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王子の病気
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「は? びょうき?」
一瞬医者から何を言われたのかを理解できなかった王子は、呆けた顔を浮かべて、しばらく経った。医者から言われたことを理解した瞬間、すぐさま否定する。
「馬鹿な、私は健康体だぞ。病気なわけがない」
「身体は健康でしょう。ですが、心がオカシクなっているのです。自覚も出来ないとなると、非常に深刻な症状ですよ」
卒業記念パーティーという、祝うべき場所で婚約者であったオリヴィアに対して、わざわざ恥をかかせるような演出をして婚約破棄を告げたこと。しかも、国で決めた大事な婚約関係を王子が勝手に自己判断で破棄を告げた。それだけでも、判断能力が欠如している事は明白だった。
そして何よりも、今回の出来事と同じような事件が過去の歴史でも起こっていた、ということ。そして事を起こした過去の者達は、皆が精神病を患っていたという記録が残っている。過去にも事例がある出来事だった。
突然の心変わりというのは、王族によくある精神病として知られていた。
「申し上げにくい事なのですが、王族の関係者には精神を病む者も多いという記録が残っています。残念なことにディートリヒ様も、今回の出来事で明確になってしまいました。彼を病室に連れて行こう」
症状が発覚した場合、すぐに治療しないといけない。これを放置すると、だんだん認識能力がおかしくなって精神が崩壊する。
医者は近くにやって来ていた彼の助手に指示を出し、王子を病室に連れて行くことにした。すぐに治療を始められるように。
「違う、離せ無礼者! 私は病気なんかじゃない!」
「そうよ、ディートリヒ様を離してあげてよ!」
医者と助手が力を合わせて王子をパーティー会場から連れ出そうと捕まえる、だが彼は病気なんかじゃないと暴れて反抗する。そして、暴れる王子を離すように言って縋り付いてお願いをするアリスが居た。
「彼女も何か問題がありそうだな。一緒に病室に連れて検査しないと。誰か、女性の手伝いを呼んできてくれ。先に、錯乱している王子の捕獲を優先しろ」
「は、離してよっ! 何で私も!」
ディートリヒ王子と一緒にアリスも連れて行かれる事になった場所。女性の手伝いがやって来てアリスを捕まえる。
実は過去の事例であるように、婚約破棄という言葉を婚約者に放った時に王子の側に寄り添う女性が精神病を発症する事になってしまった大きな原因であると考えられていた。
その可能性について考察された記録が、いくつも残っている。王族に近寄っていた女性も、同じように精神が崩壊していたという症例があった。彼女の状態もついでに調べるため、アリスも病室に連れて行かれる。
「貴方は病気なのよ、でも落ち着いて必ず良くなるわ」
「な、何を言っているオリヴィア? 病気? そんな筈はない!」
暴れていたディートリヒを優しく気遣うオリヴィアにそう指摘されて、強く否定したものの不安に感じて焦っていた。
王子は病気である筈が無いと口では否定しているものの、一つ一つ指摘された事を思い返して考えてみれば確かにオカシイ。いや、そんな筈はない。自分は正しいはずで、オリヴィアがアリスをイジメていたのが悪い。しかし、その証拠は……?
