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21. クロエの夏休み

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 夏休みに入り、クロエはシルビア王女と一緒にブラン辺境伯領へ帰省した。そして休みに入る前に、シルビア王女はブラウン辺境伯嫡男のダンへ婚約の打診をしたとビースト国王へ書簡で伝えていた。

「ダン様!お手合わせお願いいたします!」シルビア王女は、辺境伯城に来てから毎日のように騎士団の訓練に参加していた。

「お、おぅ……。シルビア、手合わせはいいが、少し休憩したらどうだ?」

シルビア王女のまわりには、すでに剣と体術の相手をしていたと思われる者が20人ほどバテバテで倒れていた。

「いえ!久しぶりの騎士団の訓練が楽しくて!息切れひとついたしません!」シルビア王女は目をキラキラさせてダンが剣を持ってくれるのを待っていた。

「しょうがねぇなぁ。どちらかが1本取ったら終了な。これが終わったら休憩しろよ」

「はい!」シルビア王女は剣を構えるとすぐに攻撃態勢に入りダンに打ち込んだが、一瞬でダンに1本取られてしまった。

「えっ、速い!悔しい~!一瞬で終わっちゃったけど……(ダン様、カッコよすぎで素敵です~~~~!)」

「ん?……けど?シルビア、クロエがお茶の準備して待ってるぞ。休憩してこい」

「はい!ありがとうございました!(シルビアって名前の呼び捨てが、嬉しすぎる~~~~!)」

シルビア王女は、ダンの後ろ姿を見送りながら、地面にうずくまって悶えていた。

* * *

「クロエ様、お茶の準備ありがとうございます!うわ~、今日も美味しそう!このプルプルしてる冷たいデザートは何ですか?」

「今日はベリーを使ったババロアを作ってみました!」

シルビア王女がテラスに用意されたテーブルに座ると、クロエを見てモジモジと恥ずかしそうに言った。

「クロエ様、私の事はシルビアと呼び捨てで呼んでいただけますか。そして私もクロエ様のことを呼び捨てで名前をお呼びしてもいいでしょうか?そして敬語も無しでお話したいのですが……」

クロエはパッと顔を上げると、満面の笑みで「ぜひ!そう呼んでシルビア!」とシルビアの手を握ってブンブンと振った。

2人はビースト国の騎士団の話や獣人の訓練の話などで盛り上がっていたが、クロエはふと気になっていたことをシルビア王女に訊いた。

「そういえば、寮の隣の部屋にいるマリエル様から嫌がらせとかされてない?」

シルビア王女は、ん~?と何ともないような顔で答えた。

「何度も嫌がらせされそうになったり、取り巻きを連れて何か言いに来たりしたけど?池に突き落とされそうになった時は、サッと避けたら取り巻きの3人ぐらいが代わりに落ちてたし、2階から水をかけられそうになった時は風の魔法で落ちてきた水を彼女達にかけてあげたり?臭いとか言われたけど、あの子たちの香水の匂いの方が臭いわよって言って、あの子たちの周りに風の結界を張って、香水の匂いが籠るようにしてあげたわ。なんか結界の中で青い顔してたけど、1時間ぐらい放置してあげたんだったかな?彼女達の嫌がらせなんて、全然大したことないわよ?」

(シルビア、意外にやるわね……。)

「そんなことより、ダン様のことを色々と教えて頂きたいの……」シルビア王女は、赤い顔をして手をモジモジさせながら上目遣いでクロエを見た。

「ん?ダン兄様のこと?」

「ダン様に初めて王宮のお茶会でお会いした時に、私の番であることはすぐにわかったんだけど、ヒューマン人は番とか感覚ではわからないでしょ。だから少しでもダン様に良い印象を持ってもらいたくて。ダン様の好きな女の子のタイプとか?今までの彼女歴とか?教えてもらいたいの~~!」シルビア王女は、真っ赤な顔をしてテーブルに突っ伏した。

「……って、シルビアが言ってるよ、ダン兄様」

「えぇ~!ダン様!いつの間にいらっしゃったんですか!!!!!」シルビアは真っ赤になりながら、パッとテーブルから顔を上げた。

「ん?公爵令嬢の嫌がらせの話のあたりから?」

「無理~~~~~!」シルビア王女は真っ赤な顔を両手で抑えてテーブルの下にうずくまってしまった。

ダンは、頬をポリポリと掻きながら頬を赤らめて話始めた。

「俺はさぁ、今年18歳になるけど、今まで彼女とかいたことないし、女の子のこととかよくわかんないんだよな。だけど、シルビアとは初めて会った時から話も合って良い印象だったし、今も騎士団で楽しそうに訓練してる姿とか、素直なとことか好ましく思うよ」ダンは優しい表情でシルビア王女に笑いかけた。

「うぅ~、嬉しいです~~~。ダン様、ありがとうございます……」シルビア王女は小声でそう言うと、テーブルの下で白目を剥いて気絶してしまった。

(( えっ……!大丈夫か?シルビア…… ))

* * *

クロエとシルビア王女は、ブウラン辺境伯領の短い夏を満喫して、王都の学院に帰ってきた。

辺境伯のタウンハウスで、久しぶりにルカとロアと夏休みぶりの再会をして、皆でクロエのお土産のどら焼きを食べていた。

「はぁ、また学院生活が始まるのね。この学院はあまりレベルが高いわけではないから、目新しい授業も無くてつまらないのよねぇ。先生方も王太子に媚びている感じだし……」

「あぁ。この学院では、学ぶことがほぼ無いな。まぁ、地底族に会うまでの我慢かな?俺達の役目が終わったら、後は自由だぜ~。ヴァンパイア国の学院に行ってもいいし、他の国を見て回るのも面白そうだしな」

「ルカは、地底族に会った後は、どうするつもりなんだ?」

「俺はクロエの行くところに一緒に行くつもりだが」ルカは無表情で当たり前のように言った。

「そうだったな。お前ら婚約者同士だったわ」(しかし、ルカ……。お前、相変わらずの無表情だけど、今の即答だったな……)

「クロエはどうするつもりなんだ?」

「私は……。まだわからないな……」クロエは俯きながら答えた。

ロアは、「それもそうだな。まずは地底族に会わねーとな」というと、ソファにゴロンと横になった。

「俺達が王都に来てから、まだ地底族からの接触はないな……。クロエは何か策は考えてるのか?」ロアはソファに横になって天井を見ながら言った。

「うん。まだ私達、隙をみせてないからね。たぶん彼らは、ブラウン辺境伯領には入れない。魔の森があるし、ロイ兄様が領内全域に電磁波の魔道具設置してるし。そして、このタウンハウスにも入り込めない。とすると、学院の中か、王都の郊外よね。実はね、彼らを誘い込むために、王都郊外にあるハレイ湖に行ってみようと思ってるの。転移じゃなくて馬でね」

「おっ、いいね!最近移動は転移ばっかだから、馬で移動なんて新鮮だな……って、俺、馬に乗ったことないわ。魔国にいるドラゴンには乗れるけどな」

(えっ!ドラゴンって、乗れるの?)

「クロエ、馬より馬車の方が襲撃しやすいぞ。馬車でみんなで行こう。爺さんには伝えておくよ」

「そうね、師匠にも同行してもらった方がいいわね。楽しそうなピクニックになるわ!よし、お弁当たくさん作ろう!」

「クロエ、地底族の族長に会ったら、なんて伝えるんだ?」ロアはソファから起き上がって、テーブルに置いてあった、豆大福に手を伸ばした。

「たぶん私の口から事情を話しても、ヒューマン国の王妃の実家が黒幕で聖女を魔国に送り込んだなんて信じてもらえないと思うから、前に王宮のお茶会で録音した王妃の独り言を再生できる魔道具をロイ兄様に作ってもらったの。それを渡すつもり」

「あぁ、それが話早くていいな。地底族があれを聴いたら、どんな反応するんだろうな……。やりきれねーだろうな。あっ、その魔道具に親父からも一言入れておいてもらうよ。その方があの録音が本物だっていうことで信憑性が上がるわ」ロアは、豆大福を食べ終わると緑茶を飲みながら満足そうに答えた。
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