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19. ダンの婚約者

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 クロエとシルビア王女は、学院の寮から馬車で辺境伯のタウンハウスに向かっていた。
シルビア王女の侍女にはタウンハウスの結界の中は安全であるからという理由でごり押しし、侍女を付けずに2人で馬車へ乗って移動した。

(ビースト国の影は、馬車に付いてきているわね。まぁ、タウンハウスの結界の中へは入れないし、中の気配も探れないけどね)

辺境伯のタウンハウスの玄関ホールに入ると、ルカとロアはすでに到着してクロエ達を待っていた。

「シルビア様、私の婚約者のルカと幼馴染のロアです」クロエはルカとロアをきちんと紹介していなかったことを思い出し、あわてて2人を紹介した。

「ビースト国第一王女のシルビアです。この度は、私事に巻き込んでしまい申し訳ありません」シルビア王女はフワフワの耳をしょぼんとさせて2人に頭を下げた。

「いや、俺らも無関係じゃないから……。詳しい話は向こうに着いてからだ。みんな待ってるから急いで行こうぜ」ロアはそう言ってみんなの手を繋ぎ合わせると、一瞬で辺境伯城へ転移した。

シルビア王女は初めての転移に驚いていたが、転移酔いすることもなく、辺境伯城に到着するときっちりと辺境伯夫妻と前シルバーズ侯爵そしてダンとロイにに綺麗なカーテシーで挨拶をしていた。

全員が談話室に入り防音の結界を張り終わると、辺境伯がシルビア王女に向かって話し始めた。

「シルビア王女、クロエから話は聞いております。王女が市井に降りて辺境伯の騎士団に入りたいということでしたが、その案は受け入れられません。ビースト国の王女が安易に市井に降りてもなんの解決にもなりません。ビースト国の問題を解決するためには、現国王に退位してもらう以外の方法は無いでしょう。そのための策を考える前に、まずはこちら側の現在の状況をシルビア王女に知っていただかなくてはなりません」

辺境伯はそう言うと、ブラウン辺境伯とヴァンパイア国そして魔国とクロエの関係について説明し、魔国の地底族がクロエを狙っていることをシルビア王女に話した。

辺境伯からすべての事情を聴き終わると、シルビア王女はクロエに向き直り、金色の目に涙を浮かべながらクロエに頭を下げた。

「クロエ様。私、何も知らずにクロエ様に甘えておりました。自分だけが苦しい思いをしているんだと悲観的になって、ビースト国の王家から逃げることしか考えていませんでした。私は王女で民を守る責務があったのに、国王である父が恐ろしくて……。私がヒューマン国に留学したのも、国王が私にブラウン辺境伯家に取り入って情報を探るように命じたからです。アランが同時に留学してきたのも、私の監視のためだと思います」シルビア王女は震えながら唇を強く噛んで、涙がこぼれるのを堪えていた。

クロエはシルビア王女の手を握ると、優しい瞳で王女の目を見た。

「シルビア様、自分の父親にいつ殺されるか分からない状況なんて、誰でも恐いですよ。逃げて当然です。でもシルビア様は私達にビースト国王の策略を話しました。それはビースト国にいる家族と民を守りたいからでしょ。そうでなかったら、こんな危険なことなどしないで何も言わずにいたんじゃないんでしょうか」

「クロエ様……」涙を堪えていたシルビア王女は、クロエの膝の上で泣き崩れた。

黙って話を聴いていた辺境伯は、腕組みをしながらダンに話しかけた。

「ダン、お前、婚約を考えている女性はいるか?」

「はっ?父上、急になんでそんな話……。あっ、そうか、そういうことですね。その案、賛成ですよ父上」ダンは辺境伯の思惑を察してニコリと頷いた。

辺境伯はニヤリと笑うとシルビア王女に顔を向けた。「シルビア王女、うちに嫁にきませんか?」 

「えっ!」

辺境伯はシルビア王女とみんなの顔を見ながら説明した。

「シルビア王女が留学中にブラウン辺境伯嫡男に婚約を打診する。ブラウン辺境伯は婚約を承諾する条件としてビースト現国王の退位を求める。そうしたら、ビースト国王は怒って戦争の準備が整う前にブラウン辺境伯領に戦争を仕掛けるか、何かしてくるんじゃないかと。そこでビースト国王を潰す。ビースト国とヒューマン国そして地底族が纏まって仕掛けてきたところで、一気に潰す予定だったが、1つづつ潰していくのでも問題ない」

