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第31話 備えと罠

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 商人モーリスとの初対面は、無事に終わった。

 私が記憶している彼と違って、まだまだ半人前のようだった。後に豪商と呼ばれるようになる彼の功績を知っているから、出来れば今回も仲良くしておきたい。

 初めての話し合いは好感触だったし、話し合いが終わってから相談されたことにもすぐ対応した。それで、信頼を得られたと思う。

 商売については今後、彼を信じて全て任せたほうが良いだろう。経験を積ませて、立派な商人に育ってもらう。そして今後も、彼の商人としての力に頼っていきたい。



 旅立つ前に、屋敷で働いている使用人たちに遠距離からでも会話することが出来る魔法道具を配布した。何かあれば、その道具を使って連絡するようにと言っておく。もしくは、モーリスの商会を頼るように助言しておいた。

 お母様を連れて行くので、屋敷に残るのはお父様と妹の二人だけ。何か起こしそうで、不安だった。せっかく仲良くなった使用人たちが、面倒事に巻き込まれて危険な目に遭ってほしくはない。

 とはいえ、全員を旅行に連れて行くことは出来ない。大人数で移動するとなると、行動やルートが制限されてしまうから。

 今回の旅行は、色々な場所を巡りたい。だから、数名だけ連れて行くことにした。屋敷に残る使用人たちに備えを渡しておいて、不安を減らしておく。


「これで、よし」

 異次元空間袋も完成した。人間には観測できない異次元に特殊な魔法で接続して、そこに物を収納することが出来るという魔法道具。

 これを使えば、いくらでも旅行に荷物を持っていける。魔法研究室に置いてある、大事な書類や道具なども当然、異次元空間袋に収納して全部持っていくつもり。

 そして、偽物の研究成果や資料を置いておく。私が過去に失敗してきた膨大な実験データを、魔法研究室に置いておいた。この情報を見た者達に嫌がらせするために。

 偽物の情報という罠を用意するのが、意外と楽しかった。このデータを奪われて、他の魔法使いに見られても何の問題もないような偽物の情報。

 もしかしたら、私が辿り着けなかった未知の発見があるかもしれない。新たな発見があれば、素直に称賛すると思う。私も知りたい。おそらく、無理だろうけれど。

 人の研究データを奪い取るんだから、この偽の情報で苦しめばいい。このデータの解析に夢中になっている間は、他に目を向ける余裕もなくなるだろう。惑わされて、私が旅行している間は大人しくしておいてほしい。

 そもそも、この研究データを盗まなければ惑わされることもない。

 多分、妹のメイヤは盗みに来ると思う。しかも、私が旅立った瞬間にすぐ研究室に侵入してきそうだ。

 最近、リカード王子と婚約したことで図に乗るようになったメイヤ。あの酷い態度を修正するのは、もはや不可能だろう。あの子は、今後どうなってくのかしら。


 そんなこんなで、旅立つ準備は完了した。商人モーリスが用意してくれた、立派な馬車と護衛を引き連れて、私はお母様とメイド達と一緒に旅立った。
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