上 下
2 / 6

第2話 贈り物の連鎖

しおりを挟む
 屋敷に戻ってきた私は、婚約破棄について報告しなければならない。だけど、報告すべき相手は今この屋敷にいなかった。

 お父様は仕事で遠方に出張中で、しばらくは戻ってこられない。お母様は幼い頃に天国へ旅立たれた。だから、今この屋敷で話を聞いてくれる人は居ないのだ。

 お父様が戻られた時に、ゆっくり事情を説明しよう。

「お嬢様、いつものお返しの品が随分と溜まっておりますよ」

 屋敷に戻った私に、侍女のエミリーが声をかけてくる。エミリーは幼い頃から私の世話をしてくれている、心優しい女性だ。いつも私のことを気にかけ、さりげなく支えてくれる存在だった。

「まあ、大変。すぐに確認しなくては」

 そう言って私はエミリーや他の侍女たちを引き連れて、お返しの品を保管している部屋へ向かった。

 扉を開けると、そこには山のように贈り物が積み上げられている。一面に所狭しと並べられた品々を見て、私は驚いた。キラキラと輝く宝石類、上品な装飾が施された小物入れ、手の込んだ刺繍が美しいドレス。

 どれも一つ一つ丁寧に作られた、気の利いた贈り物ばかりだ。

「また、増えているわね」

 前回の整理から日が浅いのに、またこんなに増えている。このまま増えていくと、屋敷に収まらないほどの量に達してしまいそう。

「それだけ、お嬢様が慕われているのですよ」

 こうして改めて目の当たりにすると、その量の多さに何度も圧倒される。

 私はこれまで、多くの人に色々な物を贈ってきた。私が持っている物が欲しいと言ってくる人たちに、どんどん差し上げていった。

 その人の求める気持ちが本物だと感じたなら、私はその願いを叶えようとしてきた。時には失敗もあったけれど、それ以上に多くの笑顔を見ることができた。

 彼らは感謝して、お返しの品を送ってくれた。それが、私の目の前にある贈り物。ここに置いてある品の他にも、私は多くのものを受け取っていた。

 お返しは大丈夫だと言って遠慮しても、みんなが次々と贈り物を返してくれる。本当に優しい人と巡り会えてきた。

 だから私は、これからも人の求めに応えていこう。そう心に誓いながら、私は贈り物の山に向き合うのだった。

 私は受け取った贈り物を、まずは自分で使ったり鑑賞したり、大切に飾ったりする。そうすることで、贈ってくれた人の気持ちに応えられると思うからだ。

 そして、しばらくして欲しい人と出会ったら、今度はその贈り物をプレゼントする。最初に私に贈り物をしてくれた人は、そこまで了承済みだった。

 巡り巡って、欲しい人のもとへ届くように。私は、そこまで繋げる中間地点のような役目だと思っている。それは、とても素敵なこと。

 だから私は、これからも人の求めに応えていこう。そう心に誓いながら、私は贈り物の山に向き合うのだった。

「さぁみんな、この贈り物の確認を手伝って」
「もちろんです、お嬢様。早速、取り掛かりましょう」

 それから手分けして、私たちは贈り物を整理していく。今回も、本当に素敵な品々ばかりだった。

 私は一つ一つの贈り物に込められた優しさに触れながら、いつの日か誰かの笑顔につながりますようにと願うのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

困った時だけ泣き付いてくるのは、やめていただけますか?

柚木ゆず
恋愛
「アン! お前の礼儀がなっていないから夜会で恥をかいたじゃないか! そんな女となんて一緒に居られない! この婚約は破棄する!!」 「アン君、婚約の際にわが家が借りた金は全て返す。速やかにこの屋敷から出ていってくれ」  新興貴族である我がフェリルーザ男爵家は『地位』を求め、多額の借金を抱えるハーニエル伯爵家は『財』を目当てとして、各当主の命により長女であるわたしアンと嫡男であるイブライム様は婚約を交わす。そうしてわたしは両家当主の打算により、婚約後すぐハーニエル邸で暮らすようになりました。  わたしの待遇を良くしていれば、フェリルーザ家は喜んでより好条件で支援をしてくれるかもしれない。  こんな理由でわたしは手厚く迎えられましたが、そんな日常はハーニエル家が投資の成功により大金を手にしたことで一変してしまいます。  イブライム様は男爵令嬢如きと婚約したくはなく、当主様は格下貴族と深い関係を築きたくはなかった。それらの理由で様々な暴言や冷遇を受けることとなり、最終的には根も葉もない非を理由として婚約を破棄されることになってしまったのでした。  ですが――。  やがて不意に、とても不思議なことが起きるのでした。 「アンっ、今まで酷いことをしてごめんっ。心から反省しています! これからは仲良く一緒に暮らしていこうねっ!」  わたしをゴミのように扱っていたイブライム様が、涙ながらに謝罪をしてきたのです。  …………あのような真似を平然する人が、突然反省をするはずはありません。  なにか、裏がありますね。

