上 下
24 / 31

王位剥奪 ※アルフレッド王子視点

しおりを挟む
 自分の耳を疑った。今、聞き間違えるはずのない言葉が飛び込んできたから。

「今、なんと言ったんですか?」
「お前の王位継承権を剥奪する、と言ったんだ」
「っ!?」

 聞き間違いじゃなかった。父の口から、冷酷な宣告が下される。とても重々しくて耳にしたくないような言葉。

「なぜですか!?」

 思わず声を上げてしまう。俺の王位継承権を剥奪だなんて。そんなことが許されるはずがない!

 何の前触れもなく、唐突に言い渡されるなんて。まったく理不尽だ。

 頭の中が真っ白になる。反論の言葉が溢れ出てくるが、どれを口にすればいいのかわからない。ただ、このまま認めるわけにはいかない。絶対に認めてはいけないのだ。

 そう考える俺に、父が説明を始めた。

「ブレットとアデーレ嬢の二人には、特別な任務を与えていた。ダンジョン探索して情報収集するという、とても大事な任務を。それをお前が邪魔をしたり、貴族たちの前で暴露までしてしまったからだ。その行動は、王国を危機にさらす可能性があったんだぞ!」
「どういうことですか? 特別な任務って、一体何のことですか!?」

 任務のことなんて、俺は一切聞いていない。聞いたこともない。そんなこと知る由もなかった。ただアデーレがもの好きで、好奇心からダンジョンに潜っているだけだと思っていた。それが、国から与えられた任務だったなんて?

 そんなの嘘だ。きっと、俺を追い詰めるための作り話。だって、今までそんな話は聞いたこともないから。

 もしかして、ブレットかアデーレが先に根回しをしていたのか? こうなる事態を予想して、工作していたというのか?

 そこまで考える俺に、父が言う。

「知らなくて当然だ。お前は拒否したからな」
「拒否? 拒否なんてしていません。あの女は、婚約相手である俺に何も教えてくれませんでしたよ」

 隠れてコソコソと、ダンジョンに潜って遊ぶ日々。だからこそ、婚約を破棄するべきだったのだ。やはり、俺の判断は間違っていなかったはず。なのに、どうして。

「お前は間違いなく拒否した。彼女から誘われていたはずだ。一緒にダンジョン探索に挑戦しようと」

「……それは」

 確かに、ぼんやりと覚えている。アデーレからダンジョン探索に誘われたことを。だけど、その時は何を馬鹿なことを言っているのかと思ったのだ。ダンジョンなんて儀式で訪れるだけの場所。あんな危険な場所に何度も行くなんて、愚かだと。いつか絶対に失敗して死んでしまう。次期王として俺は、死ぬわけにはいかない。

「だ、だけど! それだけで、王位継承権を剥奪するなんて! あのとき会場で話を聞いていた貴族たちは、ダンジョンのことなんて何も気にしていないでしょう!」

 だから、問題はないはず。そう思ったのだが。

「それだけじゃない。他にも理由はあるのだ」
「っ!?」

 父の鋭い視線に背筋が凍る。他に、何があるというのか。

「お前の勝手な判断で、エレドナッハ公爵家との関係を悪化させた」
「だから、それは……!」

 問題があったのはアデーレの方だ。浮気を疑わせるようなことをした女のせいで、俺は何も悪くない。

 必死に訴えるが、父は聞く耳を持たない。

「それに何より、お前のような愚か者に国は任せられん」
「そんな……。俺は次期国王のはずだ。王位継承権を剥奪だなんて……」

 父の目は、これまでにないほど鋭く俺を見据えている。本気なのだ。まさかこんな事態に陥るとは。

「信じられない……。こんな、理不尽な……」
「理不尽なのは、お前だ。ここまできて、まだ自分の非を認められぬとは」
「俺は、国のために正しい判断をしただけだ! それを理不尽と言うなら」
「黙れ! もう聞く耳は持たん」

 低い声で言い放つと、父は俺に背を向けた。

「話は終わりだ」
「……わかりました。陛下」

 これ以上、何を言っても無駄なんだろう。最後の一言を残して、俺は部屋を出た。怒りに震える足取りで。

 信じられない。俺の王位継承権を剥奪だと? あんな程度のことで。ふざけるな。俺は、この国の次期国王なのだ。それを簡単に奪うことなどできるはずがない。

 認めない。必ず、俺が王座を手に入れてみせよう。そして、俺を認めなかった父を後悔させてやる。

 俺は絶対に国王になる。そのためなら、手段は選ばない。

 覚悟を決めた俺は、力強く歩き出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

完結 妹を愛していると言った貴方、本気ですか?気持ちが悪い!

