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定期報告
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「アンネリーゼ様、本日のご報告に参上しました」
「ご苦労さま、ヘルミーネ。それで、ベルンハルト王子の様子は?」
私は、読んでいた本を閉じて顔を上げるとヘルミーネと向かい合う。
後ろで手を組み直立不動で目の前に立つ人物は、私の右腕的存在であるヘルミーネだ。16歳の私より、10歳年上の有能な女性である。
彼女は、手に持った紙で確認しながらベルンハルト王子の様子について、報告してくれた。
「昨日は、朝からルイーゼ様と湖に出かけていきました。そこで、人目を忍んで愛を育んでいました。それから、城に帰ってきた後はドロテー様と一緒に夕食を楽しんだようですよ」
「なるほど。昨日は、控えめだったのね」
「そのようですね」
いつもの傾向なら、もう2、3人ぐらいの女性と楽しそうにしているのに。少し、疲れているのかしら。体調管理はしっかりしてもらわないと。
「それ以外に、何か報告することは?」
「ありません」
「そう。報告ありがとう、ヘルミーネ。下がっていいわよ」
「失礼します」
もう一度、お礼を言って彼女を下がらせる。ヘルミーネは、1度だけ頭を下げると部屋から出ていった。
婚約者であるベルンハルト王子の一日の動向に関する知らせを聞くのが、私の朝の日課である。
その報告は、彼が私とは別の女性と愛し合うのを監視するのが目的ではない。
ベルンハルト王子が、普段通りの日常を過ごせるようにサポートするのが主な目的だった。
彼は女性が好きなようで、ノリや気分で相手を変える。人として、どうかと思う。けれど彼は、この国の王子だった。性格や個性などが悪かったとしても、大切にしなければならない相手である。
しかも彼は、私の婚約相手でもある。本当なら、私が彼の暴走する恋愛感情を制御するべきなのだろう。彼が、他の女性には目を向けないようになるほど、愛しい人になるべきなんだろう。それは理解している。
だけど私は、恋愛なんて面倒だと思っていた。無駄だと思う事に、労力を割きたくない。
そこで、私よりも彼と恋愛したいと思っている相手を用意して、充てがっていた。私の身代わりとしてベルンハルト王子の性欲を解消してくれたら、私も満足だった。
女性が好きなベルンハルト王子は満足しているようだし、私も面倒だと思う恋愛をしなくて済む。お互いに、満足している良好な関係を築けていた。
後は、ベルンハルト王子が王位を継承して、私が王妃になって。
子どもを何人か作って、それから後は今と同じように他の女性たちに任せておく。そんな関係を続けていければ良いかな、と私は考えていた。
まさか彼から、婚約破棄を突きつけられることになるとは、予想していなかった。
「ご苦労さま、ヘルミーネ。それで、ベルンハルト王子の様子は?」
私は、読んでいた本を閉じて顔を上げるとヘルミーネと向かい合う。
後ろで手を組み直立不動で目の前に立つ人物は、私の右腕的存在であるヘルミーネだ。16歳の私より、10歳年上の有能な女性である。
彼女は、手に持った紙で確認しながらベルンハルト王子の様子について、報告してくれた。
「昨日は、朝からルイーゼ様と湖に出かけていきました。そこで、人目を忍んで愛を育んでいました。それから、城に帰ってきた後はドロテー様と一緒に夕食を楽しんだようですよ」
「なるほど。昨日は、控えめだったのね」
「そのようですね」
いつもの傾向なら、もう2、3人ぐらいの女性と楽しそうにしているのに。少し、疲れているのかしら。体調管理はしっかりしてもらわないと。
「それ以外に、何か報告することは?」
「ありません」
「そう。報告ありがとう、ヘルミーネ。下がっていいわよ」
「失礼します」
もう一度、お礼を言って彼女を下がらせる。ヘルミーネは、1度だけ頭を下げると部屋から出ていった。
婚約者であるベルンハルト王子の一日の動向に関する知らせを聞くのが、私の朝の日課である。
その報告は、彼が私とは別の女性と愛し合うのを監視するのが目的ではない。
ベルンハルト王子が、普段通りの日常を過ごせるようにサポートするのが主な目的だった。
彼は女性が好きなようで、ノリや気分で相手を変える。人として、どうかと思う。けれど彼は、この国の王子だった。性格や個性などが悪かったとしても、大切にしなければならない相手である。
しかも彼は、私の婚約相手でもある。本当なら、私が彼の暴走する恋愛感情を制御するべきなのだろう。彼が、他の女性には目を向けないようになるほど、愛しい人になるべきなんだろう。それは理解している。
だけど私は、恋愛なんて面倒だと思っていた。無駄だと思う事に、労力を割きたくない。
そこで、私よりも彼と恋愛したいと思っている相手を用意して、充てがっていた。私の身代わりとしてベルンハルト王子の性欲を解消してくれたら、私も満足だった。
女性が好きなベルンハルト王子は満足しているようだし、私も面倒だと思う恋愛をしなくて済む。お互いに、満足している良好な関係を築けていた。
後は、ベルンハルト王子が王位を継承して、私が王妃になって。
子どもを何人か作って、それから後は今と同じように他の女性たちに任せておく。そんな関係を続けていければ良いかな、と私は考えていた。
まさか彼から、婚約破棄を突きつけられることになるとは、予想していなかった。
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