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絶望に至る病
時は流れて
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かつて王子という高貴な身分であったディートリヒ。だが現在は、自由に行動する権利を奪われていた。治療に専念することが必要なほど、重度の精神病を患っているという医師の診断が下されたから。勝手に行動することが許されなかった。
彼は病気療養のため、地方にある王領地へやって来ていた。
そこは自然豊かと言えば聞こえが良いが、都市の開発が全く進んでいないような場所だった。古い時代から取り残された、人々から忘れ去られた地域である。
ディートリヒ元王子は、病気を理由に王位継承権を取り上げられた。それだけでなく、王族の歴史や記録からも抹消されることになった。王国に、ディートリヒ王子は存在していないことになっている。精神病を患った王族など存在しないと、過去を無かったものとされた。
それが原因で、彼は人目に触れない忘れ去られてた土地へと連れて来られたのだった。
「私は病気なんかじゃない。早く王都へ帰らせてくれ!」
「はい、ディートリヒ様。落ち着いて下さいねぇ。さぁ、この薬を飲んで。この薬があれば、今夜はぐっすりと眠れますよ」
「うぐッ……!」
一辺倒に病気じゃない事を主張するディートリヒだったが、その場で看護を続けている彼ら彼女たちの中でディートリヒの言葉に聞く耳を持つ者は誰も居なかった。小さな子供をあやすように、優しい対応を続ける。
彼を担当している看護職員たちは、ディートリヒが回復する事を願って静かに暮らすための補助を務めていた。時間が来たら治療のために薬を飲ませる。それが自分たちの仕事だと思って、看護職員たちは無心で働くだけだった。
毎日決まった時間に起こされ、決まった量だけ食事を出される。食べたら、決まった薬の服用を指示される。
ディートリヒには、どれも強制的と言えるような決められた行動だけが許されていた。看護職員のサポートを拒否することは出来ない。
「いやだ! 飲みたくないッ!」
「ちゃんとお薬を飲んでくださいね。わがままは、ダメですよッ!」
「手足を抑えて!」
「逃さないように!」
「あうっ! ぐうっ! ギギギギッ!」
「口を開けさせろ! 力ずくで良いから!」
ある時、ディートリヒが薬を飲むのを拒もうとした。すると彼を看護している医者たち数人が力づくで押さえつけて、無理矢理に飲ませることも有った。いくら彼が拒否しようとしても、予定を突き通すために元王子でも勝手が許されなかった。
元王子は決められたスケジュールに従って、代わり映えのしない毎日を無理やり送らされた。
ちょっと外出するのにもディートリヒ元王子が逃げ出すのを防止するために監視がついて、部屋の中に居ても誰かが必ず彼の側に立っていた。何もさせてもらえず、時が流れるのをボーッと過ごすだけで四六時中誰かに監視されているような生活。まるで囚人だ。ディートリヒにとって、地獄のような日々だった。
「おい。俺は、いつまでここに監禁され続けるんだ?」
「……」
「ふん。やはり、何も答えんか」
「……」
屋敷の中では、ディートリヒが話しかけても職員たちは一切反応しない。決められた予定に従って、決められた台詞だけ言って働くだけ。周りに人が居るのに無視され続けて,、ディートリヒは孤独感を募らせていった。
本当に頭がどうにかなりそうな、そんな生活を送っていたディートリヒ。
けれど、ディートリヒのもとには時々見舞いに訪れてくれる者も居た。かつて、王子の婚約者であったオリヴィアという女性である。
彼は病気療養のため、地方にある王領地へやって来ていた。
そこは自然豊かと言えば聞こえが良いが、都市の開発が全く進んでいないような場所だった。古い時代から取り残された、人々から忘れ去られた地域である。
ディートリヒ元王子は、病気を理由に王位継承権を取り上げられた。それだけでなく、王族の歴史や記録からも抹消されることになった。王国に、ディートリヒ王子は存在していないことになっている。精神病を患った王族など存在しないと、過去を無かったものとされた。
それが原因で、彼は人目に触れない忘れ去られてた土地へと連れて来られたのだった。
「私は病気なんかじゃない。早く王都へ帰らせてくれ!」
「はい、ディートリヒ様。落ち着いて下さいねぇ。さぁ、この薬を飲んで。この薬があれば、今夜はぐっすりと眠れますよ」
「うぐッ……!」
一辺倒に病気じゃない事を主張するディートリヒだったが、その場で看護を続けている彼ら彼女たちの中でディートリヒの言葉に聞く耳を持つ者は誰も居なかった。小さな子供をあやすように、優しい対応を続ける。
彼を担当している看護職員たちは、ディートリヒが回復する事を願って静かに暮らすための補助を務めていた。時間が来たら治療のために薬を飲ませる。それが自分たちの仕事だと思って、看護職員たちは無心で働くだけだった。
毎日決まった時間に起こされ、決まった量だけ食事を出される。食べたら、決まった薬の服用を指示される。
ディートリヒには、どれも強制的と言えるような決められた行動だけが許されていた。看護職員のサポートを拒否することは出来ない。
「いやだ! 飲みたくないッ!」
「ちゃんとお薬を飲んでくださいね。わがままは、ダメですよッ!」
「手足を抑えて!」
「逃さないように!」
「あうっ! ぐうっ! ギギギギッ!」
「口を開けさせろ! 力ずくで良いから!」
ある時、ディートリヒが薬を飲むのを拒もうとした。すると彼を看護している医者たち数人が力づくで押さえつけて、無理矢理に飲ませることも有った。いくら彼が拒否しようとしても、予定を突き通すために元王子でも勝手が許されなかった。
元王子は決められたスケジュールに従って、代わり映えのしない毎日を無理やり送らされた。
ちょっと外出するのにもディートリヒ元王子が逃げ出すのを防止するために監視がついて、部屋の中に居ても誰かが必ず彼の側に立っていた。何もさせてもらえず、時が流れるのをボーッと過ごすだけで四六時中誰かに監視されているような生活。まるで囚人だ。ディートリヒにとって、地獄のような日々だった。
「おい。俺は、いつまでここに監禁され続けるんだ?」
「……」
「ふん。やはり、何も答えんか」
「……」
屋敷の中では、ディートリヒが話しかけても職員たちは一切反応しない。決められた予定に従って、決められた台詞だけ言って働くだけ。周りに人が居るのに無視され続けて,、ディートリヒは孤独感を募らせていった。
本当に頭がどうにかなりそうな、そんな生活を送っていたディートリヒ。
けれど、ディートリヒのもとには時々見舞いに訪れてくれる者も居た。かつて、王子の婚約者であったオリヴィアという女性である。
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