「まずはビースト国からか。現国王が退位したらシルビア王女がダンと婚姻を結び、独立したブラウン辺境伯国とビースト国が同盟を組めば、ビースト国への食糧援助や技術提供も容易だしな、良い案じゃ。じゃが、婚約の承諾を条件付きで返答するのは少し様子を見てからじゃな」前シルバーズ侯爵は頷きながら言った。

ダンは、急な展開でおろおろしているシルビア王女を安心させるかのように微笑みかけた。そしてゆっくりと王女の前に来ると、シルビア王女の目を見て跪いた。

「シルビア王女、急なことで不安かもしれませんが、俺の嫁さんになっていただけますか?」

「ダン兄、いくら何でも急すぎる……」とロイが言いかけたところで、シルビア王女が真っ赤な顔をして、バッと立ち上がった。

「実は、ダン様は私の番なんですっ~~~!」

「「「「「 はぁ~~~⁉︎ 」」」」」

* * *

「シルビア王女の番がダンって、びっくりだったよなぁ」

シルビア王女を学院の寮まで送った後、クロエとルカとロアは辺境伯のタウンハウスで、辺境伯城の料理長が持たせてくれたみたらし団子を食べていた。

「そういえば、王宮のお茶会でシルビア様と初めて会った時に、ダン兄様の顔を見てびっくりしてたわ。あの時すでに、ダン兄様が番だってわかってたのね。でもヒューマン人は番を感覚では分からないから、シルビア様は番と結婚することは諦めてたって言ってたの。なんだかあの2人には運命の赤い糸を感じるわ~」

「シルビア王女もビースト国の騎士団に交じって訓練してたらしいから、意外と将来の辺境伯夫人っていうの、合ってるんじゃないか?」ロアは両手に団子の串を持ちながら言った。

クロエは同じ歳のシルビア王女がダンからプロポーズを受けている姿を見て、近い将来、自分もするかもしれない結婚という現実について考えていた。

(結婚か……。シルビア王女が成人となる16歳になった時、ダン兄様は20歳。それまでに私は地底族に真相を伝えなくては。ビースト国の件は、お父様と師匠にお任せして、私は地底族に集中だわね。私もルカという婚約者がいたんだったな……。ルカは私には勿体ないぐらい完璧な人だから、全てが終わったら婚約破棄してルカには本当に好きな人と結婚してもらわなきゃ……。でも、ルカと離れるのは、ちょっと寂しいかな……。いつもほぼ無表情だけど、ルカの仕草から感情の動きは読めるようになってきたのよね)

クロエはルカとふと目が合うと、何故か気恥ずかしくなり、サッと目を逸らして話題を変えて話しかけた。

「そういえば、ロイ兄様が作っていた、モグラ撃退器の試作品はどうだったの?」

ロアは身を乗り出しながら言った。「あれ、すげーわ。聴覚の鋭い地底族は、あの電磁波と超音波のダブル攻撃を防ぐことは不可能だと思うぜ」

「あの電磁波は、闇の結界を通り抜けたからな。俺も電磁波を遮断できるシールドを考えないとな……」ルカはクロエを守るために、すべての攻撃に対応できる結界を模索中であった。

「あっ!ルカ、前世の世界で電磁波防御グッズが色々あったから、アイディア出すの協力するわ」ロアは、最後のみたらし団子を食べ終えると満足気に言った。
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