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18. シルビア王女とのお茶会

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 入学式の翌日、シルビア王女から、お茶会の招待状がクロエの部屋に届いた。

「メイ、シルビア王女からお茶会の招待状が届いたんだけど、お返事を持って行ってくれるかしら。この女子寮の最上階のはずよ」

「畏まりました。お茶会は明日ですか……。手土産はどうしましょうか?」

「明日はお休みだから、寮の調理場をお借りしてプリンを作って持っていこうを思ってるんだけど、どうかな?」

「いいですね!クロエ様のプリンは最高ですからね!私の分も作っといてくださいね。2個で」

「わかってるわよ~。あっ、ルカとロアにも持って行ってあげよう。あの2人もプリン好きだから。よし、そうとなったら今日は早く寝なきゃ」

部屋を退室しようとしていたメイが何かを思い出したように振り返った。
 
「あっ、クロエ様。今日は学院内の地面の下に地底族の気配ありましたので、少しご注意を……」

「さすがメイね。まだ入学式が終わったばかりなのに、敵もせっかちだわね。ルカとロアにも伝えておくわ。ありがとうメイ」

「お仕事ですので。それではクロエ様お休みなさいませ」

メイが部屋から出ていくと、クロエは大きなため息をついてベッドの上に大の字になり、ボーっと天井を見ていた。

(始まったわね……。私、もうすでに彼らのホームに入ってるんだわ。気が抜けないわね……。あっ、こんな時こそ自然体を意識せねば!日々訓練、日々修行ね。師匠、私、頑張りますね……)

* * *

次の日の朝、クロエは早起きをして調理場の片隅を借りてお茶会の手土産用のプリンを作っていると、食堂の方から声が聞こえてきた。

「……隣国の王女とはいえ、獣人と同じ建物で暮らすなんて私は耐えられませんわ。最上階は私とシルビア王女のお部屋だけですけれど、獣臭い感じがして耐えられませんの。この寮から出て行ってもらうように王妃様にお願いしようかしら」

「マリエル様から王妃様へお願いしたら、出ていくように手配してくださるんじゃないでしょうか。ぜひマリエル様からお願いしてくださいませ。私も獣人と一緒に暮らすなんて気持ちが悪くて嫌ですわ」

(ん?マリエル様って、王妃の実家のガーラン公爵家の令嬢よね……。あの王妃の姪か~。やっぱり姪も性格悪いわねぇ。取り巻きも鬱陶しいし……。シルビア王女に手出しできないように考えなきゃね)


クロエは青色のシンプルなワンピースに着替えると、手土産のプリンを持ってシルビア王女の部屋を訪れた。

「王女様、ブラウン辺境伯令嬢様がいらっしゃいました」

クロエが部屋の中に案内されると、シルビア王女はリビングルームのソファに座り笑顔でクロエを迎えた。

「クロエ様、急にお茶会にお呼びして申し訳ありません。どうしてもお話したいことがありまして……」

クロエは手土産を侍女に渡すと、侍女はすぐにお茶とプリンをテーブルにセッティングして退室していった。

クロエは隣の部屋のマリエル嬢が気になり、「失礼しますね」と言ってシルビア王女の部屋に防音の結界を張った。

「あっ、……ありがとうございます」

「隣の部屋のマリエル様、あまり性格が良さそうな感じではなさそうなので、念のために……」とクロエはにっこりとシルビア王女に微笑んだ。

「クロエ様、私と仲良くしていただいてありがとうございます。私のことはシルビアと呼んでください。ヒューマン国はまだ獣人の差別が残っていますから、なかなかお友達も出来なくて……」

クロエはシルビア王女の顔を見て笑顔で頷いた。「シルビア様、そういう方達は無視しておけばいいんです。世界が狭い方々なんだと思いますよ。価値観が違うのですから、無理して合わせることはありませんよ」

