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第19話 不当な要求
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「お姉様!」
実家の廊下を歩いていると背後から突然、妹リリアンの甲高い声が聞こえてきた。久しぶりの再会に、私は驚きつつも立ち止まって振り返る。
最近、彼女は婚約者のルーカス様の屋敷に入り浸っているようで、あまり実家には戻ってこない。一方、私もジェイミー様の屋敷で過ごすことが多くなり、実家にいる時間も段々と減っていた。そんな事情から、私たち姉妹が顔を合わせる機会はめっきり減ってしまっていた。
「お姉様の保管室に置いてあった物が、全て無くなっていましたよ! 一体どういうことですか?」
リリアンが早足で近づいてきて、詰め寄るように尋ねてくる。その瞳には、怒気のようなものが宿っていた。
「え? ああ。あそこに置いていたものは全て、ジェイミー様の屋敷に移したのよ」
ジェイミー様が私のために新しい保管庫を用意してくださり、輸送の費用まで負担してくれたおかげで、大切な品々を問題なく移動することができたのだ。
「私、聞いてませんでしたよ! 勝手に持ち出して、何考えてるんですか!」
リリアンが不満げに言う。その声は、廊下に響いた。
「えっと……。別に、知らせる必要はないと思ったから」
妹の剣幕に、戸惑いを隠せない。確かに報告はしていなかったけれど、自分の物を移動するのに、妹の許可を得る必要はないと思ったから。彼女は一瞬、怒った様子を見せたが、すぐに表情を変えて話題を切り替えた。
「まあ、それはいいとして。それよりも、大変なことになったんですから」
「大変なこと?」
妹の深刻な面持ちに、私は首を傾げる。一体何があったというのだろう。
「私をお披露目するヴァレンタイン家のパーティーが、大失敗に終わったんですよ。装飾や料理の手配がうまくいかなくて、ゲストの評判も散々でした。本当に酷い有様だったんです。お姉様だって、そう思うでしょう?」
そんな事言われても、私は戸惑ってしまう。リリアンは眉をひそめ、憤慨した様子。
「まあ、大変だったのね……」
私は同情の言葉をかけるが、リリアンの表情はさらに曇っていく。
「パーティーを台無しにしたのは、あのいけ好かないメイドたちのせいよ。お姉様を慕っていた連中が、私の邪魔をしてきたんですから」
ヴァレンタイン家のメイドたちは、優秀な人も多かったはず。そう簡単に失敗するとは思えないのだけど。私がヴァレンタイン家を去った後、メイドが入れ替わったのかしら。
「お姉様、人ごとみたいに言わないでください。だって、お姉様にも責任があるんじゃないの? 裏で指示でもしていたんでしょ、メイドたちに」
リリアンは疑うような目を向けてくる。まるで私が、事前に細工でもしていたかのような口ぶりで、疑われる。でも、やっぱり入れ替えたりしていないみたい。それなら、私がお世話になったメイドたちが失敗したということ?
