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第5話 優しさの裏で◆妹リリアン視点

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 私がねだれば、お姉様はいつでも譲ってくれた。本当に愚かよね。私だったら絶対に嫌だと思う。大事なものは、誰にも渡したくない。それが普通の感覚のはず。

 なんでお姉様は、そうやって簡単に大事なものを渡してしまうのかしら。全然理解できない。それで、幸せそうな笑顔を浮かべているのが意味不明。もっと、悲しそうにしてくれたらいいのに。

 それになんだか、あの笑顔を見ていると見下されているような感覚になる。だから私は、執着心を全く見せないお姉様が大嫌いだった。



 公爵家の御曹司という価値の高い婚約相手を奪われたりしたら、お姉様の表情だって変わると思ったのに。それなのに、いつものように笑顔を浮かべて立場を譲ってくれた。本当にムカつく。どういうつもりなのよ。

 譲られた瞬間、その立場の魅力は半減したような気がした。だから嫌なのよ。もっと抵抗してくれないと、奪い取る喜びもない。

 まあでも、譲ってくれるのなら私が利用させてもらうわよ。価値を十分にあげて、後悔させてやるんだから。お姉様が、この立場をあっさり譲ってしまったことを数年後には、後悔するぐらいにね。

 お姉様に見せつけるように、幸せオーラを振りまいてやるわ。お姉様の嫉妬に苛まれる顔が見たいの。私に譲ってしまったことを後悔する顔が。

 ルーカス様は、私の味方になってくれた。私の欲望を満たすための駒よ。だから、上手に付き合ってあげるわ。その対価に、富と権力を私に与えて欲しいの。この欲を満たして欲しい。

「リリアン、お前は本当に魅力的だよ。ヴィオラとは比べ物にならない」

 ルーカス様はそう言って、私を抱き寄せる。お姉様と比べて、そう評価してくれるのは嬉しい。私は、お姉様よりも魅力的。当然よ。

「ルーカス様こそ、素敵です。私、ルーカス様のためなら何だってしてみせますわ」

 媚びるような笑顔を浮かべて、私は甘えるように彼に寄り添う。

 お姉様は馬鹿ね。こんなに扱いやすくて楽な、素晴らしい男性を手放してしまうなんて。私は、絶対に手放したりしない。掴んだ幸せは、誰にも渡さない。

 お姉様には、私の幸せを羨ましがっていてもらうだけでいいの。そして、私の勝利を思い知らせてやるんだから。

「ねえ、ルーカス様。私たち、すぐに結婚しましょうよ。もう、待ちきれないの」
「そうだな。俺もお前を妻にしたい。早めに結婚の準備を進めよう」

 ルーカス様の言葉に、私は嬉しさで胸が弾みそう。

 ああ、お姉様。あなたが譲ってくれたおかげで、私は幸せになれるのよ。あなたの愚かで見えっ張りな優しさを、私は最大限に利用させてもらうわね。

 私の幸せを、あなたの不幸の上に築いてやるんだから。

 大事なものを譲ったりなんかしていたら、きっと最後には手元に何も残らないわ。その時になって、お姉様が後悔しても、もう遅いんだから。
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