封印すべき禁断書物

いと

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禁書の手触り

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 翌日、会話もしないまま朝食を終え、研究所へ向かった。
 昨日の話をどうしても誰かに聞いてほしく、目の前にいた人物に相談した。

「な、なんだとおおおおおおおお!」

 話す相手を間違えてしまった。
 相手が誰でもよかったという考えで、目の前の人に無意識で話したのだけれど、もう少し考えるべきだった。
「マリーが、け、け、結婚……一体相手は!」
「落ち着いてください。大学の教授で雷の研究をしているそうです」
「雷の……レイジ教授か」
「知り合いですか?」
「時々研究レポートが届くから名前と顔は知っている。しかし、私の知る限りでは結構な高齢だと思うのだが」
 やはり、俺の生活や今後を考えて、姉さんは……。
「よかろう。その悩みを解決しよう!」
 そう言ってジョージさんは昨日の本を取り出した。

「まさか、殺人ですか?」
「言ったはずだよ? 私は残虐な行為に興味はない。ただ、面白い頁があったので、それを確かめるだけだよ」
「……面白い頁」
「遠い土地の言葉で、百聞は一見にしかずという言葉がある。まずは試してみようではないか」


 外に出て、例の大学へ行く。
 そこは大きな施設がいくつも連なり、大きな壁で囲まれていた。
 この辺では一番有名な大学とも呼ばれ、行く学生たちは全員が優秀かつ将来が約束されている。
 そんな教授ともなれば、将来の約束どころか、後世も安房だろう。
「あれがレイジ教授だ」
 そう言って見た先は、白髪かつ白いひげを伸ばした初老の男性だった。顔のシワを見る限り五十代……いや、もっと上にも見える。

「まさかあれが……」
「ガルム君、一応あの人は教授だ。物扱いはよくないぞ!」
「し、失礼しました……」
 誰に謝っているのかも不明だったが、とりあえず姉さんの夫といわれる人は分かった。しかし見つけたからと言ってどうするのだろう。

「ふふふ、これが新しい魔術。『認識阻害』だよ」
「にんしき……そがい?」
「そう。周囲からの存在を消し去り、居るはずなのに居ない。要は消えるのだよ」
「消える……死ぬのですか?」
「死にはしない。周囲はなぜか自然とそこから目をそらすことになるんだ。まあ見てくれ」
 そしてジョージさんは本に手をかざしてまたしても不思議な呪文を唱える。
 すると先ほどまで門に向かっていたレイジ教授が次第に薄くなり、最後は俺の目からは見えなくなった。

「き、消えた!」
「ああ、実験は成功だ」
「しかしこれでは騒ぎに……え」
 目の前の人間が消えたら騒ぎになる。そう思っていたのだが……。

「騒ぎになってない?」

 むしろ、そこにはもともと誰も居なかったかのように、自然な日常がそこにあった。
「そう。そこには居なかった。もしくは居たけど目を離したすきにどこかに行ったか程度にしか周囲は思っていない」
「では、教授はどこに?」
「見えていないだけで、そこを歩いているだろう。この本に触れてみたまえ」

 初めてネクロノミコンに触れる。その感触は奇妙なもので、布でもなく紙でもない、不思議な感触だった。

「い、いました」
「そう。そこに教授はいるんだ。そしてしばらくすれば気が付くだろう。教授はこの世界から消えていることに」
「……これは、残虐な行為ではないのですか?」
「殺してはいない。本人がこの後どうなるのかは本人次第だ」
「……そうですか」
 そしてそのままレイジ教授は、誰の目にも入らないまま、一日を過ごしたという。
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