまに「しつこいっ!」と怒鳴ろうと口を開いたが、柔らかい感触に口を塞がれた。
 一瞬、何が起きたのかわからなかったけど、超度アップの団長様の顔が目に入ってキスされている事に気づいた…。

 不意打ちのキスはまるで八つ当たりしているみたいに荒々しくて、俺の口の中を滑る舌が一方的に蹂躙し、歯が唇に噛みついてくる。優しさの欠片もない。
 無理矢理キスされるのも2度目だけど、あのおっさんの方がまだ優しく暖かく思えるぐらいだ。
 これはもはやキスという名の暴力だ。
 俺に対する腹いせのつもりか。
 なんだろ…冷静になっていくと同時に心がどんどん冷えいく。抵抗するのもアホらしく感じて失せる。
 気が済むまで好き勝手にするがいいさ。


「スル…ジュ?」


 漸く俺の無抵抗無反応に気づいたのか唇が離れた。
 右手の甲で濡れた唇を拭って、腕を掴んでいる手を払い除ける。


「お気がお済みのようで何よりです」

「違う…これは違うんだ」

「どういう意味かわかりかねます」

「だから、説明させてくれないか?」


 再び腕を掴もうと伸ばしてきた手を反対に掴んで捻りを入れて豪華な絨毯の上に投げ落とす。
 大きな身体の背が絨毯に打ち付けられ、衝撃で息を詰まらせながら俺を見るその顔は驚きで目が見開かれている。
 そりゃそうだろな。
 Lv4と自分が鑑定した相手に易々と投げ落とされたんだ、驚いて当然。


「旦那様、気安く触れないで頂けますか?」
 

 

 
 
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