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番外編2 自然体で ※ルシール視点
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友人たちと一緒にアラムドラム帝国へ移ってきた私は今、一人で剣技の訓練に励んでいた。
訓練用の剣を振り下ろし、振り上げ、また振り下ろす。それを何度も繰り返した。王国に居た頃は婚約相手だった男に色々と言われて、こんなに訓練に集中することも出来なかった。だけど、今は集中できる。
「ふっ、はっ! ……ふぅ」
私は一度剣を下ろし、その場に座り込む。そして、空を仰ぎ見た。空には雲ひとつない快晴だ。絶好の訓練日和と言えるだろう。
「なかなか良い動きをするじゃないか、ルシール」
「っ!」
不意に声をかけられ、驚きながらそちらを向く。そこには見知った顔がいた。帝国で知り合い、婚約することになった男性。
「失礼しました。すぐに退きます」
立ち上がり、頭を下げる。そして、立ち去ろうとした時に彼から呼び止められた。
「待ってくれ。君の実力を、もっと見てみたい。俺の相手をしてくれないか?」
「私が、ですか?」
「ああ、そうだ」
そう言われると、断ることは出来ない。休憩したから、戦える。私は剣を構えた。すると彼は満足そうに笑い、いつの間にか持っていた訓練用の剣を構える。
お互いが剣を構え、向かい合う。彼の鋭い視線が私を射抜いた。背筋がゾクゾクと震える。恐怖ではなく、興奮からだ。この人は強い。この人に勝ちたい。勝ってみせたい。そんな想いが胸中を満たしていく。
「……行きますっ!」
「来い」
地面を蹴る。一瞬で距離が詰まり、彼が上段から剣を振り下ろしてきた。それを受け流し、反撃に出るも難なく防がれる。そのまま鍔迫り合いの形に。
至近距離にある彼の顔はとても凛々しくて、思わず見惚れてしまう。
だけどそれも一瞬のことで、すぐに押し返された。数歩下がり、体勢を立て直す。再び間合いを詰めようとした時、今度は向こうから距離を詰めてきた。反射的に私も前に出ることで彼との間合いを潰すことに成功する。
激しい打ち合いが始まった。互いの武器が激しくぶつかり合う音が響き渡る。一歩間違えれば怪我をする可能性もあるというのに、不思議と怖くはなかった。むしろ楽しいくらいだ。このままずっと続けていたいとさえ思うほどに。
しかし、終わりはすぐに訪れた。私の一撃を躱され、逆に斬りつけられたのだ。咄嗟に体を捻って避けようとしたが、脇腹を軽く打たれてしまう。血が滲む程度だが、痛みがある。顔を顰めていると、彼は申し訳なさそうな顔をしながら謝罪の言葉を口にした。
「……すまない。やりすぎてしまった」
「いいえ。これは、私の実力不足です」
「打撲の跡が残ったら大変だ。早く治療しよう」
「いえ、これぐらい平気ですよ」
「ダメだ。私に治療させてくれ」
「は、はい……」
強引に迫られ、つい頷いてしまった。そして私は、彼の治療を大人しく受けることになった。
治療されている間、私は先ほどの手合わせを振り返った。彼は、かなり手を抜いていただろう。本気を出されたら一瞬で勝敗がついたはずだ。戦っている間に感じた、想像していたよりも圧倒的な力量差。
「それにしても、君は凄いな。まさかここまでやるとは思わなかったよ」
「ありがとうございます。でも、まだまだ未熟だと痛感しました」
「そんなことはないさ。少なくとも、俺は君を認めてるよ」
彼の言葉に嘘は感じられない。実力者である彼から認めてもらえた。それが、とても嬉しい。
王国に居たころ私が訓練で剣を振っていると、女がそんなことをする必要などないと言われ続けてきた。無駄だと。女なんかに剣の才能はないから意味ないと。
そんな婚約相手だった男から隠れて、実家の兵士たちの訓練に混ざって鍛え続けてきた。ここでは、隠れる必要はない。堂々と訓練させてもらえるから。
会話している間に治療が終わった。痛みも引いた。
「今日の手合わせ、とても参考になった。ありがとう」
「いえ、私こそありがとうございました」
お互いに頭を下げ、感謝の言葉を述べる。
その日から、彼と手合わせしたり、一緒に訓練するようになった。
しばらくして、彼の昇進が決まった。私のお陰だと言ってくれる彼。そんなことはないと思うが、少しでも貢献できたのなら良かったと思う。
