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第4話
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真正面から、婚約してくれと本気のプロポーズは嬉しかった。強く求められていることが分かったから。
バティステト様の目は本気だった。心の底から、婚約してくれと言っていることを理解した。
アルフレッドとは、幼い頃に婚約させられた。両親が話し合って、自我が芽生えた頃にはそうなっていた。当たり前だったことなので、何も思わなかった。
それに比べて今回は、選択を迫られた。婚約するかどうか。
私自身は、既にどうするか決まっていた。だけど、貴族として、家のためにも話をじっくり聞いてから判断しなければならない。
「なぜ、私なんかと婚約を?」
聞かずにはいられなかった疑問だ。一度、婚約を破棄された女性を迎え入れるのは避けるべきだと言われている。伯爵や子爵なら婚約を申し込む理由も分かるけれど、同格の侯爵であるバティステト様が私に婚約を求める理由が分からない。
しかも、フィヨン家というのは軍閥貴族としても有名だった。
数々の戦場に出て、いくつもの勲章を授与されるほどの活躍をしている。王族から頼りにされて、普通の侯爵家よりも格が高い。婚約を希望する家も多いだろう。
だから、私と婚約する理由が見当たらない。なぜなんだろう。直接、本人に理由を聞いてみた。
「君が優秀だからだ」
「優秀?」
「以前、君の家に社交界やパーティーについてのアドバイスを貰ったことがある」
「……あ。そういえば」
過去の記憶を振り返ってみて、そういえばと思い出すことがあった。お父様から、いくつかアドバイスしてくれとお願いされたことがあった。その時に、フィヨン家のためにアイデアを絞り出した覚えがある。
「その時のアドバイスは、とても役に立った」
「そうだったのですか。それは、良かったです」
改めて、お礼を言われる。わざわざ頭を下げて、とても丁寧な人だと感じた。
軍人って、もっと威圧的な人なのかと思ったけれど、バティステト様はイメージと違うようだ。
「それで、君の優秀さを知っていた。フィヨン家に来てもらうのは、社交界に関する知識や、パーティーでの立ち居振る舞いについて指導してもらいたいから」
「なるほど。そういうことですか」
私の社交界に関する知識などを求めて、婚約したいという。
好きになったとか、一目惚れしたという感情よりもハッキリとした理由があるので納得したし、彼のことを信じることが出来そうだ。
婚約について答えようとした時、バティステト様が話を続けた。
「それから」
「え?」
「少し話をしてみて、君のことを多少は知れたと思う。私は、エヴリーヌという女性を好ましく感じた。一生を共にしても問題はないだろう、と確信するぐらいに」
「ッ!!」
予想外のストレートな告白に、私は顔を伏せて黙ってしまった。急すぎるから。
何を見て、何を感じてそう思ったのか分からない。だけど、バティステト様に気に入ってもらえたようだ。
私という女は意外と、直接的な好意に弱いのかも知れないな。自覚の無い弱点だ。顔も熱くて、恥ずかしい。
「どうかな? プロポーズの答えを聞かせてくれないか?」
「も、もちろんです! よろしくおねがいします」
私は、すぐに彼との婚約を受け入れた。次の瞬間、家のことが頭に思い浮かんだ。まず先に、お父様に知らせてから婚約について了承を得ないといけないのかな。
そんな私の心配を、バティステト様は分かっていたようだ。
「君のお父様とは、すでに話は済んでいるよ。本人の気持ちを尊重して、受け入れるのであればお父様も婚約を認めてくれるそうだ」
「なるほど」
既に根回しは済んでいたらしい。後は、私の答えを聞いて婚約が決まる予定だったそうだ。
ならば、今この瞬間に婚約は成立したようだ。私は改めて、バティステト様に挨拶する。
「バティステト様の婚約者となります。これから末永く、よろしくお願いします」
「あぁ。よろしく頼む」
バティステト様の目は本気だった。心の底から、婚約してくれと言っていることを理解した。
アルフレッドとは、幼い頃に婚約させられた。両親が話し合って、自我が芽生えた頃にはそうなっていた。当たり前だったことなので、何も思わなかった。
それに比べて今回は、選択を迫られた。婚約するかどうか。
私自身は、既にどうするか決まっていた。だけど、貴族として、家のためにも話をじっくり聞いてから判断しなければならない。
「なぜ、私なんかと婚約を?」
聞かずにはいられなかった疑問だ。一度、婚約を破棄された女性を迎え入れるのは避けるべきだと言われている。伯爵や子爵なら婚約を申し込む理由も分かるけれど、同格の侯爵であるバティステト様が私に婚約を求める理由が分からない。
しかも、フィヨン家というのは軍閥貴族としても有名だった。
数々の戦場に出て、いくつもの勲章を授与されるほどの活躍をしている。王族から頼りにされて、普通の侯爵家よりも格が高い。婚約を希望する家も多いだろう。
だから、私と婚約する理由が見当たらない。なぜなんだろう。直接、本人に理由を聞いてみた。
「君が優秀だからだ」
「優秀?」
「以前、君の家に社交界やパーティーについてのアドバイスを貰ったことがある」
「……あ。そういえば」
過去の記憶を振り返ってみて、そういえばと思い出すことがあった。お父様から、いくつかアドバイスしてくれとお願いされたことがあった。その時に、フィヨン家のためにアイデアを絞り出した覚えがある。
「その時のアドバイスは、とても役に立った」
「そうだったのですか。それは、良かったです」
改めて、お礼を言われる。わざわざ頭を下げて、とても丁寧な人だと感じた。
軍人って、もっと威圧的な人なのかと思ったけれど、バティステト様はイメージと違うようだ。
「それで、君の優秀さを知っていた。フィヨン家に来てもらうのは、社交界に関する知識や、パーティーでの立ち居振る舞いについて指導してもらいたいから」
「なるほど。そういうことですか」
私の社交界に関する知識などを求めて、婚約したいという。
好きになったとか、一目惚れしたという感情よりもハッキリとした理由があるので納得したし、彼のことを信じることが出来そうだ。
婚約について答えようとした時、バティステト様が話を続けた。
「それから」
「え?」
「少し話をしてみて、君のことを多少は知れたと思う。私は、エヴリーヌという女性を好ましく感じた。一生を共にしても問題はないだろう、と確信するぐらいに」
「ッ!!」
予想外のストレートな告白に、私は顔を伏せて黙ってしまった。急すぎるから。
何を見て、何を感じてそう思ったのか分からない。だけど、バティステト様に気に入ってもらえたようだ。
私という女は意外と、直接的な好意に弱いのかも知れないな。自覚の無い弱点だ。顔も熱くて、恥ずかしい。
「どうかな? プロポーズの答えを聞かせてくれないか?」
「も、もちろんです! よろしくおねがいします」
私は、すぐに彼との婚約を受け入れた。次の瞬間、家のことが頭に思い浮かんだ。まず先に、お父様に知らせてから婚約について了承を得ないといけないのかな。
そんな私の心配を、バティステト様は分かっていたようだ。
「君のお父様とは、すでに話は済んでいるよ。本人の気持ちを尊重して、受け入れるのであればお父様も婚約を認めてくれるそうだ」
「なるほど」
既に根回しは済んでいたらしい。後は、私の答えを聞いて婚約が決まる予定だったそうだ。
ならば、今この瞬間に婚約は成立したようだ。私は改めて、バティステト様に挨拶する。
「バティステト様の婚約者となります。これから末永く、よろしくお願いします」
「あぁ。よろしく頼む」
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