9 / 42
第9話 婚約破棄の代償 ※宮廷魔術師の長候補の視点
しおりを挟む
「マリンとの婚約破棄と、取引の中止に何の関係が?」
本当に意味がわからなかった。僕がマリンとの婚約を破棄したことで、なぜ取引を中止させるのか。それがどうして、素材の品質低下に繋がっていくのか。
「何を言っているのですか。当然でしょう! マリン様のご実家であるリュミオール家が、今までの商売を取り仕切っていたのに。それで今まで、クロヴィス様も恩恵を受けてきたというのに。知らなかったのですか?」
「……いや、それはもちろん知っているけど」
宮廷魔術師である僕に対して、そんな口の利き方をする男にムッとするが、今はそれ以上に気になることがあったので、そこは無視して話を聞く。
リュミオール家が関わっていることは、もちろん知っていた。だけど理解できないのは、なぜ今になって取引を止めることになったのか。
「ですから、マリン様との婚約を破棄したからですよッ!」
「そんな、婚約を破棄したぐらいで取引を止めてしまうなんて」
それが原因なら、たしかに僕のせいである。しかし、そんなことで取引を止めてしまったら、リュミオール家にも大きな損害が出るはず。王国との重要な関係を断ち切ることになるのだから。
「破棄した、ぐらい……? その程度の認識だったのですか。貴方は本当に……。そのせいで、我々がこんなに苦労しているというのに……」
男は頭を抱えて、ブツブツと言い始めた。大変みたいだが、そんなことよりも今は優先するべきことがあるだろう。
「ともかく、取引している商人が変わったことは理解した。だが、新しい商人が用意した素材は品質が最悪だぞ。もっと質のいい物を用意してくれ」
「……それは、これから改善していきます」
あまり反省したような表情じゃないのが気になるが、問題点はちゃんと伝えた。可能であれば、リュミオール家と交渉して取引を再開するように、手を打ってほしいのだが。それは、彼らの仕事だろう。僕が口出しすることじゃない。質のいい素材さえ用意してくれたら、僕は何も文句は言わない。
素材調達班との話し合いを終えて、自分の研究室に戻ってきた。
「ったく」
今の僕の仕事は、新たな魔法技術を研究すること。それに集中するだけ。この研究結果が、王国の発展に貢献する。そんな、とても大事な仕事。自分の役目を正確に理解し、それを遂行すること。それが僕のやるべきことだ。気持ちを切り替えて、研究を再開する。
しかし、その後も用意された素材の品質は変わらず最悪だった。
そのせいで、僕の研究は停滞してしまった。回ってくる素材は相変わらず粗悪品で、何度も実験を失敗した。研究を進めることができない。素材調達班には何度も文句を言ったが、改善されることはなかった。
「こっちだって大変なんです! 素材を調達できる商人を探してきて、交渉して取引を成立させるだけでも一苦労なのに」
「それじゃあ、困る。なんとかしてくれ」
「素材の品質まで指定するのは、もっと関係が深まってからじゃないと無理ですよ! そんな無茶を言わないでくださいっ!」
そんな言い訳ばかりで、結局なにも解決しなかった。
「今までやってくれていた、リュミオール家に頼めばいいじゃないか」
「だから、無理ですよ!? リュミオール家は婚約破棄の件で激怒していて、交渉のテーブルにすらついてくれませんからね!」
「はぁ?」
こんなことになるとは、予想外だった。マリンとの婚約を破棄したぐらいで、そんな。やっぱり、理解できない。でも、アルメルと一緒になるために婚約破棄は仕方のないことだった。
とはいえ、今の状況も困ってしまう。
せっかく研究のアイデアがあるのに、それを実験できないなんて。モヤモヤした気持ちが続いて、集中力も途切れ途切れに。
こんな大事な時期に、成果を出せないなんて。
あぁ、どうしよう。
本当に意味がわからなかった。僕がマリンとの婚約を破棄したことで、なぜ取引を中止させるのか。それがどうして、素材の品質低下に繋がっていくのか。
「何を言っているのですか。当然でしょう! マリン様のご実家であるリュミオール家が、今までの商売を取り仕切っていたのに。それで今まで、クロヴィス様も恩恵を受けてきたというのに。知らなかったのですか?」
「……いや、それはもちろん知っているけど」
宮廷魔術師である僕に対して、そんな口の利き方をする男にムッとするが、今はそれ以上に気になることがあったので、そこは無視して話を聞く。
リュミオール家が関わっていることは、もちろん知っていた。だけど理解できないのは、なぜ今になって取引を止めることになったのか。
「ですから、マリン様との婚約を破棄したからですよッ!」
「そんな、婚約を破棄したぐらいで取引を止めてしまうなんて」
それが原因なら、たしかに僕のせいである。しかし、そんなことで取引を止めてしまったら、リュミオール家にも大きな損害が出るはず。王国との重要な関係を断ち切ることになるのだから。
「破棄した、ぐらい……? その程度の認識だったのですか。貴方は本当に……。そのせいで、我々がこんなに苦労しているというのに……」
