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第23話 揺れ動く心◆公爵子息ルーカス視点
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それは、俺にとって完全に予想外の事態だった。父上に呼び出されて、こんな話を聞かされるなんて。
「レイクウッド家から、抗議と警告を受けた」
「え? どういうことですか?」
それから、詳しい話を聞いた。俺が婚約を破棄したヴィオラの新しい婚約相手が、レイクウッド家の当主だと知った。
彼女がもう新しい相手を見つけたことに驚くと同時に、レイクウッド家から抗議される理由が理解できなかった。
さらに父上から説明を聞くにつれて、事の面倒さを認識していく。
「リリアン嬢がヴィオラ嬢に接触した。そして、パーティーの失敗と、メイド解雇の責任はお前にあると言ったらしい。責任を取れと、そんな不当な要求をしたそうだ」
「そ、それは。えっと、リリアンとヴィオラは姉妹だから。冗談で言ったのかもしれません。なにかの間違いでは」
そう言いながら、それはないと思ってしまう。リリアンのメチャクチャな行動に、怒りと失望が込み上げてくる。頭を抱えたくなった。
「それは、本気で言っているのか?」
「……いいえ」
「それなら、これ以上は問題を起こさないようにしろ。お前の婚約者のことだろう。しっかり管理せねばならぬぞ」
「……わかりました。俺が責任を持って、なんとかします」
重苦しい面持ちで頷く。これは自分の責任だ。リリアンを選んだのは、他でもない俺自身なのだから。
「しばらくは外へ出ないように、部屋にでも閉じ込めておけ」
「はい、わかりました」
リリアンを部屋に閉じ込めて自由を奪うなんて、あまり考えたくない。でも、これ以上の事態を避けるには、それしか方法がない。勝手なことをするから!
メイドたちに指示を出して、リリアンを部屋に閉じ込めることにした。頼むから、これ以上変な問題を起こさないでくれ。
思い返してみると、婚約を交わしてからリリアンをめぐって面倒なことが、次々と起きている。
パーティーの大失敗に始まり、優秀なメイドたちが去り、館内の質が落ちていく。そして今回は、他家との関係にまで影響が及ぶような重大な問題を起こした。
姉妹だからって、許されない行為だった。そのせいで、俺の評価も下がってしまうだろう。考えれば考えるほど、頭が痛くなってくる。
しばらく自室で一人になり、考え込んでいた。なにかいい方法はないか。だけど、リリアンを放置しても無駄だろう。覚悟を決めて、リリアンが待っている部屋に俺も向かう。そこに閉じ込められているはずの彼女に、話を聞こう。
嫌悪感で胃がキリキリと痛むのを感じながら、俺は深呼吸をした。
彼女に会うのがこんなに辛くなるなんて、思わなかった。少し前までなかったはずの、嫌な感情。
このまま本当に、リリアンと人生をともにしていけるのだろうか。不安は膨らむばかりだった。
リリアンの部屋に入ると、メイドに怒鳴り散らす彼女の姿が目に入った。彼女は俺の姿を見つけると、走り寄ってきた。
「ルーカス様! こんな酷い仕打ち、許せません! 私を部屋に閉じ込めるなんて……。お願いしても、このメイドたちが出してくれないのよ! 私、これから外へ行かないといけない用事があるのに」
「それは、すまない」
高圧的な態度のリリアンを宥めながら、事情を聞き出す。どうやら、彼女はレイクウッド家の屋敷に向かおうとしていたらしい。部屋に閉じ込めた判断は、正しかったようだ。
良かった、レイクウッド家の屋敷に向かう前に止められた。
しばらく話し合った結果、リリアンはようやく落ち着きを取り戻してくれた。でも不安は残っている。
表面上は従順な様子を見せているけれど、本当は何を考えているのかわからない。不気味な印象すら感じる。俺が婚約相手に選んだリリアンという女性が、実はこんな人物だったなんて。
どうしても比較してしまう。前の婚約相手であるヴィオラと、今の婚約相手であるリリアン。ヴィオラと一緒にいた時は、こんなに問題を起こさなかった。悩んだり、苦しむこともなかった。今は、違う。
もしかしたら、ヴィオラとの婚約を破棄したあの日の判断は、間違いだったのではないか。深い後悔が、次第に胸を締め付けていく。
