上 下
3 / 6

第3話 期待と不安の狭間で

しおりを挟む
 私とルーカス様の婚約が破棄されてから、リリアンとルーカス様の仲は良好なようだ。おそらく二人は、以前から密かに会っていたのだろう。それを隠さなくなって、色々と見えるようになった、ということでしょうね。

 妹は、何度も繰り返し自慢げに話してくる。正直、少し面倒だと感じてしまう。私に自慢するよりも、彼と一緒に過ごしたほうが有意義なのではないだろうか。

 でもまあ、二人とも楽しそうだから、特に問題ないのかもしれない。仲睦まじく、ずっとそのままでいてほしいと私は願っている。

「お姉様は、早く新しい婚約相手を見つけないといけませんよ。大変ですね!」

 リリアンが、私を見て言う。確かに、新しいお相手が見つかればいいけれど、焦ってもしょうがないとも思う。それも、運命の巡り合わせでしょう。

「えぇ、そうね」

 妹に話を合わせて、私は適当に相槌を打つ。

「申し訳ありません。私がルーカス様に選ばれてしまったばっかりに!」
「……」

 うーん。やっぱり、少し面倒ね。二人が別れない程度の、ちょっとした喧嘩でもあればいいのに。そうすれば、リリアンも私に構っている余裕はなくなるだろうに。

 そう思ってしまうぐらい、ちょっとしつこい。



 そんなある朝食の時間。いつものようにリリアンが絡んでくるので、いつものように適当に相槌を打っていると、久しぶりにお父様が食卓にやってきた。

「お帰りなさいませ、お父様。お仕事は問題なくお済みになりましたか?」
「ああ、こっちは何とかなったよ」

 私の問いかけに、問題ないと答えるお父様。

 こっちは、と言葉を濁された。私は、その言葉が少し気になった。何かあったのでしょうか。それについて聞く前に、向こうから問いかけられた。

「それで、ヴァレンタイン家との婚約を破棄したと聞いたぞ」
「はい、そうです」

 なるほど、その事かと納得する。お父様も当然、気になっているようね。

「それについて、詳しく話を聞かせてもらえるか」
「わかり――」
「私も、お姉様が婚約破棄されたことは知っていますよ! その場に居合わせましたから」

 私が説明を始めようとすると、妹のリリアンが強引に入ってくる。それについて、話したいようだ。それなら、彼女に説明役を譲ろうかしら。

「いや、リリアンからは後で聞く。まずは、ヴィオラから話を聞かせてくれ」

 お父様が、そう言う。

「わかりました」
「えー!」
 
 不満げなリリアン。そんなに自分で説明したかったの?

 文句を言う妹の横で、私はお父様にルーカス様との婚約破棄に至るまでの経緯を説明した。朝食中や、食後の時間も使って、たっぷりと話す。

「なるほど、そういうことか。忙しくしている間に、そんなことになっていたとは」

 説明を終えると、お父様は腕を組み、渋い表情で何度か頷いた。確かに、お父様が留守の間の出来事だった。

「ヴィオラ。大事な時期に一緒にいてやれなくて、すまなかったな」
「いえ、私は大丈夫ですから」
「仕方ないのよ! お姉様に非があって、ルーカス様が失望されたのだから」

 ここでも割り込んでくるリリアン。

 ルーカス様が私に対して失望された、ね。無能と突きつけられた件も関係あるのかしら。よくわからないけれど、リリアンは不満そうな顔をしている。

「それじゃあ、ヴィオラの次の婚約候補を探さないとな」
「よろしくお願いいたします」

 お父様のお言葉に、私はすべて任せることにした。


 そんなやり取りから一週間ほど経った頃に、私との縁談を望む方が現れたそうだ。レイクウッド侯爵家の若手当主、ジェイミー様という方らしい。

 パーティー会場で何度かお会いしたことがある。お話もして、困っていた彼に贈り物をしたこともあった。そんな彼が、私との婚約を望んでいるらしい。

「レイクウッド家は、我がローゼンバーグ家と領地が近くて、昔から付き合いのある家だ」

 お父様はそう説明しながら、申し出を快諾したいとお話された。私はどうしたいのかと聞かれた。

「うふふ! 新しいお相手が見つかったのね、お姉様。侯爵家当主が次の婚約相手なのね。お姉様に、とってもお似合いですね。”侯爵家”の当主様なんて」

 リリアンが、意地悪そうに言う。とても嬉しそうに、侯爵家という言葉を強調してくる。侯爵家といったら、私たちと同じなのに。もう既に妹は、公爵夫人として上級貴族の気持ちになっているのかもしれない。

 とりあえず、彼女の言葉はスルーで。今は、新しい婚約相手のお方に集中するべきだわ。心の中でそう呟いた。

「わかりました。一度、会ってみたいです」
「そうか。日時を調整してもらって、会えるようにしてもらう。それまで、待て」
「はい」

 私の中では、期待と不安が入り混じっていた。とにかく、ジェイミー様との出会いが今から待ち遠しかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ごきげんよう、元婚約者様

藍田ひびき
恋愛
「最後にお会いしたのは、貴方から婚約破棄を言い渡された日ですね――」  ローゼンハイン侯爵令嬢クリスティーネからアレクシス王太子へと送られてきた手紙は、そんな書き出しから始まっていた。アレクシスはフュルスト男爵令嬢グレーテに入れ込み、クリスティーネとの婚約を一方的に破棄した過去があったのだ。  手紙は語る。クリスティーネの思いと、アレクシスが辿るであろう末路を。 ※ 3/29 王太子視点、男爵令嬢視点を追加しました。 ※ 3/25 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

【完結】長年の婚約者を捨て才色兼備の恋人を選んだら全てを失った!

つくも茄子
恋愛
公爵家の跡取り息子ブライアンは才色兼備の子爵令嬢ナディアと恋人になった。美人で頭の良いナディアと家柄は良いが凡庸な婚約者のキャロライン。ブライアンは「公爵夫人はナディアの方が相応しい」と長年の婚約者を勝手に婚約を白紙にしてしまった。一人息子のたっての願いという事で、ブライアンとナディアは婚約。美しく優秀な婚約者を得て鼻高々のブライアンであったが、雲行きは次第に怪しくなり遂には……。 他サイトにも公開中。

【完結】公爵子息は私のことをずっと好いていたようです

果実果音
恋愛
私はしがない伯爵令嬢だけれど、両親同士が仲が良いということもあって、公爵子息であるラディネリアン・コールズ様と婚約関係にある。 幸い、小さい頃から話があったので、意地悪な元婚約者がいるわけでもなく、普通に婚約関係を続けている。それに、ラディネリアン様の両親はどちらも私を可愛がってくださっているし、幸せな方であると思う。 ただ、どうも好かれているということは無さそうだ。 月に数回ある顔合わせの時でさえ、仏頂面だ。 パーティではなんの関係もない令嬢にだって笑顔を作るのに.....。 これでは、結婚した後は別居かしら。 お父様とお母様はとても仲が良くて、憧れていた。もちろん、ラディネリアン様の両親も。 だから、ちょっと、別居になるのは悲しいかな。なんて、私のわがままかしらね。

「期待外れ」という事で婚約破棄した私に何の用ですか? 「理想の妻(私の妹)」を愛でてくださいな。

百谷シカ
恋愛
「君ならもっとできると思っていたけどな。期待外れだよ」 私はトイファー伯爵令嬢エルミーラ・ヴェールマン。 上記の理由により、婚約者に棄てられた。 「ベリエス様ぁ、もうお会いできないんですかぁ…? ぐすん…」 「ああ、ユリアーナ。君とは離れられない。僕は君と結婚するのさ!」 「本当ですかぁ? 嬉しいです! キャハッ☆彡」 そして双子の妹ユリアーナが、私を蹴落とし、その方の妻になった。 プライドはズタズタ……(笑) ところが、1年後。 未だ跡継ぎの生まれない事に焦った元婚約者で現在義弟が泣きついて来た。 「君の妹はちょっと頭がおかしいんじゃないか? コウノトリを信じてるぞ!」 いえいえ、そういうのが純真無垢な理想の可愛い妻でしたよね? あなたが選んだ相手なので、どうぞ一生、愛でて魂すり減らしてくださいませ。

執着はありません。婚約者の座、譲りますよ

四季
恋愛
ニーナには婚約者がいる。 カインという青年である。 彼は周囲の人たちにはとても親切だが、実は裏の顔があって……。

殿下が望まれた婚約破棄を受け入れたというのに、どうしてそのように驚かれるのですか?

Mayoi
恋愛
公爵令嬢フィオナは婚約者のダレイオス王子から手紙で呼び出された。 指定された場所で待っていたのは交友のあるノーマンだった。 どうして二人が同じタイミングで同じ場所に呼び出されたのか、すぐに明らかになった。 「こんなところで密会していたとはな!」 ダレイオス王子の登場により断罪が始まった。 しかし、穴だらけの追及はノーマンの反論を許し、逆に追い詰められたのはダレイオス王子のほうだった。

悪役断罪?そもそも何かしましたか?

SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。 男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。 あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。 えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。 勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

【短編完結】地味眼鏡令嬢はとっても普通にざまぁする。

鏑木 うりこ
恋愛
 クリスティア・ノッカー!お前のようなブスは侯爵家に相応しくない!お前との婚約は破棄させてもらう!  茶色の長い髪をお下げに編んだ私、クリスティアは瓶底メガネをクイっと上げて了承致しました。  ええ、良いですよ。ただ、私の物は私の物。そこら辺はきちんとさせていただきますね?    (´・ω・`)普通……。 でも書いたから見てくれたらとても嬉しいです。次はもっと特徴だしたの書きたいです。

処理中です...