シャボン玉の君に触れる日まで

氷高 ノア

文字の大きさ
上 下
6 / 10

しおりを挟む

「──って言ったのに……」
 モヤに包まれたような、くぐもった声が聞こえた。重い瞼を必死に持ち上げ、目を擦る。
 三メートルほど離れたところに、エリと母が立っていた。
 どこの部屋だかわからない。真っ白で、なんだか空気の重い部屋だった。
「……ごめんなさい」
 エリが俯き、震えた声で言った。何故か息も乱れている。
 すると突然、母がエリに向かって手を挙げた。
「ちょ、母さん! やめろって……!」
 俺は咄嗟にエリの前へ飛び出した。
 パシンと頬が弾ける音がする。
 でもそれは、自分ではなく背後からだった。
「……ごめんなさい? ごめんなさいで済むと思ってるの!? だからあれだけ外出するなって、運動もするなって言ったのに! 元々、あなたが誘ったんでしょう!? あなたが学校説明会に行こうなんて言わなかったら……あなたと聖夜が出会わなければ、こんなことにはならなかったのに!」
 目の前で、母が半狂乱になって叫んだ。恐る恐る、顔だけを後ろへ向ける。倒れ込んだエリの頬は、少し赤くなっていた。
「なあ……俺はここにいるだろ? なあ、母さん、エリ。何をそんなに騒いでんだよ。演技だろ? 声だって聞こえてんだろ。目の前に……そばに居るんだから……」
 力が抜けて、膝から崩れ落ちる。
 プツンと音がして、全てが真っ暗になった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】君への祈りが届くとき

remo
青春
私は秘密を抱えている。 深夜1時43分。震えるスマートフォンの相手は、ふいに姿を消した学校の有名人。 彼の声は私の心臓を鷲掴みにする。 ただ愛しい。あなたがそこにいてくれるだけで。 あなたの思う電話の相手が、私ではないとしても。 彼を想うと、胸の奥がヒリヒリする。

カフェノートで二十二年前の君と出会えた奇跡(早乙女のことを思い出して

なかじまあゆこ
青春
カフェの二階でカフェノートを見つけた早乙女。そのノートに書かれている内容が楽しくて読み続けているとそれは二十二年前のカフェノートだった。 そして、何気なくそのノートに書き込みをしてみると返事がきた。 これってどういうこと? 二十二年前の君と早乙女は古いカフェノートで出会った。 ちょっと不思議で切なく笑える青春コメディです。それと父との物語。内容は違いますがわたしの父への思いも込めて書きました。 どうぞよろしくお願いします(^-^)/

余命三ヶ月、君に一生分の恋をした

望月くらげ
青春
感情を失う病気、心失病にかかった蒼志は残り三ヶ月とも言われる余命をただ過ぎ去るままに生きていた。 定期検診で病院に行った際、祖母の見舞いに来ていたのだというクラスメイトの杏珠に出会う。 杏珠の祖母もまた病気で余命三ヶ月と診断されていた。 「どちらが先に死ぬかな」 そう口にした蒼志に杏珠は「生きたいと思っている祖母と諦めているあなたを同列に語らないでと怒ると蒼志に言った。 「三ヶ月かけて生きたいと思わせてあげる」と。 けれど、杏珠には蒼志の知らない秘密があって――。

深海の星空

柴野日向
青春
「あなたが、少しでも笑っていてくれるなら、ぼくはもう、何もいらないんです」  ひねくれた孤高の少女と、真面目すぎる新聞配達の少年は、深い海の底で出会った。誰にも言えない秘密を抱え、塞がらない傷を見せ合い、ただ求めるのは、歩む深海に差し込む光。  少しずつ縮まる距離の中、明らかになるのは、少女の最も嫌う人間と、望まれなかった少年との残酷な繋がり。 やがて立ち塞がる絶望に、一縷の希望を見出す二人は、再び手を繋ぐことができるのか。 世界の片隅で、小さな幸福へと手を伸ばす、少年少女の物語。

勿忘草~尚也side~

古紫汐桜
青春
俺の世界は……ずっとみちるだけだった ある日突然、みちるの前から姿を消した尚也 尚也sideの物語

鬼の子

柚月しずく
青春
鬼の子として生まれた鬼王花純は、ある伝承のせいで、他人どころか両親にさえ恐れられる毎日を過ごしていた。暴言を吐かれることは日常で、誰一人花純に触れてくる者はいない。転校生・渡辺綱は鬼の子と知っても、避ける事なく普通に接してくれた。戸惑いつつも、人として接してくれる綱に惹かれていく。「俺にキスしてよ」そう零した言葉の意味を理解した時、切なく哀しい新たな物語の幕が開ける。

岩にくだけて散らないで

葉方萌生
青春
風間凛は父親の転勤に伴い、高知県竜太刀高校にやってきた。直前に幼なじみの峻から告白されたことをずっと心に抱え、ぽっかりと穴が開いた状態。クラスにもなじめるか不安な中、話しかけてきたのは吉原蓮だった。 蓮は凛の容姿に惹かれ、映像研究会に誘い、モデルとして活動してほしいと頼み込む。やりたいことがなく、新しい環境になじめるか不安だった凛は吉原の求めに応じ、映像研究会に入るが——。

榛名の園

ひかり企画
青春
荒れた14歳から17歳位までの、女子少年院経験記など、あたしの自伝小説を書いて見ました。

処理中です...