だが、この時に感じた後悔は、まだ序の口に過ぎなかった。近い将来、俺はもっと大きな後悔に苛まれることになる。そのことに、まだ気づいていない自分がいた。
「レイクウッド家から、抗議と警告を受けた」
「え? どういうことですか?」
それから、詳しい話を聞いた。俺が婚約を破棄したヴィオラの新しい婚約相手が、レイクウッド家の当主だと知った。
彼女がもう新しい相手を見つけたことに驚くと同時に、レイクウッド家から抗議される理由が理解できなかった。
さらに父上から説明を聞くにつれて、事の面倒さを認識していく。
「リリアン嬢がヴィオラ嬢に接触した。そして、パーティーの失敗と、メイド解雇の責任はお前にあると言ったらしい。責任を取れと、そんな不当な要求をしたそうだ」
「そ、それは。えっと、リリアンとヴィオラは姉妹だから。冗談で言ったのかもしれません。なにかの間違いでは」
そう言いながら、それはないと思ってしまう。リリアンのメチャクチャな行動に、怒りと失望が込み上げてくる。頭を抱えたくなった。
「それは、本気で言っているのか?」
「……いいえ」
「それなら、これ以上は問題を起こさないようにしろ。お前の婚約者のことだろう。しっかり管理せねばならぬぞ」
「……わかりました。俺が責任を持って、なんとかします」
重苦しい面持ちで頷く。これは自分の責任だ。リリアンを選んだのは、他でもない俺自身なのだから。
「しばらくは外へ出ないように、部屋にでも閉じ込めておけ」
「はい、わかりました」
リリアンを部屋に閉じ込めて自由を奪うなんて、あまり考えたくない。でも、これ以上の事態を避けるには、それしか方法がない。勝手なことをするから!
メイドたちに指示を出して、リリアンを部屋に閉じ込めることにした。頼むから、これ以上変な問題を起こさないでくれ。
思い返してみると、婚約を交わしてからリリアンをめぐって面倒なことが、次々と起きている。
パーティーの大失敗に始まり、優秀なメイドたちが去り、館内の質が落ちていく。そして今回は、他家との関係にまで影響が及ぶような重大な問題を起こした。
姉妹だからって、許されない行為だった。そのせいで、俺の評価も下がってしまうだろう。考えれば考えるほど、頭が痛くなってくる。
しばらく自室で一人になり、考え込んでいた。なにかいい方法はないか。だけど、リリアンを放置しても無駄だろう。覚悟を決めて、リリアンが待っている部屋に俺も向かう。そこに閉じ込められているはずの彼女に、話を聞こう。
嫌悪感で胃がキリキリと痛むのを感じながら、俺は深呼吸をした。
彼女に会うのがこんなに辛くなるなんて、思わなかった。少し前までなかったはずの、嫌な感情。
このまま本当に、リリアンと人生をともにしていけるのだろうか。不安は膨らむばかりだった。
リリアンの部屋に入ると、メイドに怒鳴り散らす彼女の姿が目に入った。彼女は俺の姿を見つけると、走り寄ってきた。
「ルーカス様! こんな酷い仕打ち、許せません! 私を部屋に閉じ込めるなんて……。お願いしても、このメイドたちが出してくれないのよ! 私、これから外へ行かないといけない用事があるのに」
「それは、すまない」
高圧的な態度のリリアンを宥めながら、事情を聞き出す。どうやら、彼女はレイクウッド家の屋敷に向かおうとしていたらしい。部屋に閉じ込めた判断は、正しかったようだ。
良かった、レイクウッド家の屋敷に向かう前に止められた。
しばらく話し合った結果、リリアンはようやく落ち着きを取り戻してくれた。でも不安は残っている。
表面上は従順な様子を見せているけれど、本当は何を考えているのかわからない。不気味な印象すら感じる。俺が婚約相手に選んだリリアンという女性が、実はこんな人物だったなんて。
どうしても比較してしまう。前の婚約相手であるヴィオラと、今の婚約相手であるリリアン。ヴィオラと一緒にいた時は、こんなに問題を起こさなかった。悩んだり、苦しむこともなかった。今は、違う。
もしかしたら、ヴィオラとの婚約を破棄したあの日の判断は、間違いだったのではないか。深い後悔が、次第に胸を締め付けていく。
だが、この時に感じた後悔は、まだ序の口に過ぎなかった。近い将来、俺はもっと大きな後悔に苛まれることになる。そのことに、まだ気づいていない自分がいた。
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