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知らない展開
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「お待たせした」
早足で渋い声を放ちながらパーティー会場にやって来たのは、40代後半の立派な大人の男性だ。彼の名前はリシャール。イシステア王国の司法を掌っている、重要な人物である。
そんな彼は、王族の婚姻関係なども管理をしている。第一王子であるアンセル様と私の婚約も。だから本来、婚約破棄については彼を同席させて話し合うべき問題だ。しかも、周囲には極秘にして処理するべきことである。
アンセル様の行動は色々と問題だった。
多くの貴族たちが参加しているパーティーで公表するべき内容じゃないし、独断専行も大きな問題だろう。
その辺りを指摘すれば、私の責任にはならない。婚約を破棄されても、問題ない。だから私は、ちゃんとした証言者としてリシャール様を頼ることにした。彼に、私の仲間になってもらう。事前に色々とやり取りしていたので、駆けつけてくれた。
彼が来てくれたので、心配は消えた。あとは、彼に任せておけば大丈夫だと思う。それほどの安心感。
「話は聞きました。しかし、まだ全ての状況を把握しきれていません。改めて確認をしますが、アンセル様はアンジェリーク嬢との婚約を破棄することを宣言された。それは、間違いないのでしょうか?」
「あ、あぁ……。うん、間違いない」
リシャール様は冷静になろうと努めている。だけど、怒気が漏れ出ていた。そんな怒気がこもった声と視線を向けられたアンセル様は、少し怯えた様子である。
アンセル様の答えを聞いて、彼は片手で頭を抱えた。それから、首を横に振った。面倒なことをしでかしてくれた。そう考えているのだろう。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよッ!」
再び、ピンク色の髪の女が割って入ってきた。リシャール様の視線が、彼女の方に向く。
「貴方、誰よ? 関係ない人は、入ってこないでよね! 今私たちは、アンセル様とあの女の婚約破棄について話し合っているんだから!」
「駄目だよジョスリーヌ、今はマズイから……」
うわぁ。あのヒロイン女、本当に転生者なのだろうか。あの空気の読めない行動や、後先考えない発言。何も分かっていないのに好き勝手に動き回る様子は、2度目の人生経験者とは思えない。色々な人達に今も見られている、というのに。
暴走する彼女を、必死で止めようとするアンセル様。ヒロイン女に比べたら、彼はまだ状況を把握しているようだわ。パーティ会場で婚約破棄を告げる、なんて暴挙に出たけれど。
「私はイシステア王より、王子たちの婚約管理を任されております。関係ないのは、むしろ貴女の方では?」
「関係あるわよ! 私は、彼の恋人だもの!」
「アンセル様の恋人? 本当ですか?」
「い、いや……違う、その、親しくしている友人で……」
「婚約相手がいるというのに、他の女性と、ですか?」
「い、いや、それは……」
リシャール様のターゲットが、アンセル様の方に向かった。後ろめたいことをした自覚があるのか、問い詰められたアンセル様は答えにくそうだ。
そんな状況なのに、また無遠慮に割って入ってくるヒロイン女。
「待ちなさい! アンセル様は婚約を破棄されたわ! もう、その女は婚約相手じゃないわよ! 婚約が破棄されて、私たちは恋人になったのッ!」
「……まだ婚約破棄は成立しておりません。この後に手続きを進めて」
「そんな面倒な話、私は知らないわよッ!」
しれっと私は、彼らと距離を離すために少しだけ後ろに下がった。リシャール様とヒロイン女が対立して、それを止めようとしているアンセル様。まるで私は、部外者のように離れていた。これで、良いわね。
面倒な相手は、誰かに任せた方がいい。申し訳ないが、リシャール様に処理してもらおう。私はしばらく黙って、面倒な相手の様子を見守った。
早足で渋い声を放ちながらパーティー会場にやって来たのは、40代後半の立派な大人の男性だ。彼の名前はリシャール。イシステア王国の司法を掌っている、重要な人物である。
そんな彼は、王族の婚姻関係なども管理をしている。第一王子であるアンセル様と私の婚約も。だから本来、婚約破棄については彼を同席させて話し合うべき問題だ。しかも、周囲には極秘にして処理するべきことである。
アンセル様の行動は色々と問題だった。
多くの貴族たちが参加しているパーティーで公表するべき内容じゃないし、独断専行も大きな問題だろう。
その辺りを指摘すれば、私の責任にはならない。婚約を破棄されても、問題ない。だから私は、ちゃんとした証言者としてリシャール様を頼ることにした。彼に、私の仲間になってもらう。事前に色々とやり取りしていたので、駆けつけてくれた。
彼が来てくれたので、心配は消えた。あとは、彼に任せておけば大丈夫だと思う。それほどの安心感。
「話は聞きました。しかし、まだ全ての状況を把握しきれていません。改めて確認をしますが、アンセル様はアンジェリーク嬢との婚約を破棄することを宣言された。それは、間違いないのでしょうか?」
「あ、あぁ……。うん、間違いない」
リシャール様は冷静になろうと努めている。だけど、怒気が漏れ出ていた。そんな怒気がこもった声と視線を向けられたアンセル様は、少し怯えた様子である。
アンセル様の答えを聞いて、彼は片手で頭を抱えた。それから、首を横に振った。面倒なことをしでかしてくれた。そう考えているのだろう。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよッ!」
再び、ピンク色の髪の女が割って入ってきた。リシャール様の視線が、彼女の方に向く。
「貴方、誰よ? 関係ない人は、入ってこないでよね! 今私たちは、アンセル様とあの女の婚約破棄について話し合っているんだから!」
「駄目だよジョスリーヌ、今はマズイから……」
うわぁ。あのヒロイン女、本当に転生者なのだろうか。あの空気の読めない行動や、後先考えない発言。何も分かっていないのに好き勝手に動き回る様子は、2度目の人生経験者とは思えない。色々な人達に今も見られている、というのに。
暴走する彼女を、必死で止めようとするアンセル様。ヒロイン女に比べたら、彼はまだ状況を把握しているようだわ。パーティ会場で婚約破棄を告げる、なんて暴挙に出たけれど。
「私はイシステア王より、王子たちの婚約管理を任されております。関係ないのは、むしろ貴女の方では?」
「関係あるわよ! 私は、彼の恋人だもの!」
「アンセル様の恋人? 本当ですか?」
「い、いや……違う、その、親しくしている友人で……」
「婚約相手がいるというのに、他の女性と、ですか?」
「い、いや、それは……」
リシャール様のターゲットが、アンセル様の方に向かった。後ろめたいことをした自覚があるのか、問い詰められたアンセル様は答えにくそうだ。
そんな状況なのに、また無遠慮に割って入ってくるヒロイン女。
「待ちなさい! アンセル様は婚約を破棄されたわ! もう、その女は婚約相手じゃないわよ! 婚約が破棄されて、私たちは恋人になったのッ!」
「……まだ婚約破棄は成立しておりません。この後に手続きを進めて」
「そんな面倒な話、私は知らないわよッ!」
しれっと私は、彼らと距離を離すために少しだけ後ろに下がった。リシャール様とヒロイン女が対立して、それを止めようとしているアンセル様。まるで私は、部外者のように離れていた。これで、良いわね。
面倒な相手は、誰かに任せた方がいい。申し訳ないが、リシャール様に処理してもらおう。私はしばらく黙って、面倒な相手の様子を見守った。
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