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14話

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「大したもてなしは出来ないが、イネスの手料理は美味いんだ。いつも俺が食べてるような家庭料理にはなるが構わないか?」

「大丈夫ですよ。お気になさらないで下さい。格式ばった料理より家庭料理の方が私は好きですので」


 団長様の案内で応接間ではなく居間に俺はいた。ここのお屋敷は豪華さあまりないけど、家具や調度品はアンティークばかりだ。それもかなりお高い気がする。団長様のお父上の趣味なんだろうな。
 鑑定スキルで自分が今座っている椅子を見たら、200年前の物だったよ。
 イネスさんてのは、あのふくよかなメイドさんの名前で娘さんのダフネさんと親子で団長様のお屋敷に勤めているそうだ。執事さんの名前はフリオさん。あとメイドさんが1人と庭師の老夫婦と厩番が1人いるらしい。


「ドーン君、良かったらこの屋敷に住まないか?住んでいるのは俺とフリオとイネス親子で、庭師のトマスとマリアは庭園にあるコテージ住んでいるから、空部屋が多い」

「グティエレス様にお仕えするという事でしたら、折角のお話ではありますがお断り致します」


 いい主人ってのはわかるけど、人に仕えるとか俺には無理。自由に出来ないじゃん。俺はのんびり穏やかに暮らしたいだけで、誰かに拘束されるのはやり嫌だから、当然お断りだ。


「ただの間借りとして住めばいい。これから家を買うにしろ今直ぐに買えるものではないだろうし、それまで宿屋に滞在するのも少し心配で…」

「心配ですか?」


 何の心配なんだ?と思い、団長様の顔を見たら顔を逸らされた。ほんのり顔が赤いのは照れているのか?何処に照れる要素があるのかわからないんだけど。


「間借りですか…それは如何なものかと…私のような者を住まわせるなどグティエレス様の家名に傷がつきます」

「俺は気にしない」

「私が気にします。あのですね、グティエレス様。貴方様は立派な騎士であり貴族の方です。私は平民で下位の下賤な流浪の民です。そのような者にお屋敷の空部屋を間借りさせるなど世間に知られでもすれば、他の貴族の方々から笑い者にされるばかりかあらぬ噂話の素になります。それに要らぬ詮索もされます」

「そうか…そういうものなのか…」

 
 腕を組んで唸りながら考え込む団長様を尻目に、フリオさんが淹れてくれたお茶をのんびり飲む。
 ジーロさんの淹れたお茶も美味しかったけどフリオさんの淹れたお茶は更に美味しいっ!流石執事さんだ!


「少し話を変えよう。では、仕事はどうするつもりなんだ?」


 唐突に何を言ってくるんだ…。仕事か仕事ねぇ…別に仕事しなくてもいいんだけど。
 俺、ヒッキーだけどちゃんとセーフハウスで自給自足の生活してたよ。森で狩して採取して、野菜とかハーブとかセーフハウスの庭園に畑作って栽培してたしなぁ。
 伊達に500年間も隠遁生活をしているのではないのだよ。
 

「私に出来る事と言えば字の読み書きぐらいですし…この顔ですからまともな職に就けるのは…難しいですね」


 ほんの少し悲哀の感情を込めてみた。ヒッキーな俺にリハビリ無しでいきなり社会復帰とか無理です。


「…この街に移住するつもりなら、定職に就ている事が移住手続きの必須条件となる…」

 マジっすか!
 定職って…なんですか…それって定食じゃないですかね?
 俺、焼肉定食がいいですっ!


 って、現実逃避してる場合じゃないな。
 身分証はやはりあって損する物じゃない。生産系のスキルはゲーム自体に無かったからなぁ。俺はスキル一覧を表示して見るが戦闘系スキルか身体強化系スキルぐらいしか無い。どれも使えないよなぁ…強いて使うとするなら身体強化系スキルで、肉体労働ぐらいか?肉体労働なぁ…出来ない事もないけど、この容姿で肉体労働は流石に無理あるだろ。ないわ。
 

「何か他に得意な事があるといいんだが…」

「そうですね…簡単な狩りか植物を育てるぐらいしか…」

「植物?植物に詳しいのかっ?!」

「旦那様っ!」


 なんだ?この妙な食いつきは…。団長様とフリオさんの俺を見る目がキラッキラなんですけど!
 内心ドン引きしている俺の目の前で、2人は何やら小声で話し合っている。敢えて話の内容を聞かないように努め、どうか無茶振りして来ませんようにと祈った。


「ドーン君、是非見て貰いたい物があるんだが…」

「何でしょうか?」


 どういう訳か俺は庭園に連れてこられた。
 立派な庭園なんだが、最初に見た印象は間違いじゃなかった。植えられた木々や花々の植物に元気が無い。
 で、なんかギャラリーが俺の周りにいます…。
 団長様を筆頭に執事のフリオさん、イネスさんに娘さんのダフネさん、メイドのエッダさん、厩番のマルセロさん、庭師のトマスさんとマリアさん。
 グティエレス家の皆さん全員いるんですけど…めちゃくちゃ視線が痛い…セーフハウスに帰りたいよ…。


「ドーン君、先ずはトマスの話を聞いてやって欲しい」


 俺は小柄でやや腰の曲がったトマスさんからの話を聞いた。
 ここ数年手入れをしても庭園の植物がうまく育たないらしい。試しに庭園の弱っていた花を知り合いの庭に植え替えたところ、一晩で元気になったそうだ。土に問題があるのかと考えて、土に肥料を入れたり、土を入れ替えても駄目だったらしい。原因がわからなくて手の打ちようが無いとトマスさんはしょんぼりとしている。


 はい、無茶振り確定きたぁぁぁっ!
 俺さ…野菜とハーブしか栽培した事ないんだよ。
 ホントそれだけで他の植物とか全くわからんのよね…。
 誰にでもいいから縋りたくなる気持ちはわかるけどさ。
 
「なるほど…私がお役に立つかどうかわかりませんが、見てみますね」

 
 取り敢えず片膝を着いて土を手に取り見てみた。
 サラサラとしてて砂っぽい感じがする。森や俺の畑の土に比べてかなり養分も水分も足りないのはわかる。でもそれだけじゃない。何だろう?この妙な感覚は。



 
 
 

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