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絶望に至る病
遅すぎた後悔
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「お久しぶりですディートリヒ様。お身体の具合いは、いかがでしょうか」
「ふん。また来たのか、オリヴィア」
一週間に一度ぐらいの頻度で、ディートリヒの看病に来ていたオリヴィア。しかし、婚約破棄という事件が今の状況を引き起こした原因だと考えているディートリヒにとって、自分の過ちを顧みずに彼女に対して強く当たることで精神を安定させていた。
ディートリヒに暴言を吐かれても、オリヴィアは悲しい表情を浮かべるだけで何も言い返さない。ただひたすら、精神の病が治ると信じて声をかけるだけだった。
「ディートリヒ様、貴方の病気は必ず良くなります。だから今は、医師の指示をしっかり聞いて安静にしていて下さい」
「ふん」
今、ディートリヒのことを一番に心配しているのがオリヴィアだろう。そして、優しく声を掛けてくれるのも彼女だけ。
他の人間は、ディートリヒという王子だった彼の存在を忘れ去ってしまっていた。オリヴィアだけが、元王子だったディートリヒという人間を認識している。無意識のうちに彼女の存在が、ディートリヒにとっての支えになっていた。それは分かっている。けれど、ディートリヒは捻くれた対応で彼女を雑に扱っていた。
意地を張って、ディートリヒはオリヴィアに向けて変わらず酷い暴言を吐き続けた。病気なんかじゃないのに貴様の心配なんかの看病など必要ない。俺のことなんか、放っておけと言って追い払おうとした。
「どうぞ、お大事になさって下さい」
オリヴィアは最後まで心配する表情を浮かべて、ディートリヒのもとから去っていく。見舞いに来た時、毎回のように見られる光景だった。
***
そんなある日、2人の別れは突然やって来た。
いつものようにディートリヒの病気を見舞いにやって来ていたオリヴィアが、前触れもなく告げた一言に彼は衝撃を受ける。
「私、新しい婚約者が決まりました」
「なんだと……!?」
王族であったディートリヒから婚約破棄を言い渡された後。修道院に送られる人生を覚悟していたオリヴィアの元に、新しい婚約の申し込みがあった。
その婚約話は、家の繁栄を目的にした政略結婚ではあった。婚約相手は、オリヴィアと年の近い青年貴族だった。知り合いではない人物で、どんな性格なのかも未知である相手。
だがしかし、その話を断ったらもう二度と婚約の話が舞い込んでくる事はないだろうと、オリヴィアは確信していた。それに、貴族として政治的な駆け引きのために結婚することも令嬢の役目だと信じていた彼女。
婚約の話を、すぐ受けることに決めた。
新しい婚約相手が決まったオリヴィアは、元婚約者であるディートリヒを見舞い通う日々を、もう送れなくなったと説明した。もう、会いに来ることが出来なくなったと、彼女は告げる。
「申し訳ありません、ディートリヒ様」
「ふん、二度と貴様の顔を見ずに済むというのならば清々する!」
「……今まで、ありがとうございました。失礼します」
オリヴィアは、ディートリヒを悲しそうな表情で見つめながら別れを告げた。最後の一言を口にした彼女は立ち上がり、もう二度と後ろを振り返らず部屋から出ると、彼のもとから去っていった。
「……ッ!」
部屋を出る時に振り返らなかった彼女は、手を伸ばし引き留めようとしているディートリヒの未練ある行動を見ずに済んだのだった。
オリヴィアが去った後、ディートリヒの手がベッドの上に力なく落ちた。彼は項垂れて、しばらく動かなくなった。
***
元王子のことを心配して屋敷を訪れるような見舞客は、もう二度と現れることは無かった。
以後、オリヴィアとの最後の別れを毎日のように思い出しながら後悔し続けて、1人で寂しく残りの人生を送ることになったディートリヒ。
「ふん。また来たのか、オリヴィア」
一週間に一度ぐらいの頻度で、ディートリヒの看病に来ていたオリヴィア。しかし、婚約破棄という事件が今の状況を引き起こした原因だと考えているディートリヒにとって、自分の過ちを顧みずに彼女に対して強く当たることで精神を安定させていた。
ディートリヒに暴言を吐かれても、オリヴィアは悲しい表情を浮かべるだけで何も言い返さない。ただひたすら、精神の病が治ると信じて声をかけるだけだった。
「ディートリヒ様、貴方の病気は必ず良くなります。だから今は、医師の指示をしっかり聞いて安静にしていて下さい」
「ふん」
今、ディートリヒのことを一番に心配しているのがオリヴィアだろう。そして、優しく声を掛けてくれるのも彼女だけ。
他の人間は、ディートリヒという王子だった彼の存在を忘れ去ってしまっていた。オリヴィアだけが、元王子だったディートリヒという人間を認識している。無意識のうちに彼女の存在が、ディートリヒにとっての支えになっていた。それは分かっている。けれど、ディートリヒは捻くれた対応で彼女を雑に扱っていた。
意地を張って、ディートリヒはオリヴィアに向けて変わらず酷い暴言を吐き続けた。病気なんかじゃないのに貴様の心配なんかの看病など必要ない。俺のことなんか、放っておけと言って追い払おうとした。
「どうぞ、お大事になさって下さい」
オリヴィアは最後まで心配する表情を浮かべて、ディートリヒのもとから去っていく。見舞いに来た時、毎回のように見られる光景だった。
***
そんなある日、2人の別れは突然やって来た。
いつものようにディートリヒの病気を見舞いにやって来ていたオリヴィアが、前触れもなく告げた一言に彼は衝撃を受ける。
「私、新しい婚約者が決まりました」
「なんだと……!?」
王族であったディートリヒから婚約破棄を言い渡された後。修道院に送られる人生を覚悟していたオリヴィアの元に、新しい婚約の申し込みがあった。
その婚約話は、家の繁栄を目的にした政略結婚ではあった。婚約相手は、オリヴィアと年の近い青年貴族だった。知り合いではない人物で、どんな性格なのかも未知である相手。
だがしかし、その話を断ったらもう二度と婚約の話が舞い込んでくる事はないだろうと、オリヴィアは確信していた。それに、貴族として政治的な駆け引きのために結婚することも令嬢の役目だと信じていた彼女。
婚約の話を、すぐ受けることに決めた。
新しい婚約相手が決まったオリヴィアは、元婚約者であるディートリヒを見舞い通う日々を、もう送れなくなったと説明した。もう、会いに来ることが出来なくなったと、彼女は告げる。
「申し訳ありません、ディートリヒ様」
「ふん、二度と貴様の顔を見ずに済むというのならば清々する!」
「……今まで、ありがとうございました。失礼します」
オリヴィアは、ディートリヒを悲しそうな表情で見つめながら別れを告げた。最後の一言を口にした彼女は立ち上がり、もう二度と後ろを振り返らず部屋から出ると、彼のもとから去っていった。
「……ッ!」
部屋を出る時に振り返らなかった彼女は、手を伸ばし引き留めようとしているディートリヒの未練ある行動を見ずに済んだのだった。
オリヴィアが去った後、ディートリヒの手がベッドの上に力なく落ちた。彼は項垂れて、しばらく動かなくなった。
***
元王子のことを心配して屋敷を訪れるような見舞客は、もう二度と現れることは無かった。
以後、オリヴィアとの最後の別れを毎日のように思い出しながら後悔し続けて、1人で寂しく残りの人生を送ることになったディートリヒ。
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