恋愛に興味がない私は王子に愛人を充てがう。そんな彼は、私に本当の愛を知るべきだと言って婚約破棄を告げてきた

キョウキョウ

文字の大きさ
上 下
1 / 5

定期報告

しおりを挟む
「アンネリーゼ様、本日のご報告に参上しました」
「ご苦労さま、ヘルミーネ。それで、ベルンハルト王子の様子は?」

 私は、読んでいた本を閉じて顔を上げるとヘルミーネと向かい合う。

 後ろで手を組み直立不動で目の前に立つ人物は、私の右腕的存在であるヘルミーネだ。16歳の私より、10歳年上の有能な女性である。

 彼女は、手に持った紙で確認しながらベルンハルト王子の様子について、報告してくれた。

「昨日は、朝からルイーゼ様と湖に出かけていきました。そこで、人目を忍んで愛を育んでいました。それから、城に帰ってきた後はドロテー様と一緒に夕食を楽しんだようですよ」
「なるほど。昨日は、控えめだったのね」
「そのようですね」

 いつもの傾向なら、もう2、3人ぐらいの女性と楽しそうにしているのに。少し、疲れているのかしら。体調管理はしっかりしてもらわないと。

「それ以外に、何か報告することは?」
「ありません」
「そう。報告ありがとう、ヘルミーネ。下がっていいわよ」
「失礼します」

 もう一度、お礼を言って彼女を下がらせる。ヘルミーネは、1度だけ頭を下げると部屋から出ていった。



 婚約者であるベルンハルト王子の一日の動向に関する知らせを聞くのが、私の朝の日課である。

 その報告は、彼が私とは別の女性と愛し合うのを監視するのが目的ではない。

 ベルンハルト王子が、普段通りの日常を過ごせるようにサポートするのが主な目的だった。

 彼は女性が好きなようで、ノリや気分で相手を変える。人として、どうかと思う。けれど彼は、この国の王子だった。性格や個性などが悪かったとしても、大切にしなければならない相手である。

 しかも彼は、私の婚約相手でもある。本当なら、私が彼の暴走する恋愛感情を制御するべきなのだろう。彼が、他の女性には目を向けないようになるほど、愛しい人になるべきなんだろう。それは理解している。

 だけど私は、恋愛なんて面倒だと思っていた。無駄だと思う事に、労力を割きたくない。

 そこで、私よりも彼と恋愛したいと思っている相手を用意して、充てがっていた。私の身代わりとしてベルンハルト王子の性欲を解消してくれたら、私も満足だった。

 女性が好きなベルンハルト王子は満足しているようだし、私も面倒だと思う恋愛をしなくて済む。お互いに、満足している良好な関係を築けていた。

 後は、ベルンハルト王子が王位を継承して、私が王妃になって。

 子どもを何人か作って、それから後は今と同じように他の女性たちに任せておく。そんな関係を続けていければ良いかな、と私は考えていた。

 まさか彼から、婚約破棄を突きつけられることになるとは、予想していなかった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ざまぁを回避したい王子は婚約者を溺愛しています

宇水涼麻
恋愛
春の学生食堂で、可愛らしい女の子とその取り巻きたちは、一つのテーブルに向かった。 そこには、ファリアリス公爵令嬢がいた。 「ファリアリス様、ディック様との婚約を破棄してください!」 いきなりの横暴な要求に、ファリアリスは訝しみながらも、淑女として、可憐に凛々しく対応していく。

断罪するならご一緒に

宇水涼麻
恋愛
卒業パーティーの席で、バーバラは王子から婚約破棄を言い渡された。 その理由と、それに伴う罰をじっくりと聞いてみたら、どうやらその罰に見合うものが他にいるようだ。 王家の下した罰なのだから、その方々に受けてもらわねばならない。 バーバラは、責任感を持って説明を始めた。

話が違います! 女性慣れしていないと聞いていたのですが

四季
恋愛
領地持ちの家に長女として生まれた私。 幼い頃から趣味や好みが周囲の女性たちと違っていて、女性らしくないからか父親にもあまり大事にしてもらえなかった。 そんな私は、十八の誕生日、父親の知り合いの息子と婚約することになったのだが……。

婚姻破棄された私は第一王子にめとられる。

さくしゃ
恋愛
「エルナ・シュバイツ! 貴様との婚姻を破棄する!」  突然言い渡された夫ーーヴァス・シュバイツ侯爵からの離縁要求。    彼との間にもうけた息子ーーウィリアムは2歳を迎えたばかり。  そんな私とウィリアムを嘲笑うヴァスと彼の側室であるヒメル。  しかし、いつかこんな日が来るであろう事を予感していたエルナはウィリアムに別れを告げて屋敷を出て行こうとするが、そんなエルナに向かって「行かないで」と泣き叫ぶウィリアム。 (私と一緒に連れて行ったら絶対にしなくて良い苦労をさせてしまう)  ドレスの裾を握りしめ、歩みを進めるエルナだったが…… 「その耳障りな物も一緒に摘み出せ。耳障りで仕方ない」  我が子に対しても容赦のないヴァス。  その後もウィリアムについて罵詈雑言を浴びせ続ける。  悔しい……言い返そうとするが、言葉が喉で詰まりうまく発せられず涙を流すエルナ。そんな彼女を心配してなくウィリアム。  ヴァスに長年付き従う家老も見ていられず顔を逸らす。  誰も止めるものはおらず、ただただ罵詈雑言に耐えるエルナ達のもとに救いの手が差し伸べられる。 「もう大丈夫」  その人物は幼馴染で6年ぶりの再会となるオーフェン王国第一王子ーーゼルリス・オーフェンその人だった。  婚姻破棄をきっかけに始まるエルナとゼルリスによるラブストーリー。

そのご令嬢、婚約破棄されました。

玉響なつめ
恋愛
学校内で呼び出されたアルシャンティ・バーナード侯爵令嬢は婚約者の姿を見て「きたな」と思った。 婚約者であるレオナルド・ディルファはただ頭を下げ、「すまない」といった。 その傍らには見るも愛らしい男爵令嬢の姿がある。 よくある婚約破棄の、一幕。 ※小説家になろう にも掲載しています。

父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました

四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。 だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!

婚約破棄が国を亡ぼす~愚かな王太子たちはそれに気づかなかったようで~

みやび
恋愛
冤罪で婚約破棄などする国の先などたかが知れている。 全くの無実で婚約を破棄された公爵令嬢。 それをあざ笑う人々。 そんな国が亡びるまでほとんど時間は要らなかった。

【短編】「これが最後でしてよ」と婚約者に言われた情けない王子の話

宇水涼麻
恋愛
第三王子である僕は学園の卒業パーティーで婚約者シルエリアに婚約破棄を言い渡す…… ことができなかった。 僕はこれからどうなってしまうのだろう。 助けを求めた僕にシルエリアはこう言った。 「これが最後でしてよ」 4000文字のショートストーリーです。

処理中です...