「クロエ様は、お強いですね。私も、強くありたい……」

「シルビア様、私に話したいことがあるのではないですか?」クロエは俯いて何か言いたそうにしている王女を見ながら言った。

シルビア王女は姿勢を正しクロエに向きなおると、少し迷った表情をしながら話し始めた。

「実は、私はビースト国の王家から出て市井に降りようと思っております。そしてブラウン辺境伯領で受け入れてくださるなら、辺境伯の騎士団に入団させていただきたいのです」

クロエは王女の瞳を見つめながら「理由をお伺いしても?」と訊いた。

シルビア王女は大きく深呼吸して手の震えを抑えながら答えた。

「ビースト国王は、ヒューマン国と手を組んで、ブラウン辺境伯領と魔国に攻め込もうと画策しております。王女の私がこんなことをクロエ様に伝えることはビースト国への謀叛であるということは承知しております。しかし今のビースト国王は暴君で、家族も皆、いつ殺されるかもしれないと息を潜めて暮らしているような状態です。国王以外は、他国を侵略しようとは全く考えておりません。兄が水面下で国王を亡き者にしようと動いてはおりますが、城の中では誰も信用が出来なくて……」

(そうだったのね。ビースト国がヒューマン国と手を組んだのは、国王の一存か……)

「シルビア様。この件は、私の一存で決めることは出来ません。辺境伯領に一度いらっしゃいませんか?辺境伯の両親と直接お話頂いた方が良い案が浮かぶかもしれません」

シルビア王女は、クロエの目をじっと見ながら言った。
 
「ビースト国の私の話を信じていただけるんですか?もしかしたら私はビースト国の刺客かもしれないんですよ……」

「私は、シルビア様を信じます」(シルビア王女、耳と尻尾の動きで、私よりわかりやすいんじゃないかな?師匠、読心魔法使わなくても、わかるようになってきましたよ~)

* * *

その夜、ルカとロアは辺境伯のタウンハウスでクロエの作ったプリンを食べていた。

「……で、シルビア王女はいつ辺境伯領に行くんだ?」ロアは2個目のプリンを手に取った。

「次のお休みの日に、このタウンハウスにお茶会に来たように装って、ここから辺境伯城に転移して行く予定よ。ビースト国の影達には、王女が辺境伯の娘に取り入って諜報活動をしているように見えるでしょ」

ルカはプリンの器をテーブルに置くと「俺も一緒にいくよ。ロアも行くだろ?」とロアを見ると、3個目のプリンに手を伸ばそうとしていた。

ルカとロアは、最近仲良く辺境伯騎士団の訓練に参加したり、ダンやロイと一緒に魔術や魔道具開発に夢中になっていた。

「ああ、俺も行くよ。ロイがこの間ヴァンパイア国の学院を卒業してきて、今、辺境伯で凄いやつ作ってるだろ。試作品完成したって連絡きたから早く見に行きたいんだよ」

「えっ、ロイ兄様、何作ってるの?」

「もぐら撃退の魔道具」ロアは3個目のプリンを食べ終わると、満足したように言った。

「「もぐら撃退?」」

「ロイと地面の下にいる奴に使える魔術ってどんなんがあるか話してた時に、前世にあったモグラ撃退器のことを思い出したんだよ。前世のモグラ撃退器は超音波式だったけど、電磁波でも行けるかなって思ってさ。辺境伯もダンも雷魔法から電磁魔術を開発したろ?だからそれを利用して魔道具作ってもらってる」

(前世の世界にモグラ撃退器なんてあったのね。初めて知ったわ……)

「それ、面白いな。奴らは地面の下にいるから、なかなか捕らえられなかったんだよ。今までは地上に現れたところを狙うしかなかったんだけど、それをうまく使えばおびき出せるな。ロア、お前天才だな!」

「いや、前世チートなだけだけどな」ロアは、フフンと自慢げに鼻を鳴らした。

(そういえば、哲兄さんは工学部だったな……。魔道具は得意分野かもしれないわね)

「じゃぁ、次の休みの日は、みんなで辺境伯領ね。少し気持ちが重かったんだけど、ルカとロアのおかげで楽しみになってきたわ。ありがとう、ルカ、ロア」
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