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25話

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 気にしたところでどうにかなるような問題じゃないし、あのおっさんが俺を直ぐに捜し出せるって訳じゃないし…。
 いざとなったらまた叩きのめしたらいいさ…簀巻きにして川に流してもいいな。

 ブルーになった気持ちを切り替えて俺はグティエレス邸に向かう事にした。

 もう夕方近くだけどアルベルトさん帰宅してるといいんだけど。
 会ったらちゃんと謝罪して、きちんとなんちゃって庭師の件とか色々と話をしないとだ…。
 あとイネスさんに食事のお礼を忘れずに渡さないとだ。セーフハウスから出かける前に森で雉を2羽獲ってきて、アイテムボックスに入れてあるけど、それで大丈夫かなぁ…。
 
 なんて事を考えながら歩いている内に、グティエレス邸に到着っ!
 門を通る前に、右顔に貼ってある新しい火傷痕シールのチェック!
 うん、大丈夫。ちゃんと貼っ付いてる。
 雉が入った布袋もこっそりアイテムボックスから出して、準備OK。
 さて、行きますか。

 門を通って玄関へ向かって歩いていると、ダフネさんとエッダさんの2人がせかせかと玄関先を掃除している姿が見えた。夕方近くに掃除って…来客でもあるのかな?


「こんにちは。昨日はお世話になりました」


 被っていたフードを外して2人に声をかけ頭を下げると、掃除をしている手を止めて酷く驚いた顔をして俺を見たが、直ぐに2人は笑顔になる。俺、なんか驚かせるような事したっけ?まぁ、色々とやらかしてるけどさ。


「「いらっしゃいませ、ドーン様」」


 声を合わせて頭を下げられたので、俺も再度頭を下げた。
 なんかめっちゃガン見されてる感はあるけど、多分俺に興味津々って感じなんだろう。


「いきなりの訪問で申し訳ありません。お会いするお約束はしておりませんが、グティエレス様は御在宅でしょうか?」
 
「申し訳ございません。旦那様はまだお戻りになられておりませんが、ドーン様に旦那様からの言付けがごさいますので、フリオを呼んで参ります」


 巻毛の黒髪で小柄の可愛いらしいダフネさんが、頭を下げて応じてくれると扉を開けて邸宅の中に静々と入ったが、扉が閉まると同時にダッシュで走っていく足音と共に大声で「ドーン様が来られましたぁ!」と叫んでいるのが聞こえてきた。
 

「大変失礼致しました…」

「いえいえ、お気になさらず。元気いっぱいで微笑ましいかと」


 流石に行儀が悪いと思ったアッシュグレーの髪の知的眼鏡美人なエッダさんが深々と頭を下げて詫びてきたので、素直に思った事を口にした。


「…あの、重々不躾で失礼かと思いますが、お聞きしてもよろしいでしょうか?」

 え?何っ?何が聞きたいの?
 やらかしてる事には触れないで欲しいなぁ…。

「はい、お答え出来るものでしたら何なりと」

「昨日の事なんですが…」

 うっ、やっぱやらかした件についてですかね…。

「旦那様に言い寄られて逃げ出したクチですか?」

 はい?言い寄られてって…。
 誰が誰に?アルベルトさんが俺に?
 ないない、それは先ずありえないっしょ。
 何言ってんだ?この眼鏡娘っ子は。
 それに、逃げ出してもないぞ。ちゃんと挨拶したぞっ!

「何か誤解されているようですが…グティエレス様が私相手にそんな事をされる訳がありませんよ。それに逃げ出してもいませんが…」

「はぁ、左様ですか……脳筋…思ったよりヘタレか…それとも今更慎重になったのか……しかし、まさかの重度の鈍ちんとは…」
 

 腕を組むと首を傾げて何やら考えながらブツブツと呟き始めたエッダさん。


 脳筋?ヘタレ?鈍ちん?
 おーい…主人をディスってないか?
 鈍ちんってのは、何か俺が言われてる気がしてるのは気のせい?俺のガラスのハートにグサっと刺さったんですけど…。

「エッダさん、あのですね…心の声が出てませんか?」

「はて、何の事でしょうか?」


 ハッとしたエッダさんだが全然取り繕う様子はなくて、開き直ったかの如く悪い顔して笑った…。
 この眼鏡娘っ子、こえええぇっ!
 でも、嫌いじゃないぞこういうタイプは。
 何だろ…エッダさんから妙なシンパシーを感じる…。


「いえ、何でもありません。きっと私の気のせいですね」
 
「ええ、そうですね。きっと気のせいです」


 俺たち2人は黙って笑顔のまま見つめ合う。
 多分エッダさんも俺と同じ妙なシンパシーを感じているのかもしれない。
 俺たちは、ただひたすら見つめ合う。
 俺とエッダさんとの間に、風に舞った1枚の木の葉がひらひらと地面に落ちた瞬間、互いの目はカッと見開き同時に互いの両手をガシッと握り締め合う。


「「友よっ!」」

「ドーン様、やはり私と同じツッコミ体質ですね」

「ええ、貴女と同じツッコミ体質です。様なんて敬称は入りません。スルと呼んで下さい」

「わかりました、スルさん。では、私の事はエディとお呼び下さい」


 互いに淡々してと抑揚の無い口調ではあるが、俺たちの目はキラッキラに輝いていて、何度も繋いだ手を上下に揺らして芽生えた友情に喜びを感じ、お互いを愛称で呼び合う事になった。


 友だち、ゲットだぜーっ!!ヒャッハァー!!


 扉が開く音が聞こえると、俺たちは変な誤解をされないよう直ぐに手を離して、互いに頷き合う。
 ダフネさんを伴ってフリオさんがやって来た。
 フリオにもちゃんと謝罪しないとだ。


「フリオさん、昨日は大変失礼致しました。ご挨拶もしないでお暇しまして…」
 
「いえいえ、とんでもございません。お気になさらず。正直申しますと、もうお出でにならないかと思っておりました」
 
 ん、何でだ?あれ?
 あっ…エディさんが言ってたように、俺が逃げたとか思われてたのか…。
 はて?何故そうなったのか…。

「食事のお礼と不作法しましたお詫びに、こちらをどうぞお納め下さい」


 エディさんと握手した時に落とした布袋を拾って、フリオさんに差し出すと、反対に恐縮した感じで礼を言われ受け取って貰えた。良かった。
 ちゃんと血抜きしているから、捌くのは楽だと思うよ。うん。


「旦那様からの言付けですが、旦那様が帰宅するまで中でお待ち頂くように申し付かっておりますので…出来ればお待ち頂きたいのですが…」

 でも、来客あるんじゃないの?

「いえ、今日はこのままお暇させて頂きます。これからご来客があるご様子ですし、明日またお伺いさせ頂いても構いませんか?」
 
「それでは、私が旦那様に叱られてしまいます…」


 フリオさんが叱られるのは気の毒だと思い、どうしようかと悩んでいたら、エディさんが何やらフリオさんに耳打ちをするのが目に入った。
 ちらりと俺に向けられたエディさんの目が俺に「大丈夫です」と言ってくれてるような気がした。


「そうですか……そうですね…わかりました。では、明日の10時にこちらへお出で頂けるお約束をして頂いてもよろしゅうございますか?」

「ええ、私はそれで構いませんので、明日の10時にお伺いさせて頂きますね。それではこれにて失礼させて頂きます。あっ、イネスさんにお伝え頂けますか?お料理とても美味しかったです。ありがとうございましたと…では」


 凄く嬉しそうに微笑んでいるダフネさんと目が合い、にっこりと微笑み返しをして俺はグティエレス邸を後にした。






 
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