ごきげんよう、元婚約者様

藍田ひびき
恋愛
「最後にお会いしたのは、貴方から婚約破棄を言い渡された日ですね――」  ローゼンハイン侯爵令嬢クリスティーネからアレクシス王太子へと送られてきた手紙は、そんな書き出しから始まっていた。アレクシスはフュルスト男爵令嬢グレーテに入れ込み、クリスティーネとの婚約を一方的に破棄した過去があったのだ。  手紙は語る。クリスティーネの思いと、アレクシスが辿るであろう末路を。 ※ 3/29 王太子視点、男爵令嬢視点を追加しました。 ※ 3/25 誤字修正しました。 ※ なろうにも投稿しています。

【完結】長年の婚約者を捨て才色兼備の恋人を選んだら全てを失った!

つくも茄子
恋愛
公爵家の跡取り息子ブライアンは才色兼備の子爵令嬢ナディアと恋人になった。美人で頭の良いナディアと家柄は良いが凡庸な婚約者のキャロライン。ブライアンは「公爵夫人はナディアの方が相応しい」と長年の婚約者を勝手に婚約を白紙にしてしまった。一人息子のたっての願いという事で、ブライアンとナディアは婚約。美しく優秀な婚約者を得て鼻高々のブライアンであったが、雲行きは次第に怪しくなり遂には……。 他サイトにも公開中。

【完結】公爵子息は私のことをずっと好いていたようです

果実果音
恋愛
私はしがない伯爵令嬢だけれど、両親同士が仲が良いということもあって、公爵子息であるラディネリアン・コールズ様と婚約関係にある。 幸い、小さい頃から話があったので、意地悪な元婚約者がいるわけでもなく、普通に婚約関係を続けている。それに、ラディネリアン様の両親はどちらも私を可愛がってくださっているし、幸せな方であると思う。 ただ、どうも好かれているということは無さそうだ。 月に数回ある顔合わせの時でさえ、仏頂面だ。 パーティではなんの関係もない令嬢にだって笑顔を作るのに.....。 これでは、結婚した後は別居かしら。 お父様とお母様はとても仲が良くて、憧れていた。もちろん、ラディネリアン様の両親も。 だから、ちょっと、別居になるのは悲しいかな。なんて、私のわがままかしらね。

「期待外れ」という事で婚約破棄した私に何の用ですか? 「理想の妻(私の妹)」を愛でてくださいな。

百谷シカ
恋愛
「君ならもっとできると思っていたけどな。期待外れだよ」 私はトイファー伯爵令嬢エルミーラ・ヴェールマン。 上記の理由により、婚約者に棄てられた。 「ベリエス様ぁ、もうお会いできないんですかぁ…? ぐすん…」 「ああ、ユリアーナ。君とは離れられない。僕は君と結婚するのさ!」 「本当ですかぁ? 嬉しいです! キャハッ☆彡」 そして双子の妹ユリアーナが、私を蹴落とし、その方の妻になった。 プライドはズタズタ……(笑) ところが、1年後。 未だ跡継ぎの生まれない事に焦った元婚約者で現在義弟が泣きついて来た。 「君の妹はちょっと頭がおかしいんじゃないか? コウノトリを信じてるぞ!」 いえいえ、そういうのが純真無垢な理想の可愛い妻でしたよね? あなたが選んだ相手なので、どうぞ一生、愛でて魂すり減らしてくださいませ。

執着はありません。婚約者の座、譲りますよ

四季
恋愛
ニーナには婚約者がいる。 カインという青年である。 彼は周囲の人たちにはとても親切だが、実は裏の顔があって……。

殿下が望まれた婚約破棄を受け入れたというのに、どうしてそのように驚かれるのですか?

Mayoi
恋愛
公爵令嬢フィオナは婚約者のダレイオス王子から手紙で呼び出された。 指定された場所で待っていたのは交友のあるノーマンだった。 どうして二人が同じタイミングで同じ場所に呼び出されたのか、すぐに明らかになった。 「こんなところで密会していたとはな!」 ダレイオス王子の登場により断罪が始まった。 しかし、穴だらけの追及はノーマンの反論を許し、逆に追い詰められたのはダレイオス王子のほうだった。

悪役断罪?そもそも何かしましたか?

SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。 男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。 あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。 えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。 勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

処理中です...