私は今日も、彼と剣を交わす。それが、私の日常になった。
帝国での暮らしは、とても良いものになりそうだと思った。
訓練用の剣を振り下ろし、振り上げ、また振り下ろす。それを何度も繰り返した。王国に居た頃は婚約相手だった男に色々と言われて、こんなに訓練に集中することも出来なかった。だけど、今は集中できる。
「ふっ、はっ! ……ふぅ」
私は一度剣を下ろし、その場に座り込む。そして、空を仰ぎ見た。空には雲ひとつない快晴だ。絶好の訓練日和と言えるだろう。
「なかなか良い動きをするじゃないか、ルシール」
「っ!」
不意に声をかけられ、驚きながらそちらを向く。そこには見知った顔がいた。帝国で知り合い、婚約することになった男性。
「失礼しました。すぐに退きます」
立ち上がり、頭を下げる。そして、立ち去ろうとした時に彼から呼び止められた。
「待ってくれ。君の実力を、もっと見てみたい。俺の相手をしてくれないか?」
「私が、ですか?」
「ああ、そうだ」
そう言われると、断ることは出来ない。休憩したから、戦える。私は剣を構えた。すると彼は満足そうに笑い、いつの間にか持っていた訓練用の剣を構える。
お互いが剣を構え、向かい合う。彼の鋭い視線が私を射抜いた。背筋がゾクゾクと震える。恐怖ではなく、興奮からだ。この人は強い。この人に勝ちたい。勝ってみせたい。そんな想いが胸中を満たしていく。
「……行きますっ!」
「来い」
地面を蹴る。一瞬で距離が詰まり、彼が上段から剣を振り下ろしてきた。それを受け流し、反撃に出るも難なく防がれる。そのまま鍔迫り合いの形に。
至近距離にある彼の顔はとても凛々しくて、思わず見惚れてしまう。
だけどそれも一瞬のことで、すぐに押し返された。数歩下がり、体勢を立て直す。再び間合いを詰めようとした時、今度は向こうから距離を詰めてきた。反射的に私も前に出ることで彼との間合いを潰すことに成功する。
激しい打ち合いが始まった。互いの武器が激しくぶつかり合う音が響き渡る。一歩間違えれば怪我をする可能性もあるというのに、不思議と怖くはなかった。むしろ楽しいくらいだ。このままずっと続けていたいとさえ思うほどに。
しかし、終わりはすぐに訪れた。私の一撃を躱され、逆に斬りつけられたのだ。咄嗟に体を捻って避けようとしたが、脇腹を軽く打たれてしまう。血が滲む程度だが、痛みがある。顔を顰めていると、彼は申し訳なさそうな顔をしながら謝罪の言葉を口にした。
「……すまない。やりすぎてしまった」
「いいえ。これは、私の実力不足です」
「打撲の跡が残ったら大変だ。早く治療しよう」
「いえ、これぐらい平気ですよ」
「ダメだ。私に治療させてくれ」
「は、はい……」
強引に迫られ、つい頷いてしまった。そして私は、彼の治療を大人しく受けることになった。
治療されている間、私は先ほどの手合わせを振り返った。彼は、かなり手を抜いていただろう。本気を出されたら一瞬で勝敗がついたはずだ。戦っている間に感じた、想像していたよりも圧倒的な力量差。
「それにしても、君は凄いな。まさかここまでやるとは思わなかったよ」
「ありがとうございます。でも、まだまだ未熟だと痛感しました」
「そんなことはないさ。少なくとも、俺は君を認めてるよ」
彼の言葉に嘘は感じられない。実力者である彼から認めてもらえた。それが、とても嬉しい。
王国に居たころ私が訓練で剣を振っていると、女がそんなことをする必要などないと言われ続けてきた。無駄だと。女なんかに剣の才能はないから意味ないと。
そんな婚約相手だった男から隠れて、実家の兵士たちの訓練に混ざって鍛え続けてきた。ここでは、隠れる必要はない。堂々と訓練させてもらえるから。
会話している間に治療が終わった。痛みも引いた。
「今日の手合わせ、とても参考になった。ありがとう」
「いえ、私こそありがとうございました」
お互いに頭を下げ、感謝の言葉を述べる。
その日から、彼と手合わせしたり、一緒に訓練するようになった。
しばらくして、彼の昇進が決まった。私のお陰だと言ってくれる彼。そんなことはないと思うが、少しでも貢献できたのなら良かったと思う。
私は今日も、彼と剣を交わす。それが、私の日常になった。
帝国での暮らしは、とても良いものになりそうだと思った。
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