音爽(ネソウ)
恋愛
幼くして王子と婚約したクラーラ公爵令嬢。 まだ子供の令嬢12歳と大人の王子22歳。 王子はまだ子供の婚約者より大人の妹の肉欲に走った、ベリンダを愛しているとほざく婚約者トマス王子。 「なにを言ってるんですか、気持ち悪い!」 「何が気持ち悪いのだ!これは真実の愛なのだ!」 しかも妹は妊娠しているというではないか……

【書籍化決定】断罪後の悪役令嬢に転生したので家事に精を出します。え、野獣に嫁がされたのに魔法が解けるんですか?

氷雨そら
恋愛
皆さまの応援のおかげで、書籍化決定しました!   気がつくと怪しげな洋館の前にいた。後ろから私を乱暴に押してくるのは、攻略対象キャラクターの兄だった。そこで私は理解する。ここは乙女ゲームの世界で、私は断罪後の悪役令嬢なのだと、 「お前との婚約は破棄する!」というお約束台詞が聞けなかったのは残念だったけれど、このゲームを私がプレイしていた理由は多彩な悪役令嬢エンディングに惚れ込んだから。  しかも、この洋館はたぶんまだ見ぬプレミアム裏ルートのものだ。  なぜか、新たな婚約相手は現れないが、汚れた洋館をカリスマ家政婦として働いていた経験を生かしてぴかぴかにしていく。  そして、数日後私の目の前に現れたのはモフモフの野獣。そこは「野獣公爵断罪エンド!」だった。理想のモフモフとともに、断罪後の悪役令嬢は幸せになります! ✳︎ 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。

悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。

三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。 何度も断罪を回避しようとしたのに! では、こんな国など出ていきます!

結婚式の晩、「すまないが君を愛することはできない」と旦那様は言った。

雨野六月(旧アカウント)
恋愛
「俺には愛する人がいるんだ。両親がどうしてもというので仕方なく君と結婚したが、君を愛することはできないし、床を交わす気にもなれない。どうか了承してほしい」 結婚式の晩、新妻クロエが夫ロバートから要求されたのは、お飾りの妻になることだった。 「君さえ黙っていれば、なにもかも丸くおさまる」と諭されて、クロエはそれを受け入れる。そして――

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

追放された公爵令嬢はモフモフ精霊と契約し、山でスローライフを満喫しようとするが、追放の真相を知り復讐を開始する

もぐすけ
恋愛
リッチモンド公爵家で発生した火災により、当主夫妻が焼死した。家督の第一継承者である長女のグレースは、失意のなか、リチャードという調査官にはめられ、火事の原因を作り出したことにされてしまった。その結果、家督を叔母に奪われ、王子との婚約も破棄され、山に追放になってしまう。 だが、山に行く前に教会で16歳の精霊儀式を行ったところ、最強の妖精がグレースに降下し、グレースの運命は上向いて行く

〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。

藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。 そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。 私がいなければ、あなたはおしまいです。 国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。 設定はゆるゆるです。 本編8話で完結になります。

異世界に召喚されたけど、従姉妹に嵌められて即森に捨てられました。

バナナマヨネーズ
恋愛
香澄静弥は、幼馴染で従姉妹の千歌子に嵌められて、異世界召喚されてすぐに魔の森に捨てられてしまった。しかし、静弥は森に捨てられたことを逆に人生をやり直すチャンスだと考え直した。誰も自分を知らない場所で気ままに生きると決めた静弥は、異世界召喚の際に与えられた力をフル活用して異世界生活を楽しみだした。そんなある日のことだ、魔の森に来訪者がやってきた。それから、静弥の異世界ライフはちょっとだけ騒がしくて、楽しいものへと変わっていくのだった。 全123話 ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...