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前途有望なお嬢様 ※老執事視点
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エレドナッハ公爵家当主クラウス様から頼まれて、私はアデーレ様の担当執事になった。噂によると、かなり優秀なご令嬢らしい。
今まで関わりがなかったので、話に聞く情報しか持っていない。
噂について自分の目で確かめるため、私はアデーレ様の部屋へ足を運んだ。
「はじめまして、アデーレです」
「お初にお目にかかります。本日から、お嬢様の担当に就かせていただくことになりましたブルーノと申します」
「よろしくね、ブルーノさん」
「はい。よろしくお願いします、アデーレ様」
まだ幼いのに、とても落ち着いた子だった。クラウス様の他のご子息やご令嬢たちと比べても、突出して大人びている。礼儀作法もしっかりしている。それが、彼女に対する第一印象だった。
それからしばらく、私はアデーレ様と一緒に過ごした。彼女はやはり優秀な子で、私が教えることをどんどんと吸収していった。優れた集中力があり、学習意欲も高くて、教えたことをしっかりと覚えていく。
このまま成長していけば、きっと素晴らしい令嬢になるだろう。将来が楽しみな子だった。
そんなアデーレ様が、ある時から少し雰囲気が変わった。以前よりも勉強に熱心になって、好奇心旺盛な性格には磨きがかかり、日記のようなものを毎日書くようになった。
授業の合間などに手帳を開いて、書き込んでいく。その様子をチラッと見たとき、私は疑問に思った。見たことのない文字で書かれていたから。ハッキリとは見えなかったので、もしかしたら文字が汚いだけなのか。
しかし、彼女の書く文字は書写を指導する教師が褒めるほどキレイだった。その時の文字を、私も見たことがある。字が下手というわけでもない。むしろ上手い方だと思う。
ということは、あの文字はわざとそうしている。
わざと文字を崩して、他の人に読まれないように対策しているとか。彼女ほどの知性が備わっていれば、それもあり得る話。彼女の文字が見えたのは一瞬だけなので、見間違いの可能性もあるが。
アデーレ様が対策しているのならば、日記を読まれたくないということ。私は、これ以上追及するべきではないだろう。それ以降は、書き込むアデーレ様の手元を極力見ないようにした。
そんな出来事がありつつ、ダンジョンの儀式を執り行う日が近づいてきた。好奇心旺盛なアデーレ様はダンジョンにも興味があるようで、色々と話を聞いてきた。私はアデーレ様の疑問に答える。
ダンジョンに立ち入るのは、昔から受け継がれてきたしきたり。ダンジョンに入れるのは、上級貴族と許可を得た戦士たちだけ。許可のない庶民や一部の貴族も、立ち入ることは許されない。
そして、ダンジョンの儀式を受けて無事だった貴族の子息令嬢は、貴族の一員として認められる。儀式の途中で逃げ出したり、失敗するようなことがあれば、その子は下級貴族へ養子に出されることもある。それぐらい、貴族にとって大事な儀式であること。
エレドナッハ公爵家の執事である私も、何度か付き添いでダンジョンに入ったことがある。そして今回も、アデーレ様の付き添いで一緒に入る予定であること。
ダンジョンに関する話を、アデーレ様は興味津々という様子で聞いていた。
ダンジョンの儀式当日、緊張感もなく自然体なアデーレ様。普通の子であれば、不安になったり怖がったりするものだが。彼女は普通じゃないようだ。
護衛の戦士が2人。実力者の彼らを頼りにしつつ、ダンジョンの中へ慎重に入っていく。アデーレ様の反応にも注意しながら。
今のところ、まだ大丈夫そう。だが、急に怖がったりすることもある。油断しないように、彼女の様子をよく見ておかないと。
だが、その心配は杞憂に過ぎなかった。
「あれが、ダンジョンのモンスターなのね」
「そうです。アデーレ様は戦いに巻き込まれないように、少し離れて」
「わかった。戦いは、戦士に任せる」
モンスターが目の前に現れても、視線を逸らさず冷静に見つめていた。強がったりすることもなく、本当に普通の反応。それが異常だった。初めて入ったダンジョン内で、ここまで落ち着けるのか。アデーレ様は凄いな。
どんなモンスターが近づいてこようと、動揺せずに観察し続ける。本当にすごい子だ。私が今まで見てきた貴族の子たちの中で、一番に肝が据わっている。
戦士たちがモンスターを対処してくれるので、それを見ているだけで大丈夫。
予定の地点まで到達したが、ここでアデーレ様の判断を仰ぐ。これは、儀式の手順の一つ。最後の判断は、本人にゆだねる。
「この先もダンジョンは続いていますが、もう少し先へ進みますか?」
ダンジョンに立ち入った貴族の子息令嬢たちが、どこまで進むのか。最終的な判断は自分でさせる。
ここで引き返しても、儀式は成功である。そして、ほとんどの子たちが引き返す選択をする。モンスターが襲ってくる恐怖に耐え続けて、ダンジョンの奥に進む判断をするのは難易度が高い。
でも、彼女は違った。
「もちろん! 護衛の方々の体力がまだ大丈夫そうなら、先へ進みましょう」
「俺たちは、大丈夫だ」
「お嬢ちゃんは? 大丈夫なのか?」
「はい、大丈夫ですよ!」
そう言って、ニッコリと笑った。本当に余裕そうだな。こんな子、見たことない。そして我々は、さらにダンジョンの奥へと進んでから、無事に戻ってきた。
もちろん、ダンジョンの儀式は大成功。
