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あっさりとした別れ
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「マーガレット、君との婚約は破棄されることになった」
「あら、そうなったの? 了解したわ」
「……ッ!」
とある国の王子であるフィリップが告げる言葉。それを平然としながら受け止めたのは、公爵令嬢の娘であるマーガレット。予想外の反応に、唖然とする王子。普通の女ならば、泣き喚いて考えを改めさせようと努力するのではないか。なのに彼女は。
「君は、僕との婚約を破棄されて何とも思わないのか?」
「もう既に、決まったことなのでしょう? なら、仕方がないじゃない。私は、その婚約破棄を受け入れるしか選択肢は無いのでしょう?」
そんな返答を聞いて、フィリップが顔を歪めているがマーガレットはお構いなし。特に気にした様子もない。
「いやしかし……。君がもっと普通の女性らしく振る舞ってくれたのなら、こんな事にはならなかった」
「それは、とても無理な要求ですわね。今の私は研究第一ですので、その他の余計な事にリソースを割いている余裕は無いのですよ」
「り、りそーす……」
マーガレットは技術研究に夢中だった。それ以外には、意識を使いたくないと思うほど。そして今も、すぐにでも研究所に戻りたいと思っている。けれど一応、婚約者に呼び出されたので話を聞きに来ただけ。婚約を破棄されても、特に何も思うことは無かった。
思うことがあるとするなら、王妃としての役割から解放されるのは嬉しいことかもしれない。それぐらいだった。マーガレットは、王妃という地位に執着はなかった。むしろ、面倒だと思っている。
本当は、こんな話し合いも書面で済ませればいいのに、と思った。だけど、婚約者だった人からの呼び出しだったのでやって来た。一応、王子の面目を保つため会いに来た。
マーガレットは気遣っているけれど、フィリップは一切気付いていない。お互いに、色々と認識がズレている。これまで、2人は全く話し合いをしてこなかったからだ。
どういう人間なのか、お互いが理解していない。それで気が合うはずが無かった。
「公爵家の娘である君が、そんな事をする必要はない」
「私は自分がやりたいことをやっているだけです。貴方がそんな考えなら、もともと私たち2人が夫婦になるのは無理だったのよ」
公爵家の娘としての立場を押し付けようとするフィリップに対し、自分がやりたい生き方をすると主張するマーガレット。
「彼女に、これ以上なにを言っても無駄でしょう。もう放っておきましょうよ」
フィリップの従者の1人が口を挟んでくる。意見をしてきた従者をチラリと見て、マーガレットは心の中でため息をついた。王子だけでなく、彼の取り巻きさえそんな考えだったのか、と。
「……あぁ、そうだな、今まで何度も注意してきたのに直そうとはしてこなかった。もう諦めるべきなのだろうな」
「研究所に戻っていいですか?」
フィリップが当てつけるように口にした言葉も他人事のようにスルーして、さっさと自分の好きな研究に戻ろうとするマーガレットだった。2人の話し合いに、従者が口を出してきたのに注意もしない。この光景を見て、もう2人だけの話し合いは無理だろうとマーガレットは悟った。
「私たち2人の関係は、これで解消された。もう二度と私たちは会うこともないかもしれない。さらばだ」
「はい。それでは、失礼しますわね」
「クッ……!」
本当にあっさりと、背を向けて去っていくマーガレットを憎々しげに見つめ続けるフィリップだった。
未練を微塵も感じない彼女からの言葉を聞いて、無意識のうちにショックを受ける王子。
フィリップは、彼女の事を婚約破棄するまで嫌いだった訳じゃない。しかし、王妃としては相応しくないと感じた。王や大臣からは、婚約破棄するように勧められた。その通り、だと思った。だから、婚約破棄を突き付けた。自分の考えが全て正しいと確信していた。
数年後、王子は王となる。そして、この時の判断を大いに後悔することとなった。
「あら、そうなったの? 了解したわ」
「……ッ!」
とある国の王子であるフィリップが告げる言葉。それを平然としながら受け止めたのは、公爵令嬢の娘であるマーガレット。予想外の反応に、唖然とする王子。普通の女ならば、泣き喚いて考えを改めさせようと努力するのではないか。なのに彼女は。
「君は、僕との婚約を破棄されて何とも思わないのか?」
「もう既に、決まったことなのでしょう? なら、仕方がないじゃない。私は、その婚約破棄を受け入れるしか選択肢は無いのでしょう?」
そんな返答を聞いて、フィリップが顔を歪めているがマーガレットはお構いなし。特に気にした様子もない。
「いやしかし……。君がもっと普通の女性らしく振る舞ってくれたのなら、こんな事にはならなかった」
「それは、とても無理な要求ですわね。今の私は研究第一ですので、その他の余計な事にリソースを割いている余裕は無いのですよ」
「り、りそーす……」
マーガレットは技術研究に夢中だった。それ以外には、意識を使いたくないと思うほど。そして今も、すぐにでも研究所に戻りたいと思っている。けれど一応、婚約者に呼び出されたので話を聞きに来ただけ。婚約を破棄されても、特に何も思うことは無かった。
思うことがあるとするなら、王妃としての役割から解放されるのは嬉しいことかもしれない。それぐらいだった。マーガレットは、王妃という地位に執着はなかった。むしろ、面倒だと思っている。
本当は、こんな話し合いも書面で済ませればいいのに、と思った。だけど、婚約者だった人からの呼び出しだったのでやって来た。一応、王子の面目を保つため会いに来た。
マーガレットは気遣っているけれど、フィリップは一切気付いていない。お互いに、色々と認識がズレている。これまで、2人は全く話し合いをしてこなかったからだ。
どういう人間なのか、お互いが理解していない。それで気が合うはずが無かった。
「公爵家の娘である君が、そんな事をする必要はない」
「私は自分がやりたいことをやっているだけです。貴方がそんな考えなら、もともと私たち2人が夫婦になるのは無理だったのよ」
公爵家の娘としての立場を押し付けようとするフィリップに対し、自分がやりたい生き方をすると主張するマーガレット。
「彼女に、これ以上なにを言っても無駄でしょう。もう放っておきましょうよ」
フィリップの従者の1人が口を挟んでくる。意見をしてきた従者をチラリと見て、マーガレットは心の中でため息をついた。王子だけでなく、彼の取り巻きさえそんな考えだったのか、と。
「……あぁ、そうだな、今まで何度も注意してきたのに直そうとはしてこなかった。もう諦めるべきなのだろうな」
「研究所に戻っていいですか?」
フィリップが当てつけるように口にした言葉も他人事のようにスルーして、さっさと自分の好きな研究に戻ろうとするマーガレットだった。2人の話し合いに、従者が口を出してきたのに注意もしない。この光景を見て、もう2人だけの話し合いは無理だろうとマーガレットは悟った。
「私たち2人の関係は、これで解消された。もう二度と私たちは会うこともないかもしれない。さらばだ」
「はい。それでは、失礼しますわね」
「クッ……!」
本当にあっさりと、背を向けて去っていくマーガレットを憎々しげに見つめ続けるフィリップだった。
未練を微塵も感じない彼女からの言葉を聞いて、無意識のうちにショックを受ける王子。
フィリップは、彼女の事を婚約破棄するまで嫌いだった訳じゃない。しかし、王妃としては相応しくないと感じた。王や大臣からは、婚約破棄するように勧められた。その通り、だと思った。だから、婚約破棄を突き付けた。自分の考えが全て正しいと確信していた。
数年後、王子は王となる。そして、この時の判断を大いに後悔することとなった。
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