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5話

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★アルベルト視点

 大公殿下の巡視の下見に、俺は城下街であるテルテの南門へと来た。
 戦火のない平和な世の中となって500年になるが、それは国同士の戦争が無いと言うだけで、実際には小競り合い程度はある。       
 戦火の火種は存在している。

 我がレクス公国でも小国でありながら後継者問題で、水面下では色々と不穏な動きがある。
 
 近衛第1騎士団の団長の俺は、大公殿下の警護が主たる仕事なので後継者問題など、正直どうでもいい話だ。
 まだ30歳にもなっていない偉丈夫な大公殿下だ。ほっといてもその内跡継ぎは出来るだろう。

 南門の警備体制をチェックし終わり、そろそろ城に戻ろうかと考えていた時に、1人の門番兵が困り果てた顔をしてうろうろとしていたので、声をかけた。


「身分証を紛失した旅の者が門前にいまして、仮身分証を発行したいのですが、生憎と鑑定スキル所持者が役所に出かけてまだ戻ってきてないのです」
 

 鑑定スキルか…。誰でもが所持しているスキルではないな。


「なら、私がやろう。その者の所に案内してくれ」 


 門に向かう間に仮発行の手順の説明を門番兵から聞いておく。
 身分証を紛失したという者の後ろ姿が目に入った。

 なんだあれは…立ち姿に隙がない。
 身分証の紛失とは妙に怪しくないか?

 俺は親切さを装って、フードを目深に被った男を詰所へと連れてきた。
 何者なのかを確かめる為に詰問も兼ねて話を聞くつもりだった。
 フードを外した顔を見た時、俺は不覚にも言葉を失う。
 男は思った以上に若く…そして美しい。
 黄金の髪は絹糸の様に滑らかな輝きを見せ、その瞳は澄んだ湖の様に青い。
 女めいた美しさではなく、繊細な美しさとどこか冷たさを感じる顔だった。
 だが、右顔には痛々しく酷い火傷の痕があった…。

 自分がこの若い男に対して、かなり不躾な視線を向けていた事に気付いて恥じる。

 若い男の話を聞いて、おかしな点は特になかった。
 アデリアの聖殿近くには、確かに野盗は多い。
 聖殿に巡礼する人々をよく狙うのは周知の事柄だ。

 若い男の声は穏やかで落ち着きあるトーンが実に耳に心地よい。
 話し方も丁寧で礼儀正しい。
 おそらく育ちが良かったのだろう。

 しかし、気の毒ではあるが、あの火傷の痕では人々から好奇な目で見られてしまうだろう。移住先が決まらない理由にも当てはまる。

 少しカマをかけるつもりで、移住するなら口添えをする旨を伝えたが、先ずは鑑定して自分を見定めろ的な事を言われた。
 甘言には乗ってこない。

 スルジュ・ドーン 21歳 lv4 アデリア出身 流浪の民 犯罪歴無し

 鑑定スキルを欺く事はまず出来ない。


 ドーン…家名があるのか…しかし、爵位がない。
 地方の豪族か?或いは元豪族か。
 豪族の子息であるなら多少の武術もしくは魔術を嗜んでいてもおかしくはないが…一介の兵卒でも平均でlv10ぐらいなのだが…彼はlv4…低すぎる。
 ん、ドーン……ドーン?
 どこかで聞いたような…。
 

 鑑定結果を口にすると、俺に向かって柔らかく微笑んだ。
 それを見た瞬間、俺の股間がズクンと疼いた。


 いやいや、待て。待ってくれ!
 男だぞ?いくら美しかろうとも、れっきとした男だぞっ!
 同性同士でもそういうのはごく普通の事だが、俺は同性には興味ないぞ!
 

 俺の意思とは関係なく疼く股間に混乱しながらも、冷静になれと自分自身に言い聞かせる。



 アデリア古銀貨の価値を知らないのは仕方ないが、話の内容からはまだ何枚か持っているように感じた。
 それに旅人にしては、妙に世間知らずさが感じられる。
 高価で貴重なアデリア古銀貨目当ての輩に絡まれて厄介ごとに遭うのが目に見える。
 なので、俺は提案したが俺を警戒したのかあっさり断られた。
 自分の名を告げて信用して欲しいと告げると、俺が騎士である事がわかって警戒を解いたのか提案を受けてくれた。

 その時の笑顔は、見る者全てを魅了してしまう程の艶やかで美しい笑顔だった。

 俺の股間の疼きは更に増し、ズボンの中で激しく自己主張した。
 不埒な股間を持ち前の忍耐力で何とか抑えつける。



 何とか彼との待ち合わせを決める事が出来た。
 冷静さを装っていたが、もうあれは口説いていると思われても仕方ない自分の言葉に呆れてしまう。

 彼が詰所を出てドアを閉めると、俺はトイレに即駆け込んだ。
 

 この歳になってトイレで抜くとか…ありえん…。


 不埒で元気な息子を己が手で慰めながら頭の中では、火傷の痕が無くトロトロに溶けきった甘い表情で俺の名前を甘く囁くという妄想でいっぱいだった。
 
 その後、彼に対する罪悪感で気分は落ち込んでしまった。
 妄想して抜いた事もそうだが、火傷の痕が無ければいいのにと思ってしまった自分が情けない。顔だけが彼では無いというのに…彼を侮辱したようなものだ。


 俺は彼をどうしたいんだ?
 自分がわからない。
 彼に惹かれるのか?男だぞ?
 まだ出会って1時間少々で、彼の人間性に惹かれたのか?
 ないな。
 たったあれだけの会話で、他人の人間性がわかる程俺は達観していない。
 だとしたら…やはり顔なのか?


 自己分析したところで、何の解決にもならなく溜息が溢れる。
 仮身分証発行の書類を整えると、詰所に来た門番兵に手渡して俺は屋敷に着替えに戻った。
 
 
 
 
 
 



 


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