欲しいというなら、あげましょう。婚約破棄したら返品は受け付けません。

第24話 交友関係の広がり

　レイクウッド家の屋敷で、私はジェイミー様と穏やかな日々を送っている。朝食の席では、レイクウッド家の優秀な料理人が用意してくれた焼き立てのスコーンを頬張る。彼と一緒に会話を楽しみながら。

「ヴィオラ、今朝のスコーンは君のリクエストで変更したものだよね。ドライフルーツとナッツの組み合わせが絶妙だ」
「ええ、前に食べた時に美味しかったので、また食べたいと思って。ジェイミー様のお口に合うようで嬉しいわ。料理人の方にも、私のリクエストを快く受け入れてくださって感謝しているの」

　お互いに微笑みを交わす私たち。こんな何気ない瞬間が、何よりも大切だと感じる。

　ジェイミー様が領地の仕事に出かけている間、私は侯爵夫人に必要な知識を学んでいた。昔からレイクウッド家に仕えている執事などに教わりながら、たくさんの本を読み漁る。歴史、政治、経済、社交、礼儀作法など、侯爵夫人として身につけるべき教養は広範囲に及ぶ。

　学ぶべきことは尽きないけれど、ジェイミー様の妻として相応しい存在になるためにも、今は頑張るとき。夢中で勉強する日々は、とても充実している。知識が増えるたびに、ジェイミー様を支える自信が湧いてくる。

　そんな日々の中で、二人でパーティーに招待されることも多い。今夜は、とある公爵家の新邸宅の完成祝いにお呼ばれしたので出席することに。

　玄関先には紋章の入った旗が翻り、格式高い雰囲気。ジェイミー様の横に寄り添うように立ち、ゆっくりと会場へ入る。一歩踏み入れると、豪華な装飾に囲まれた大広間が現れた。シャンデリアの明かりが華やかに輝いている。奏でられる優雅な音楽に、会場は華やかな笑い声に包まれている。とても良い雰囲気だと思った。

「さて。まずは、主催者の方に挨拶しに行こうか。今夜のパーティーを開いてくださったことへの感謝の気持ちを伝えないとね」
「はい、ジェイミー様。私も一緒に挨拶させていただきます」

　寄り添うように歩きながら、主催者である公爵夫妻に挨拶をする。その後は、会場を回って他の参加者たちとも挨拶を交わす。多くの知人が参加していたので、久しぶりの再会を喜び合ったり、近況を報告し合ったりしながら、和やかに会話を楽しむ。

　こういう場所での交流を大事にすることで、貴族社会との繋がりが広がっていくのだと実感する。

　経済的に困窮していた子爵家の娘の結婚式で、私の手持ちのドレスを提供して助けたことがきっかけで仲良くなった。

　貴重な古文書をコレクションしている伯爵には、自身の蔵書から希少な書物を譲ったことで親しくなった。

　庭園づくりに情熱を注ぐ公爵には、自身の庭から珍しい花の苗を分け与えたことがきっかけで親密な関係を築いた。

　私なりのやり方で皆の役に立ち、その結果、交友関係を結んで親しくなっていった。そうやって仲良くなった人たちが増えていき、パーティー会場などで再会することも多かった。



「ちょっと休もうか。話し続けて疲れただろう？」
「はい、そうですね。少し休憩させていただきます」

　一旦、ジェイミー様と二人でパーティー会場の片隅へ移動する。テーブルの上には、色とりどりの美味しそうな料理が並んでいる。オードブルから始まり、メインディッシュ、デザートまで豊富な品揃え。香り高い紅茶やスパークリングワインも用意されている。

　ジェイミー様と一緒に料理を味わいながら、ゆったりとした時間を過ごす。パーティーの喧騒から少し離れた空間で、二人きりの団らん。会話を交わしながら、お互いの存在を感じられるひととき。至福の時間だと感じた。

「ヴィオラ、今日も君が一緒にいてくれたおかげで、パーティーを楽しめている。色々と補助してくれて、ありがとう。君の存在に、とても助けられているよ」
「いえ、そんな。お礼を言われるようなことじゃないわ。私は、ジェイミー様と皆さまが仲良くなれるように、お手伝いしたいだけです。ジェイミー様たちの会話の邪魔にならずに、うまく役立てていたのなら嬉しいです」

　なるべく余計な口を挟まないように気を付けつつ、ジェイミー様たちの会話が盛り上がるように話題を提供したり、相づちを打ったりしていた。自分の存在が邪魔にならずに、みんなの会話を引き立てられていたなら、本当に良かった。

　お互いに微笑み合う私たち。幸せに包まれたひとときに浸る。



　そんな中、ふと会場の空気が変わったのを感じた。なんだか、嫌な予感がするわ。そして、不意に聞こえてきた、あの声。

「お姉様！」

　もう二度と聞きたくないと思っていた。でも、現実に耳に飛び込んできた。

「本当に、お久しぶりですお姉様」
「……」

　振り返ると、そこには妹のリリアンが不敵な笑みを浮かべて立っていた。なぜ彼女がここに？　どうして、私に接触してきたの？

　予想もしていなかったリリアンの登場に、私の心は大きく動揺していた。