アデーレ様は、エレドナッハ公爵家の中で一番に度胸がある。きっと、大物になるだろう。惜しいことに、彼女は女性である。ご子息であれば、次期当主に推薦したいと思うぐらい肝が据わっていて、とても優秀なのに。
今まで関わりがなかったので、話に聞く情報しか持っていない。
噂について自分の目で確かめるため、私はアデーレ様の部屋へ足を運んだ。
「はじめまして、アデーレです」
「お初にお目にかかります。本日から、お嬢様の担当に就かせていただくことになりましたブルーノと申します」
「よろしくね、ブルーノさん」
「はい。よろしくお願いします、アデーレ様」
まだ幼いのに、とても落ち着いた子だった。クラウス様の他のご子息やご令嬢たちと比べても、突出して大人びている。礼儀作法もしっかりしている。それが、彼女に対する第一印象だった。
それからしばらく、私はアデーレ様と一緒に過ごした。彼女はやはり優秀な子で、私が教えることをどんどんと吸収していった。優れた集中力があり、学習意欲も高くて、教えたことをしっかりと覚えていく。
このまま成長していけば、きっと素晴らしい令嬢になるだろう。将来が楽しみな子だった。
そんなアデーレ様が、ある時から少し雰囲気が変わった。以前よりも勉強に熱心になって、好奇心旺盛な性格には磨きがかかり、日記のようなものを毎日書くようになった。
授業の合間などに手帳を開いて、書き込んでいく。その様子をチラッと見たとき、私は疑問に思った。見たことのない文字で書かれていたから。ハッキリとは見えなかったので、もしかしたら文字が汚いだけなのか。
しかし、彼女の書く文字は書写を指導する教師が褒めるほどキレイだった。その時の文字を、私も見たことがある。字が下手というわけでもない。むしろ上手い方だと思う。
ということは、あの文字はわざとそうしている。
わざと文字を崩して、他の人に読まれないように対策しているとか。彼女ほどの知性が備わっていれば、それもあり得る話。彼女の文字が見えたのは一瞬だけなので、見間違いの可能性もあるが。
アデーレ様が対策しているのならば、日記を読まれたくないということ。私は、これ以上追及するべきではないだろう。それ以降は、書き込むアデーレ様の手元を極力見ないようにした。
そんな出来事がありつつ、ダンジョンの儀式を執り行う日が近づいてきた。好奇心旺盛なアデーレ様はダンジョンにも興味があるようで、色々と話を聞いてきた。私はアデーレ様の疑問に答える。
ダンジョンに立ち入るのは、昔から受け継がれてきたしきたり。ダンジョンに入れるのは、上級貴族と許可を得た戦士たちだけ。許可のない庶民や一部の貴族も、立ち入ることは許されない。
そして、ダンジョンの儀式を受けて無事だった貴族の子息令嬢は、貴族の一員として認められる。儀式の途中で逃げ出したり、失敗するようなことがあれば、その子は下級貴族へ養子に出されることもある。それぐらい、貴族にとって大事な儀式であること。
エレドナッハ公爵家の執事である私も、何度か付き添いでダンジョンに入ったことがある。そして今回も、アデーレ様の付き添いで一緒に入る予定であること。
ダンジョンに関する話を、アデーレ様は興味津々という様子で聞いていた。
ダンジョンの儀式当日、緊張感もなく自然体なアデーレ様。普通の子であれば、不安になったり怖がったりするものだが。彼女は普通じゃないようだ。
護衛の戦士が2人。実力者の彼らを頼りにしつつ、ダンジョンの中へ慎重に入っていく。アデーレ様の反応にも注意しながら。
今のところ、まだ大丈夫そう。だが、急に怖がったりすることもある。油断しないように、彼女の様子をよく見ておかないと。
だが、その心配は杞憂に過ぎなかった。
「あれが、ダンジョンのモンスターなのね」
「そうです。アデーレ様は戦いに巻き込まれないように、少し離れて」
「わかった。戦いは、戦士に任せる」
モンスターが目の前に現れても、視線を逸らさず冷静に見つめていた。強がったりすることもなく、本当に普通の反応。それが異常だった。初めて入ったダンジョン内で、ここまで落ち着けるのか。アデーレ様は凄いな。
どんなモンスターが近づいてこようと、動揺せずに観察し続ける。本当にすごい子だ。私が今まで見てきた貴族の子たちの中で、一番に肝が据わっている。
戦士たちがモンスターを対処してくれるので、それを見ているだけで大丈夫。
予定の地点まで到達したが、ここでアデーレ様の判断を仰ぐ。これは、儀式の手順の一つ。最後の判断は、本人にゆだねる。
「この先もダンジョンは続いていますが、もう少し先へ進みますか?」
ダンジョンに立ち入った貴族の子息令嬢たちが、どこまで進むのか。最終的な判断は自分でさせる。
ここで引き返しても、儀式は成功である。そして、ほとんどの子たちが引き返す選択をする。モンスターが襲ってくる恐怖に耐え続けて、ダンジョンの奥に進む判断をするのは難易度が高い。
でも、彼女は違った。
「もちろん! 護衛の方々の体力がまだ大丈夫そうなら、先へ進みましょう」
「俺たちは、大丈夫だ」
「お嬢ちゃんは? 大丈夫なのか?」
「はい、大丈夫ですよ!」
そう言って、ニッコリと笑った。本当に余裕そうだな。こんな子、見たことない。そして我々は、さらにダンジョンの奥へと進んでから、無事に戻ってきた。
もちろん、ダンジョンの儀式は大成功。
アデーレ様は、エレドナッハ公爵家の中で一番に度胸がある。きっと、大物になるだろう。惜しいことに、彼女は女性である。ご子息であれば、次期当主に推薦したいと思うぐらい肝が据わっていて、とても優秀なのに。
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