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第5話
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「師匠は今、妻も恋人も居ませんよね?」
「そりゃ、居ないが」
私以上に、剣の道を極めようと日々研鑽を積む師匠。なので女性には縁がなくて、プライベートで女性と会ったり話したというのを聞いたことがなかった。
実は師匠は、学園内で女子学生たちに人気のある先生だった。渋い顔に落ち着いた雰囲気で、剣の実力も有るから。
「そもそも俺は、平民だぞ。貴族とは結婚ができない」
「いいえ。師匠は昔、大戦で活躍して名誉称号を授かったと聞いたことがあります」
「あー、そんなこともあったな。確かにそれなら。いや、しかし……」
侯爵家の令嬢である私は、爵位を持たない人と結婚するのは困難。だけど師匠は昔、大きな戦いで活躍して名誉爵位を授与しているという話を聞いたことがあった。だから師匠は、平民ではなく貴族である。
もしも師匠が名誉爵位を授与していなければ、私は家を捨てて彼のもとへ嫁ぐことも考えていた。それぐらいの覚悟を持って、女の私から結婚を申し込んだ。
幸い、師匠は爵位を持つ人なので結婚するのに問題はない。結婚するまでに色々と障害はあるかもしれないが。
「俺とセレスじゃ、年齢差があるじゃないか」
まだ、なんとかして結婚を回避しようとする師匠。本気で嫌がっている様子はないけれども、面倒だという感情が見て取れる。なんとかして、彼をやる気にしないと。私は必死で説得を続ける。
「貴族なら、この程度の年齢差は特に問題ありません」
16歳の私に、38歳の師匠。このぐらいの年齢差なら珍しくともなんともない、稀によく見る年の差婚である。
「うーん。だが俺は、一生独身を貫こうと思っていてな」
「師匠が結婚しないのなら、私も一生結婚しません」
「ぐっ……。私は別にいいが、君も結婚しないというのは……」
私は、強いからという理由で婚約破棄されたような女だ。ならば私よりも強い師匠だったら、結婚する相手としてお似合いだと思った。師匠の以上に相応しいと思える相手は居ないだろう。だったら、私も結婚しなくていいやと思う。
「私が相手じゃ嫌ですか?」
「嫌ではない。嫌じゃないが、40年近く結婚してこなかった俺が君のような若くて美しい女性と結婚だなんて。もっと他に、良い相手が居るんじゃないか?」
師匠は嫌じゃない、と言ってくれた。ならば、可能性は大いにある。
「今から婚約してくれる相手を見つけ出すのは、非常に難しいと思います。しかも、1度婚約を破棄された女なので、ろくな相手が見つかるとは思えません」
そもそも師匠こそ、この世界で結婚するのに1番良い相手だと思っている。今まで婚約相手が居た私は、考えたことの無かった可能性。この可能性を逃したくない。
「うーん……」
「結婚して下さい、師匠」
「うっ」
苦しそうに頭をかきむしる師匠に向けて、私は改めて結婚を申し込む。すると彼は観念して、私の目を見てこう言った。
「わかった! わかったよ、結婚しよう。君の両親と話し合いをしないと」
「大丈夫です。話し合いは、私に任せて下さい」
こうして私は、師匠と結婚することが決まった。
「そりゃ、居ないが」
私以上に、剣の道を極めようと日々研鑽を積む師匠。なので女性には縁がなくて、プライベートで女性と会ったり話したというのを聞いたことがなかった。
実は師匠は、学園内で女子学生たちに人気のある先生だった。渋い顔に落ち着いた雰囲気で、剣の実力も有るから。
「そもそも俺は、平民だぞ。貴族とは結婚ができない」
「いいえ。師匠は昔、大戦で活躍して名誉称号を授かったと聞いたことがあります」
「あー、そんなこともあったな。確かにそれなら。いや、しかし……」
侯爵家の令嬢である私は、爵位を持たない人と結婚するのは困難。だけど師匠は昔、大きな戦いで活躍して名誉爵位を授与しているという話を聞いたことがあった。だから師匠は、平民ではなく貴族である。
もしも師匠が名誉爵位を授与していなければ、私は家を捨てて彼のもとへ嫁ぐことも考えていた。それぐらいの覚悟を持って、女の私から結婚を申し込んだ。
幸い、師匠は爵位を持つ人なので結婚するのに問題はない。結婚するまでに色々と障害はあるかもしれないが。
「俺とセレスじゃ、年齢差があるじゃないか」
まだ、なんとかして結婚を回避しようとする師匠。本気で嫌がっている様子はないけれども、面倒だという感情が見て取れる。なんとかして、彼をやる気にしないと。私は必死で説得を続ける。
「貴族なら、この程度の年齢差は特に問題ありません」
16歳の私に、38歳の師匠。このぐらいの年齢差なら珍しくともなんともない、稀によく見る年の差婚である。
「うーん。だが俺は、一生独身を貫こうと思っていてな」
「師匠が結婚しないのなら、私も一生結婚しません」
「ぐっ……。私は別にいいが、君も結婚しないというのは……」
私は、強いからという理由で婚約破棄されたような女だ。ならば私よりも強い師匠だったら、結婚する相手としてお似合いだと思った。師匠の以上に相応しいと思える相手は居ないだろう。だったら、私も結婚しなくていいやと思う。
「私が相手じゃ嫌ですか?」
「嫌ではない。嫌じゃないが、40年近く結婚してこなかった俺が君のような若くて美しい女性と結婚だなんて。もっと他に、良い相手が居るんじゃないか?」
師匠は嫌じゃない、と言ってくれた。ならば、可能性は大いにある。
「今から婚約してくれる相手を見つけ出すのは、非常に難しいと思います。しかも、1度婚約を破棄された女なので、ろくな相手が見つかるとは思えません」
そもそも師匠こそ、この世界で結婚するのに1番良い相手だと思っている。今まで婚約相手が居た私は、考えたことの無かった可能性。この可能性を逃したくない。
「うーん……」
「結婚して下さい、師匠」
「うっ」
苦しそうに頭をかきむしる師匠に向けて、私は改めて結婚を申し込む。すると彼は観念して、私の目を見てこう言った。
「わかった! わかったよ、結婚しよう。君の両親と話し合いをしないと」
「大丈夫です。話し合いは、私に任せて下さい」
こうして私は、師匠と結婚することが決まった。
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