男は頭を抱えて、ブツブツと言い始めた。大変みたいだが、そんなことよりも今は優先するべきことがあるだろう。
「ともかく、取引している商人が変わったことは理解した。だが、新しい商人が用意した素材は品質が最悪だぞ。もっと質のいい物を用意してくれ」
「……それは、これから改善していきます」
あまり反省したような表情じゃないのが気になるが、問題点はちゃんと伝えた。可能であれば、リュミオール家と交渉して取引を再開するように、手を打ってほしいのだが。それは、彼らの仕事だろう。僕が口出しすることじゃない。質のいい素材さえ用意してくれたら、僕は何も文句は言わない。
素材調達班との話し合いを終えて、自分の研究室に戻ってきた。
「ったく」
今の僕の仕事は、新たな魔法技術を研究すること。それに集中するだけ。この研究結果が、王国の発展に貢献する。そんな、とても大事な仕事。自分の役目を正確に理解し、それを遂行すること。それが僕のやるべきことだ。気持ちを切り替えて、研究を再開する。
しかし、その後も用意された素材の品質は変わらず最悪だった。
そのせいで、僕の研究は停滞してしまった。回ってくる素材は相変わらず粗悪品で、何度も実験を失敗した。研究を進めることができない。素材調達班には何度も文句を言ったが、改善されることはなかった。
「こっちだって大変なんです! 素材を調達できる商人を探してきて、交渉して取引を成立させるだけでも一苦労なのに」
「それじゃあ、困る。なんとかしてくれ」
「素材の品質まで指定するのは、もっと関係が深まってからじゃないと無理ですよ! そんな無茶を言わないでくださいっ!」
そんな言い訳ばかりで、結局なにも解決しなかった。
「今までやってくれていた、リュミオール家に頼めばいいじゃないか」
「だから、無理ですよ!? リュミオール家は婚約破棄の件で激怒していて、交渉のテーブルにすらついてくれませんからね!」
「はぁ?」
こんなことになるとは、予想外だった。マリンとの婚約を破棄したぐらいで、そんな。やっぱり、理解できない。でも、アルメルと一緒になるために婚約破棄は仕方のないことだった。
とはいえ、今の状況も困ってしまう。
せっかく研究のアイデアがあるのに、それを実験できないなんて。モヤモヤした気持ちが続いて、集中力も途切れ途切れに。
こんな大事な時期に、成果を出せないなんて。
あぁ、どうしよう。
454
お気に入りに追加
3,517
あなたにおすすめの小説
修道女エンドの悪役令嬢が実は聖女だったわけですが今更助けてなんて言わないですよね
星里有乃
恋愛
『お久しぶりですわ、バッカス王太子。ルイーゼの名は捨てて今は洗礼名のセシリアで暮らしております。そちらには聖女ミカエラさんがいるのだから、私がいなくても安心ね。ご機嫌よう……』
悪役令嬢ルイーゼは聖女ミカエラへの嫌がらせという濡れ衣を着せられて、辺境の修道院へ追放されてしまう。2年後、魔族の襲撃により王都はピンチに陥り、真の聖女はミカエラではなくルイーゼだったことが判明する。
地母神との誓いにより祖国の土地だけは踏めないルイーゼに、今更助けを求めることは不可能。さらに、ルイーゼには別の国の王子から求婚話が来ていて……?
* この作品は、アルファポリスさんと小説家になろうさんに投稿しています。
* 2025年2月1日、本編完結しました。予定より少し文字数多めです。番外編や後日談など、また改めて投稿出来たらと思います。ご覧いただきありがとうございました!
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
悪役断罪?そもそも何かしましたか?
SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。
男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。
あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。
えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。
勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。

ある王国の王室の物語
朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。
顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。
それから
「承知しました」とだけ言った。
ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。
それからバウンドケーキに手を伸ばした。
カクヨムで公開したものに手を入れたものです。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる