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第13話
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「君と話がしたい! 時間はあるかな?」
「……少々、お待ち下さい」
パーティーの最中だ。貴方と話している暇なんて無い、と断ってしまいたかった。しかし残念ながら、彼は爵位の継承をして公爵家の当主となっていた。
近いうちに廃位されるという噂もあるが、今は公爵家当主である。そんな人物を、適当にあしらう事はできない。
彼の後ろには、申し訳無さそうな表情を浮かべる執事が立っていた。どうにかして追い返そうとした。けれど、公爵家として権力を振りかざして、無理やり会場の中に入ってきたという感じかな。
私は、怒りで歪んでしまいそうな表情を抑えて偽の笑顔を見せながら返事をする。パーティーの参加者たちが、心配そうな目を向けてくれる。大丈夫だ、問題ない。
ただ、この場で話し合うのは参加者たちの迷惑になるだろうから、移動しないと。主催者として、彼らの楽しみを壊してはいけない。
もう既に、手遅れな気もするけれど……。
「皆様。歓談中に申し訳ありませんが、用事が出来てしまったので少し離れますね。引き続き、パーティーをお楽しみ下さい」
そう言って、参加者たちの輪から離れる。そして。
「場所を変えて話しましょう」
「わかった」
「コチラに。一緒に、ついてきて下さい」
何を話すつもりかは分からないけれど、周りに聞かれないように個室へ案内する。アルフレッドは素直に了解して、私の後ろからついてきた。
「それで、話とは?」
さっさと話を終わらせたい。部屋に入ると席についてすぐ、メイドたちにはお茶の準備もさせずに待機させたまま、用件を聞き出そうとした。
「エヴリーヌ、俺ともう一度婚約してくれないか?」
「……は?」
パーティー主催の協力をお願いされるのかなと予想していたら、まさか婚約破棄を撤回したいと言ってくるだなんて予想外だった。
私は絶句して固まり、しばらく声も出せなかった。
慎重に、落ち着いてから彼のお願いに返事をする。もちろん、答えはノーだ。
「それは、無理な話です。私はもう、バティステト様という相手が居ます。フィヨン侯爵家の人間になりましたから」
「結婚式はまだ、だろう? それなら……!」
「そもそも、そんなに簡単に婚約破棄を撤回するなんて無理ですよ」
「そこをなんとか。君の社交界での影響力を使って、なんとかしてくれないか!」
「なぜ私が、わざわざそんなことを……」
何度も繰り返し断ったが、しつこく食い下がろうとするアルフレッド。そんな時に聞こえてきたのは、頼りになる人の声だった。
「人の婚約者を奪わないでもらおうか、アルフレッド殿」
「ッ! ……バティステト殿」
部屋に入ってきたバティステト様は、アルフレッドが座っている席の向かい側で、私の隣りに座った。それを苦々しい表情で見るアルフレッド。
バティステト様が助けに来てくれたことで、私はホッと安心する。とても頼もしい存在だった。
「彼女の知識や経験は、軍人派閥の侯爵家には勿体ないだろう」
だから差し出せとは口に出さないものの、遠回しな要求をしてくるアルフレッド。その視線を、真正面から受け止めて答えるバティステト様。
「いいえ。彼女は思う存分に、フィヨン家で力を発揮して活躍してもらっています。それに私は、彼女を愛している。大切な彼女を簡単に手放すつもりはありませんよ」
「ぐっ」
アルフレッドは、妹の嘘に騙されて簡単に婚約を破棄した。その事を皮肉るような言葉を放つバティステト様。横で聞いていた私の顔は、赤くなっていないだろうか。
そんな事を気にしていると、アルフレッドはターゲットを私に向ける。
「エヴリーヌ、今までの事は本当に申し訳ないと思っている。心の底から謝罪する。ドゥニーズの言っていたことは嘘だと分かったんだ。だから、俺と再び婚約してくれないか?」
「お断りします」
アルフレッドは、何度も必死に繰り返し婚約してくれと頼んできた。私が彼と再び婚約するなんてことは絶対にありえない。だから、どんなにしつこく頼み込まれても全て断った。
「本当に無理なのか? なんとかして……」
「さっさと帰ってくれ! 私達は、貴方と違って忙しいんだ」
「ぐぅ……、離せ! 話はまだ」
「終わりだ」
それでもしつこく粘ろうとするので、バティステト様が強制的に追い出した。彼を屋敷の外まで連れて行って、さっさと帰ってもらった。
「……少々、お待ち下さい」
パーティーの最中だ。貴方と話している暇なんて無い、と断ってしまいたかった。しかし残念ながら、彼は爵位の継承をして公爵家の当主となっていた。
近いうちに廃位されるという噂もあるが、今は公爵家当主である。そんな人物を、適当にあしらう事はできない。
彼の後ろには、申し訳無さそうな表情を浮かべる執事が立っていた。どうにかして追い返そうとした。けれど、公爵家として権力を振りかざして、無理やり会場の中に入ってきたという感じかな。
私は、怒りで歪んでしまいそうな表情を抑えて偽の笑顔を見せながら返事をする。パーティーの参加者たちが、心配そうな目を向けてくれる。大丈夫だ、問題ない。
ただ、この場で話し合うのは参加者たちの迷惑になるだろうから、移動しないと。主催者として、彼らの楽しみを壊してはいけない。
もう既に、手遅れな気もするけれど……。
「皆様。歓談中に申し訳ありませんが、用事が出来てしまったので少し離れますね。引き続き、パーティーをお楽しみ下さい」
そう言って、参加者たちの輪から離れる。そして。
「場所を変えて話しましょう」
「わかった」
「コチラに。一緒に、ついてきて下さい」
何を話すつもりかは分からないけれど、周りに聞かれないように個室へ案内する。アルフレッドは素直に了解して、私の後ろからついてきた。
「それで、話とは?」
さっさと話を終わらせたい。部屋に入ると席についてすぐ、メイドたちにはお茶の準備もさせずに待機させたまま、用件を聞き出そうとした。
「エヴリーヌ、俺ともう一度婚約してくれないか?」
「……は?」
パーティー主催の協力をお願いされるのかなと予想していたら、まさか婚約破棄を撤回したいと言ってくるだなんて予想外だった。
私は絶句して固まり、しばらく声も出せなかった。
慎重に、落ち着いてから彼のお願いに返事をする。もちろん、答えはノーだ。
「それは、無理な話です。私はもう、バティステト様という相手が居ます。フィヨン侯爵家の人間になりましたから」
「結婚式はまだ、だろう? それなら……!」
「そもそも、そんなに簡単に婚約破棄を撤回するなんて無理ですよ」
「そこをなんとか。君の社交界での影響力を使って、なんとかしてくれないか!」
「なぜ私が、わざわざそんなことを……」
何度も繰り返し断ったが、しつこく食い下がろうとするアルフレッド。そんな時に聞こえてきたのは、頼りになる人の声だった。
「人の婚約者を奪わないでもらおうか、アルフレッド殿」
「ッ! ……バティステト殿」
部屋に入ってきたバティステト様は、アルフレッドが座っている席の向かい側で、私の隣りに座った。それを苦々しい表情で見るアルフレッド。
バティステト様が助けに来てくれたことで、私はホッと安心する。とても頼もしい存在だった。
「彼女の知識や経験は、軍人派閥の侯爵家には勿体ないだろう」
だから差し出せとは口に出さないものの、遠回しな要求をしてくるアルフレッド。その視線を、真正面から受け止めて答えるバティステト様。
「いいえ。彼女は思う存分に、フィヨン家で力を発揮して活躍してもらっています。それに私は、彼女を愛している。大切な彼女を簡単に手放すつもりはありませんよ」
「ぐっ」
アルフレッドは、妹の嘘に騙されて簡単に婚約を破棄した。その事を皮肉るような言葉を放つバティステト様。横で聞いていた私の顔は、赤くなっていないだろうか。
そんな事を気にしていると、アルフレッドはターゲットを私に向ける。
「エヴリーヌ、今までの事は本当に申し訳ないと思っている。心の底から謝罪する。ドゥニーズの言っていたことは嘘だと分かったんだ。だから、俺と再び婚約してくれないか?」
「お断りします」
アルフレッドは、何度も必死に繰り返し婚約してくれと頼んできた。私が彼と再び婚約するなんてことは絶対にありえない。だから、どんなにしつこく頼み込まれても全て断った。
「本当に無理なのか? なんとかして……」
「さっさと帰ってくれ! 私達は、貴方と違って忙しいんだ」
「ぐぅ……、離せ! 話はまだ」
「終わりだ」
それでもしつこく粘ろうとするので、バティステト様が強制的に追い出した。彼を屋敷の外まで連れて行って、さっさと帰ってもらった。
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