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第20話 甘やかし ※マルク王子視点
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「もしかして、またか?」
「はい! また、逃げてきました」
前も同じような光景を見た。部屋に入ってきたアイリーンに呆れて、私はため息を吐く。
「まったく、キミは……。逃げるなんて、ダメじゃないか」
「でもぉ……」
「早く戻るんだ」
涙目になりながら訴えてくるけど、私は心を鬼にして言い聞かせる。だってこれは彼女のためでもあるから、仕方ない。
お願いして緩くしてもらった内容でも、彼女は大変だという。しかし、必要最低限の礼儀作法ぐらいは学んでおかないと。彼女は、次期王妃なんだから。
緩くしてもらった内容もサボっていたら、王妃として認められないかもしれない。
それでは私が困るし、何より彼女が可哀想だ。彼女には立派な王妃になってもらいたいと心から願っている。そのためにも、頑張ってもらわなければ。
「わかった。次は、何が欲しいんだ? 新しいドレスか? それとも、宝石か?」
「今日は、そんな気分じゃないんです。本当に休みたいんですよ」
「そうか」
逃げてくるたび、彼女にドレスや宝石などを買い与えて、やる気を出させている。だけど今日は、それじゃあダメらしい。
「だが、そんなこと言っていたら、いつまでたっても妃教育は終わらないぞ」
「本当に、大変なんですからね! それに、ちょっとずつ進んでますよ!」
「まあ確かに、お前は頑張っていると思うが」
「分かってくれますか!? そうなんですよ! 私は、頑張っているんです」
必死に訴えるアイリーンを見ていると、可愛いなと思ってしまう。
平気でこなすよりも、こうやって素直に本音をさらけ出して、あんなのは無理だと言って逃げてくる方が人間味を感じる。彼女らしくて、いいなと思った。
それに比べて、オリヴィアは……。
前の婚約相手と、今の婚約相手を比較すると、今の方が断然良いな。そんなことを考えているともう一人、中年の女性が部屋にやって来た。
「失礼します、殿下」
「どうした?」
「あっ!?」
入ってきたのは、アイリーンの教育係。逃げ出したアイリーンを追って、ここまで連れ戻しにきたのだろう。教育係の顔を見たアイリーンは、慌てて私の背後にまわり込んで隠れた。ばっちり見られているので、逃げ道がない。
「アイリーン様! まだ、授業は終わっていませんよ! 今すぐ戻って、続きをやりなさい」
「嫌です! もう、勉強なんてしたくありません!」
教育係は、私の背後にいるアイリーンにそう叫ぶ。しかし、アイリーンも負けじと叫び返した。
「殿下からも、アイリーン様に言ってください!」
「マルク様は私の味方よ! そうですよね? マルク様!」
教育係が私に訴えてきて、アイリーンは私の背後からそう言ってくる。間に挟まれた私は、ただ苦笑いを浮かべることしかできなかった。
こうなってしまったアイリーンに言うことを聞かせるのは、無理だろう。
けれど、アイリーンがこれだけ強く拒絶するなんて。内容を見直してもらった後の妃教育も相当厳しいんだろう。
もう少し、アイリーンには頑張ってほしいという気持ちもある。でも、無理しないように休ませてあげたいという思いもある。
「こんな状態だ。無理強いしても良くないぞ。もう少しだけ、アイリーンを休ませてあげてくれ」
「そうやって殿下が彼女を甘やかすせいで、後々大変なことになるんですよ」
もう、手遅れかもしれませんが。教育係の言葉が、妙に耳に残った。
「はい! また、逃げてきました」
前も同じような光景を見た。部屋に入ってきたアイリーンに呆れて、私はため息を吐く。
「まったく、キミは……。逃げるなんて、ダメじゃないか」
「でもぉ……」
「早く戻るんだ」
涙目になりながら訴えてくるけど、私は心を鬼にして言い聞かせる。だってこれは彼女のためでもあるから、仕方ない。
お願いして緩くしてもらった内容でも、彼女は大変だという。しかし、必要最低限の礼儀作法ぐらいは学んでおかないと。彼女は、次期王妃なんだから。
緩くしてもらった内容もサボっていたら、王妃として認められないかもしれない。
それでは私が困るし、何より彼女が可哀想だ。彼女には立派な王妃になってもらいたいと心から願っている。そのためにも、頑張ってもらわなければ。
「わかった。次は、何が欲しいんだ? 新しいドレスか? それとも、宝石か?」
「今日は、そんな気分じゃないんです。本当に休みたいんですよ」
「そうか」
逃げてくるたび、彼女にドレスや宝石などを買い与えて、やる気を出させている。だけど今日は、それじゃあダメらしい。
「だが、そんなこと言っていたら、いつまでたっても妃教育は終わらないぞ」
「本当に、大変なんですからね! それに、ちょっとずつ進んでますよ!」
「まあ確かに、お前は頑張っていると思うが」
「分かってくれますか!? そうなんですよ! 私は、頑張っているんです」
必死に訴えるアイリーンを見ていると、可愛いなと思ってしまう。
平気でこなすよりも、こうやって素直に本音をさらけ出して、あんなのは無理だと言って逃げてくる方が人間味を感じる。彼女らしくて、いいなと思った。
それに比べて、オリヴィアは……。
前の婚約相手と、今の婚約相手を比較すると、今の方が断然良いな。そんなことを考えているともう一人、中年の女性が部屋にやって来た。
「失礼します、殿下」
「どうした?」
「あっ!?」
入ってきたのは、アイリーンの教育係。逃げ出したアイリーンを追って、ここまで連れ戻しにきたのだろう。教育係の顔を見たアイリーンは、慌てて私の背後にまわり込んで隠れた。ばっちり見られているので、逃げ道がない。
「アイリーン様! まだ、授業は終わっていませんよ! 今すぐ戻って、続きをやりなさい」
「嫌です! もう、勉強なんてしたくありません!」
教育係は、私の背後にいるアイリーンにそう叫ぶ。しかし、アイリーンも負けじと叫び返した。
「殿下からも、アイリーン様に言ってください!」
「マルク様は私の味方よ! そうですよね? マルク様!」
教育係が私に訴えてきて、アイリーンは私の背後からそう言ってくる。間に挟まれた私は、ただ苦笑いを浮かべることしかできなかった。
こうなってしまったアイリーンに言うことを聞かせるのは、無理だろう。
けれど、アイリーンがこれだけ強く拒絶するなんて。内容を見直してもらった後の妃教育も相当厳しいんだろう。
もう少し、アイリーンには頑張ってほしいという気持ちもある。でも、無理しないように休ませてあげたいという思いもある。
「こんな状態だ。無理強いしても良くないぞ。もう少しだけ、アイリーンを休ませてあげてくれ」
「そうやって殿下が彼女を甘やかすせいで、後々大変なことになるんですよ」
もう、手遅れかもしれませんが。教育係の言葉が、妙に耳に残った。
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