「俺は、どうして……?」
「大丈夫。大丈夫よ、ディートリヒ」
ディートリヒは自分の心の中で行った否定と肯定の繰り返しに、本当に頭がおかしくなりそうだった。優しい声が聞こえて、声のする方へ視線を向ける。助けを求めて、縋るような目を向けた。
オリヴィアが優しく微笑んでいた。その表情の中に、心配するような顔も見え隠れしていた。俺を、心配してくれている。
彼は逃げ出す気力を失い、パーティー会場から連れ出されていった。
連れて行かれるディートリヒの背中を見送りながら、オリヴィアは王子が起こした精神の変異や精神病発症に気付けなかった自分を責めて、涙を流した。そして彼女は心の底から、王子の快復を願うのだった。
一瞬医者から何を言われたのかを理解できなかった王子は、呆けた顔を浮かべて、しばらく経った。医者から言われたことを理解した瞬間、すぐさま否定する。
「馬鹿な、私は健康体だぞ。病気なわけがない」
「身体は健康でしょう。ですが、心がオカシクなっているのです。自覚も出来ないとなると、非常に深刻な症状ですよ」
卒業記念パーティーという、祝うべき場所で婚約者であったオリヴィアに対して、わざわざ恥をかかせるような演出をして婚約破棄を告げたこと。しかも、国で決めた大事な婚約関係を王子が勝手に自己判断で破棄を告げた。それだけでも、判断能力が欠如している事は明白だった。
そして何よりも、今回の出来事と同じような事件が過去の歴史でも起こっていた、ということ。そして事を起こした過去の者達は、皆が精神病を患っていたという記録が残っている。過去にも事例がある出来事だった。
突然の心変わりというのは、王族によくある精神病として知られていた。
「申し上げにくい事なのですが、王族の関係者には精神を病む者も多いという記録が残っています。残念なことにディートリヒ様も、今回の出来事で明確になってしまいました。彼を病室に連れて行こう」
症状が発覚した場合、すぐに治療しないといけない。これを放置すると、だんだん認識能力がおかしくなって精神が崩壊する。
医者は近くにやって来ていた彼の助手に指示を出し、王子を病室に連れて行くことにした。すぐに治療を始められるように。
「違う、離せ無礼者! 私は病気なんかじゃない!」
「そうよ、ディートリヒ様を離してあげてよ!」
医者と助手が力を合わせて王子をパーティー会場から連れ出そうと捕まえる、だが彼は病気なんかじゃないと暴れて反抗する。そして、暴れる王子を離すように言って縋り付いてお願いをするアリスが居た。
「彼女も何か問題がありそうだな。一緒に病室に連れて検査しないと。誰か、女性の手伝いを呼んできてくれ。先に、錯乱している王子の捕獲を優先しろ」
「は、離してよっ! 何で私も!」
ディートリヒ王子と一緒にアリスも連れて行かれる事になった場所。女性の手伝いがやって来てアリスを捕まえる。
実は過去の事例であるように、婚約破棄という言葉を婚約者に放った時に王子の側に寄り添う女性が精神病を発症する事になってしまった大きな原因であると考えられていた。
その可能性について考察された記録が、いくつも残っている。王族に近寄っていた女性も、同じように精神が崩壊していたという症例があった。彼女の状態もついでに調べるため、アリスも病室に連れて行かれる。
「貴方は病気なのよ、でも落ち着いて必ず良くなるわ」
「な、何を言っているオリヴィア? 病気? そんな筈はない!」
暴れていたディートリヒを優しく気遣うオリヴィアにそう指摘されて、強く否定したものの不安に感じて焦っていた。
王子は病気である筈が無いと口では否定しているものの、一つ一つ指摘された事を思い返して考えてみれば確かにオカシイ。いや、そんな筈はない。自分は正しいはずで、オリヴィアがアリスをイジメていたのが悪い。しかし、その証拠は……?
「俺は、どうして……?」
「大丈夫。大丈夫よ、ディートリヒ」
ディートリヒは自分の心の中で行った否定と肯定の繰り返しに、本当に頭がおかしくなりそうだった。優しい声が聞こえて、声のする方へ視線を向ける。助けを求めて、縋るような目を向けた。
オリヴィアが優しく微笑んでいた。その表情の中に、心配するような顔も見え隠れしていた。俺を、心配してくれている。
彼は逃げ出す気力を失い、パーティー会場から連れ出されていった。
連れて行かれるディートリヒの背中を見送りながら、オリヴィアは王子が起こした精神の変異や精神病発症に気付けなかった自分を責めて、涙を流した。そして彼女は心の底から、王子の快復を願うのだった。
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