その責任を、私に押し付ける? 考えてみても、意味がわからない。
「違うわ。私はそんなことしていない。責任なんて」
「ルーカス様は、メイドたちを全員クビにすることに決めたのよ。お姉様の影響を取り除かなきゃ、私たちの未来のためにならないからって」
リリアンの言葉に、私は愕然とする。大勢の無実のメイドたちが、不当に職を失うことになるなんて。
「ちょっと待って、リリアン。それは、行き過ぎよ! どうしてそんなことに。私、ルーカス様に直接掛け合ってみるわ」
かつての婚約者との関係は終わったが、世話になったメイドたちが不幸になるのは見過ごせない。何とか助けたい一心で、私はそう告げた。
「なに言ってるんですか、お姉様。ルーカス様が決めたことを、覆すようなマネはやめてください」
リリアンは冷たく言い放つ。私の言葉に耳を貸す様子はない。
「とにかく、そういうことよ。お姉様のせいで、パーティーは失敗したし、メイドも入れ替えることになった。その損害分を、お姉様が持っている物で支払ってもらうから。覚悟しておいてね」
「は? ちょっと、リリアン……」
身に覚えのない損害賠償の要求に、私は絶句した。事情も確かめずに、一方的に責任を押し付けられるなんて。
リリアンはそれ以上話を聞こうとせず、クルリと踵を返して足早に立ち去っていった。
実家の廊下を歩いていると背後から突然、妹リリアンの甲高い声が聞こえてきた。久しぶりの再会に、私は驚きつつも立ち止まって振り返る。
最近、彼女は婚約者のルーカス様の屋敷に入り浸っているようで、あまり実家には戻ってこない。一方、私もジェイミー様の屋敷で過ごすことが多くなり、実家にいる時間も段々と減っていた。そんな事情から、私たち姉妹が顔を合わせる機会はめっきり減ってしまっていた。
「お姉様の保管室に置いてあった物が、全て無くなっていましたよ! 一体どういうことですか?」
リリアンが早足で近づいてきて、詰め寄るように尋ねてくる。その瞳には、怒気のようなものが宿っていた。
「え? ああ。あそこに置いていたものは全て、ジェイミー様の屋敷に移したのよ」
ジェイミー様が私のために新しい保管庫を用意してくださり、輸送の費用まで負担してくれたおかげで、大切な品々を問題なく移動することができたのだ。
「私、聞いてませんでしたよ! 勝手に持ち出して、何考えてるんですか!」
リリアンが不満げに言う。その声は、廊下に響いた。
「えっと……。別に、知らせる必要はないと思ったから」
妹の剣幕に、戸惑いを隠せない。確かに報告はしていなかったけれど、自分の物を移動するのに、妹の許可を得る必要はないと思ったから。彼女は一瞬、怒った様子を見せたが、すぐに表情を変えて話題を切り替えた。
「まあ、それはいいとして。それよりも、大変なことになったんですから」
「大変なこと?」
妹の深刻な面持ちに、私は首を傾げる。一体何があったというのだろう。
「私をお披露目するヴァレンタイン家のパーティーが、大失敗に終わったんですよ。装飾や料理の手配がうまくいかなくて、ゲストの評判も散々でした。本当に酷い有様だったんです。お姉様だって、そう思うでしょう?」
そんな事言われても、私は戸惑ってしまう。リリアンは眉をひそめ、憤慨した様子。
「まあ、大変だったのね……」
私は同情の言葉をかけるが、リリアンの表情はさらに曇っていく。
「パーティーを台無しにしたのは、あのいけ好かないメイドたちのせいよ。お姉様を慕っていた連中が、私の邪魔をしてきたんですから」
ヴァレンタイン家のメイドたちは、優秀な人も多かったはず。そう簡単に失敗するとは思えないのだけど。私がヴァレンタイン家を去った後、メイドが入れ替わったのかしら。
「お姉様、人ごとみたいに言わないでください。だって、お姉様にも責任があるんじゃないの? 裏で指示でもしていたんでしょ、メイドたちに」
リリアンは疑うような目を向けてくる。まるで私が、事前に細工でもしていたかのような口ぶりで、疑われる。でも、やっぱり入れ替えたりしていないみたい。それなら、私がお世話になったメイドたちが失敗したということ?
その責任を、私に押し付ける? 考えてみても、意味がわからない。
「違うわ。私はそんなことしていない。責任なんて」
「ルーカス様は、メイドたちを全員クビにすることに決めたのよ。お姉様の影響を取り除かなきゃ、私たちの未来のためにならないからって」
リリアンの言葉に、私は愕然とする。大勢の無実のメイドたちが、不当に職を失うことになるなんて。
「ちょっと待って、リリアン。それは、行き過ぎよ! どうしてそんなことに。私、ルーカス様に直接掛け合ってみるわ」
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「なに言ってるんですか、お姉様。ルーカス様が決めたことを、覆すようなマネはやめてください」
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「は? ちょっと、リリアン……」
身に覚えのない損害賠償の要求に、私は絶句した。事情も確かめずに、一方的に責任を押し付けられるなんて。
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