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17. 王立学院への入学

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 クロエは13歳になり、ヒューマン国の王立学院の入学の日を迎えた。

入学式の日は良く晴れた気持ちの良い朝で、クロエは王立学院の制服に着替えるとすぐに辺境伯城の食堂へ向かった。

「お父様、お母様、ダン兄様、おはようございます!

ダンはクロエの側に来ると、「制服似合ってるぞ」と言ってクロエの頭を撫でた。

レーナは「本当に学院の寮に入るの?毎日転移でここから通えばいいんじゃないのかしら……」とクロエを心配そうに見つめたが、ジョンはそれを諫めた。

「レーナ、クロエが決めたことだ。クロエ、何かあったらすぐに連絡しなさい」

「クロエ、転移の魔道具は必ず身に着けておきなさいね。魔力不足でも魔道具なら転移できるから……。自分の魔力を過信してはダメよ」レーナは目を潤ませながらクロエを抱きしめた。

「お母様、ありがとうございます。いつも心配ばかりかけてごめんなさい。必ず無事に帰ってきます」

クロエは辺境伯夫妻とダンに抱きつくと、「行ってきます!」と言ってメイと一緒に王立学院の女子寮へ転移した。

「クロエ様、こちらの準備はすべて整えておきました。私はクロエ様の影に入り感知魔法でまわりを探りますので、何かありましたらお知らせします」

メイはこの3年間、辺境伯城の侍女長にみっちりと教育を受け、完璧な侍女をマスターしていた。

「メイ、ありがとう。危ないことに付き合わせてしまってごめんなさい。ギル様に申し訳が立たないわね」

「ギル爺様は、しっかり護衛しろよ!って言ってましたよ。私は私の意思で覚悟を持って護衛しておりますので気にしないでくださいね。さあ、早く講堂に行きましょう。入学式が始まります」

クロエが入学式が行われる講堂へ向かっていると、後ろから「クロエ!」と呼ばれて振り返った。

「ルカ、哲兄……ロア!おはよう!」

ルカとロアは王立学院に入学するまでの間に、クロエを守るため念入りな準備をしてきていた。

クロエとルカが久々の再会を喜んでいる姿に、前世の兄として少しモヤっと嫉妬したロアは、クロエとルカの間に割り込むと「婚約者同士でも、適正な距離感をな~」と言いながら、2人の肩を組んで講堂に入っていった。

3人が講堂に入ると、ザワザワとあちこちからひそひそ声が聞こえてきた。

「きゃ~!あの方達がヴァンパイア国からの留学生ね!2人とも背が高くて美形よね!」
「あの一緒にいる女の子、ブラウン辺境伯の子じゃない?アーサー王子の婚約者候補じゃないの?なんでイケメン2人を側に侍らせてるわけ?」
「えっ、俺、辺境伯令嬢は、ヴァンパイア国に婚約者いるって聞いたぜ。王妃様が無理強いしてるだけだっていう噂だけど」

(うゎ~、入学式から目立っちゃってるわ~。でもまあ、仲良くなって地底族に目をつけられたらその子が危険な目に合うかもしれないから、遠巻きに見られてるぐらいでいいわ。でも確かに私、イケメン2人を侍らしてるわね。ルカもロアもまだ13歳なのに身長は180cm近くあるし、ルカの銀髪とネイビーの瞳も美しすぎるわ。ヴァンパイア国のシルバーズ侯爵家の皆も恐ろしいぐらいの美形だものね。家系なのね……。ロアも背が高くて黒髪に紅の目がワイルドで魔王っぽいわよねぇ。タイプの違う2人だけど、細マッチョとワイルドマッチョって感じよねぇ。何もしなくても目立っちゃうわ~)

入学式が終わると、生徒達は各自の教室へ入っていった。

クロエ、ルカ、ロアの3人は同じクラスだったため教室に入って後ろの席に座り3人で話していると、「クロエ様?」と声をかけられた。

クロエが声の方に振り向くと、ビースト国のシルビア王女が笑顔で立っていた。

「シルビア王女様!お久しぶりでございます。あのお茶会の後、私と兄はすぐに帰ってしまったので……」と話していると、ビースト国からのもう一人の留学生が「初めまして、ビースト国のアランと申します」と話に割り込んできた。

