上 下
9 / 31

憧れのお姉さん ※第二王子視点

しおりを挟む
 とても綺麗な人だった。

 美しく長い金髪、澄んだ青い瞳に、ほっそりとした体つき。まるでおとぎ話に出てくる女神のようだと。初めてその女性を見たときに僕は、そう思った。衝撃だった。

 見るだけでドキドキした。今まで見た、どんな人よりも美しい。

 彼女が兄の婚約相手だと聞いて、とても残念に思った。兄が羨ましいなと思った。あんなにも素敵な人と結ばれるなんて、と嫉妬した。

 あのお姉さんが兄に会いに来ると聞いて、遠くから一目だけでも見たいと思って、駆けつけた。

 兄が待っている部屋の前で、しばらく僕も待つ。廊下の向こうから、護衛の兵士を引き連れて歩いてくる彼女を見て、胸を高鳴らせた。

 あの美しい女性が、来た!

 近寄ったりせず偶然を装いながら、さりげなく彼女に視線を向ける。すると彼女も僕に気付いたのか、目が合う。やばい。

「っ!」

 ニコッと、彼女は微笑んでくれた。それを見た瞬間に、僕の心臓はドクンッ! と跳ね上がった。顔が熱くなり、息苦しくなるほど興奮した。

 なんとか会釈して、その場を立ち去る。頭の中は、彼女のことばかり考えていた。また会いたいと願うようになった。

 だけど、彼女は兄の婚約相手である。絶対に一緒にはなれない。一緒になりたいと思ってはいけない。だからせめて、遠くから眺めるだけでも。

 それから何度か彼女と会う機会があった。でも、会話することは一度もなかった。ただ笑顔で会釈するだけ。それ以上は決してない。

 ちょっと寂しかったけど、でも、それでいいとも思っていた。婚約相手のいる女性と馴れ馴れしくして、勘違いされたら大変だから。あの美しい女性に、迷惑かけたくない。



 それからしばらくして、彼女と会話する機会があった。王族の人間として、国王も同席しての正式な挨拶。第二王子のブレットとして、兄の婚約相手である女性に挨拶するだけ。なにも、やましいことはない。

「アデーレと申します。今まで何度かお会いしましたが、こうやってちゃんとお話しするのは初めてですね」

 一番近くで、真正面からアデーレという女性の美しい顔をしっかりと見れた。じっと見続けたら、失礼だろうか。でも、ずっと見ていたい。

「あ、あぁ。そうだな。僕の名は、ブレット。よろしく頼む」

 緊張しながら答える。いつも遠目から見ていた彼女の顔を、こんなに近くで見ると本当に綺麗だと思いながら。

「よろしくお願いします、ブレット様」

 彼女の美しい声で名前を呼ばれる。それだけで、幸せな気分になった。それから、兄が羨ましいと強く思うようになった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

〖完結〗死にかけて前世の記憶が戻りました。側妃? 贅沢出来るなんて最高! と思っていたら、陛下が甘やかしてくるのですが?

藍川みいな
恋愛
私は死んだはずだった。 目を覚ましたら、そこは見知らぬ世界。しかも、国王陛下の側妃になっていた。 前世の記憶が戻る前は、冷遇されていたらしい。そして池に身を投げた。死にかけたことで、私は前世の記憶を思い出した。 前世では借金取りに捕まり、お金を返す為にキャバ嬢をしていた。給料は全部持っていかれ、食べ物にも困り、ガリガリに痩せ細った私は路地裏に捨てられて死んだ。そんな私が、側妃? 冷遇なんて構わない! こんな贅沢が出来るなんて幸せ過ぎるじゃない! そう思っていたのに、いつの間にか陛下が甘やかして来るのですが? 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。

悪役令嬢は処刑されないように家出しました。

克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。 サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

【完結】白い結婚なのでさっさとこの家から出ていきます~私の人生本番は離婚から。しっかり稼ぎたいと思います~

Na20
恋愛
ヴァイオレットは十歳の時に両親を事故で亡くしたショックで前世を思い出した。次期マクスター伯爵であったヴァイオレットだが、まだ十歳ということで父の弟である叔父がヴァイオレットが十八歳になるまでの代理として爵位を継ぐことになる。しかし叔父はヴァイオレットが十七歳の時に縁談を取り付け家から追い出してしまう。その縁談の相手は平民の恋人がいる侯爵家の嫡男だった。 「俺はお前を愛することはない!」 初夜にそう宣言した旦那様にヴァイオレットは思った。 (この家も長くはもたないわね) 貴族同士の結婚は簡単には離婚することができない。だけど離婚できる方法はもちろんある。それが三年の白い結婚だ。 ヴァイオレットは結婚初日に白い結婚でさっさと離婚し、この家から出ていくと決めたのだった。 6話と7話の間が抜けてしまいました… 7*として投稿しましたのでよろしければご覧ください!

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

婚約者が王子に加担してザマァ婚約破棄したので父親の騎士団長様に責任をとって結婚してもらうことにしました

山田ジギタリス
恋愛
女騎士マリーゴールドには幼馴染で姉弟のように育った婚約者のマックスが居た。  でも、彼は王子の婚約破棄劇の当事者の一人となってしまい、婚約は解消されてしまう。  そこで息子のやらかしは親の責任と婚約者の父親で騎士団長のアレックスに妻にしてくれと頼む。  長いこと男やもめで女っ気のなかったアレックスはぐいぐい来るマリーゴールドに推されっぱなしだけど、先輩騎士でもあるマリーゴールドの母親は一筋縄でいかなくて。 脳筋イノシシ娘の猪突猛進劇です、 「ザマァされるはずのヒロインに転生してしまった」 「なりすましヒロインの娘」 と同じ世界です。 このお話は小説家になろうにも投稿しています

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

わたくしへの文句くらい、ご自分で仰ったら?

碧水 遥
恋愛
「アンディさまを縛りつけるのはやめてください!」  いえ、あちらから頼み込まれた婚約ですけど。  文句くらい、ご自分で仰ればいいのに。

処理中です...