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第30話 穏便な決着

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「……」
「……」

 マルク王と向かい合うアンドリック様。私は、アンドリック様の後ろに立つ。

 周りに見られていると思ったけれど、意外と誰も見ていないみたい。参加者たちは料理に夢中のようで、こっちは気にしていないようね。チラチラと見てくる人もいるけれど、特に反応はない。良かった。

「彼女はもう、俺の妻です。諦めてください」
「……」

 黙り込むマルク王。そんなことを言われて、緊迫した場面だけど私は嬉しかった。そう。私は、アンドリック様の妻。

 チラチラと、私の顔を見てくるマルク王。何か言ってほしそうにしている。でも、答える義理はない。私は口を挟まず、2人の会話を見ていた。

「もし諦めないのでしたら、陛下であっても徹底的に戦います。その覚悟を持って、ご発言ください」
「……すまなかった」

 絞り出すような声で答えるマルク王。彼、そんなに私に執着していたの? なんで今になって? 婚約破棄を告げた時に見せた、あの怒りとか何だったのかしら。

 色々と疑問がある。でも、彼に関わるのは絶対にダメというのは明らかでしょう。前の関係に戻るなんて論外。私の夫は、アンドリック様だけ。この先もずっと。

 その後、消沈した様子のマルク王は離れていった。とりあえず、今回は何事もなく終わったようで良かった。

「申し訳ありません。私のせいで、マルク王に絡まれることになってしまって……」
「いや、君が謝る必要はない。悪いのは陛下だろう。……しかし、あんな人物が国王になってしまったのか。王妃も危ういし、不安だな」

 そう言って、ため息をつくアンドリック様。

「俺の方こそ、遅れてすまなかった。少し厄介なことに巻き込まれてしまって」
「いいえ、そんな謝らないでください!」

 駆けつけるのが遅かったわけではない。だから、アンドリック様も謝る必要はないと思う。それよりも、気になるのは。

「ですが、厄介なこと? 大丈夫なのですか?」
「あぁ、大丈夫。こっちはすぐに解決して、何の問題もないよ。君の方こそ、ケガはないか? 腕を掴まれていたようだが」

 そういえば、マルク王に腕を掴まれた。掴まれた自分の腕を見る。

「少し赤くなっていますね。でも、心配ありません」
「念のため、医者に診てもらおう」

 そう言って、私の腕を優しく撫でるアンドリック様。

「そんな、大袈裟ですよ。痛みはありません。大丈夫ですよ」
「……そうか。それなら、パーティーが終わるまで、もう少しだけ頑張れるか?」
「はい。頑張れます」
「よし。じゃあ、手伝ってくれ。それで、パーティーが終わった後に医者に診てもらおう」
「そこまで言うのでしたら、分かりました」

 アンドリック様は心配性だと思う。でも、彼が私を心配してくれているということはよく分かるから、とても嬉しい。そんな彼を安心させるためにも、後で医者に診てもらいましょう。

 こうして私はパーティーの最後までずっと、アンドリック様の側にいた。特に何もなく、パーティーも終わった。



 後日、パーティーで出された料理のレシピについて教えてほしいと頼まれることがあったり、また食べたいと言ってくれる人たちが多く居て、嬉しかった。

 要望に応えて、一部のレシピを公開した。それがエルヴェシウス公爵領の名物料理として国中で知られるようになる。思わぬ副産物もあったりしたけれど、それはまた別の話である。
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