アランは長い黒髪を後ろに纏め、アメジスト色の目で背も高く「王子様?」というオーラを醸し出していた。

「アラン……。どうしてここに?」シルビア王女が、険しい顔で訊ねると、アランはふふっと笑って「お父上からヒューマン国と交流を深めてくるように言われましてね……」と小声で答えた。

アランは、ジッとクロエの目を見ながら手を取ると、サッと指先に口づけをして「クロエ嬢、また今度」と言って教室を出ていった。

ルカはすぐにクロエに念話で話しかけた。(クロエ、大丈夫か。あいつ魅了使ってただろ)

クロエはルカを見ると頷きながら念話で返答した。(うん。気持ち悪い~!この手、洗ってくるわ!)

クロエが手を洗いに教室を出ようとすると、ロアがクロエの手をバシッと掴み、アランが口づけした指先に必死に何度も洗浄魔法をかけていた。

((ロア……。過保護だな……))クロエとルカの念話が重なった。


クロエは、シルビア王女がいたことを思い出し、ハッと振り返ると「アランが申し訳ありません……」とフワフワの白い耳をしょぼんとさせてクロエに頭を下げていた。

ルカは王女に「何か、事情がありそうですね」と目を細めながら訪ねたが、シルビア王女は「ここでは……」と俯いて、「後日お話しさせていただきます」と言い残して教室を出ていった。

ロアは、クロエとルカに振り返ると念話で話した。
 
(俺んとこの諜報部員がビースト国の内情探ってきてさ、今朝、話聞いたとこなんだけど。あの国もかなりヤバイね……。今夜、詳しく話すから辺境伯のタウンハウスに集合な)と言って席についた。


その夜、クロエが辺境伯のタウンハウスに転移すると、玄関ホールで待っていた執事が「お二人とも、すでに談話室でお待ちでございます」と言って案内してくれた。

辺境伯のタウンハウスは、レーナやレイが何重にも結界を重ね掛けして誰も入れない要塞と化していた。そして、タウンハウスに居る執事とメイド達は相当な戦闘訓練を積んでいる兵で、少人数制でタウンハウスを守っていた。

「ごめん!遅くなりました~」とクロエが談話室に入ると、ルカとロアはすでに話し合いを始めていた。

「クロエ、ルカにはすでに話したんだが、実はビースト国の国王がヒューマン国と手を組んでブラウン辺境伯家と魔国を乗っ取る計画を立ててるらしいんだ」

「何のために……?」

「ビースト国は、ブラウン辺境伯領の魔道具や食料加工技術、そして魔の森の土地が目的らしい。今、ビースト国は人口が増えてきて食料の供給が不足しているらしいんだ。そしてヒューマン国の王妃は、魔国から産出される魔石や宝石が欲しいらしいわ。しかし、その2国が手を組んで魔国に戦争吹っ掛けても勝てないから、クロエを手に入れて、クロエの暗黒魔法使って戦争しようとしている。あの2国と地底族が組んでクロエの力が加わったら、確かに勝てる見込みが出るからな」

「それで、あのアランってやつを学院に寄こして、クロエにハニートラップ仕掛けようとしたのか……。まぁ、クロエに魅了は効かないけどね」ルカは無表情の中にも少し苛立った様子を見せながら独り言のように呟いた。

(ん?ルカが嫉妬?クロエに恋愛感情?それとも子弟愛か?ほほう~、いい傾向だな!)ルカの嫉妬してるような表情をロアは見逃さなかったのであった。

ロアは、隣に座って俯きながら考え込んでいるクロエを見て声をかけた。「シルビア王女は、敵か味方か?って聞きたそうな顔してるな」

「うん。でもシルビア王女、何か私に言いたそうだった。また今度お話しますって言ってたから、それからだね……」
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