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第06話 違和感 ※リカード王子視点
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俺の目の前に座って、黙っていても平然としているナディーン。今日は、話さないつもりのようだ。
「今日のお前は、変だな」
沈黙に耐えきれずに口を開いてしまった。なんとなく、負けた気分だった。それでまた気が沈む。
そんな俺の気も知らないで、彼女は笑顔のまま答えた。
「そうでしょうか?」
「あぁ、変だ」
「そうですか」
「……」
「……」
一体なんだろうか、この時間は。ここまで、俺と話す気のない彼女は初めて。どう対処するべきか困る。というか、なぜアレクグル王国の王子である俺が彼女のために悩まなければならないのか。
だが、このまま黙り続けると彼女は口を開きそうにない。仕方なく、俺から話題を提供する。
「ところで今日は、お前の大好きな魔法について話さないのか?」
俺が彼女と会う一番の目的は、魔法の研究成果について話を聞くことだった。話は長いし、難しくて聞くのは面倒だ。けれど、ここで聞いた内容を陛下に報告すれば、俺の評価が上がる。どうやら、彼女の研究結果が王国の発展に貢献しているらしい。それなりに役立つ内容だということ。
だから、長くて難しくて面倒でも、話は聞いておく。今日の話もまた、陛下からの評価を上げるために。
「はい。話しません」
なのに彼女はまた、予想外の答えを言った。聞き間違いだろうか。いいや、確かに彼女はそう言った。
「……なぜだ?」
「報告する内容を用意していませんから」
「な、なに……!?」
そういえば、今日の彼女は手に何も持ってきていない。いつもは、報告する内容をまとめた紙の束を押し付けられるのに。本当に、魔法についての話をしないのか。
俺の目の前に座っている女は、本当にナディーンなのか。
あれだけ俺にまとわりついて、大好きな魔法の話を延々とする彼女。だが今日は、全く違う態度。先程見た時に感じたときと同じように、別人のように思える。
しかし、顔を確認したら間違いなくナディーンである。別人なわけがない。ならばどうして、こんなに変わってしまったのか。
いや、そんなことよりも。何も用意せずに俺に会いに来たのか。それなら、彼女は何の役にも立たない。会う意味がないじゃないか。
「用事がないのなら、帰れ!」
「わかりました。今日は、これで失礼します」
「……え?」
流石に、それだけ言ったら慌てて何か出してくるだろう。そう思ったのに、彼女はあっさりと引き下がった。
俺が呼び止める前に、ナディーンはさっさと部屋から出ていってしまった。
「何なんだ、アイツは……!」
部屋に残された俺は、正体不明の焦りを感じていた。なんだこれは。もっと強く、彼女を引き止めるべきだった。
いいや、王子の俺が焦る必要なんてない。彼女を引き止めるなんて、みっともないだけ。時間が経てば、以前の彼女に戻るだろう。
とりあえず今は、彼女のことなんて放っておこう。今のうちに、彼女以外の女性と楽しめばいいや。
「今日のお前は、変だな」
沈黙に耐えきれずに口を開いてしまった。なんとなく、負けた気分だった。それでまた気が沈む。
そんな俺の気も知らないで、彼女は笑顔のまま答えた。
「そうでしょうか?」
「あぁ、変だ」
「そうですか」
「……」
「……」
一体なんだろうか、この時間は。ここまで、俺と話す気のない彼女は初めて。どう対処するべきか困る。というか、なぜアレクグル王国の王子である俺が彼女のために悩まなければならないのか。
だが、このまま黙り続けると彼女は口を開きそうにない。仕方なく、俺から話題を提供する。
「ところで今日は、お前の大好きな魔法について話さないのか?」
俺が彼女と会う一番の目的は、魔法の研究成果について話を聞くことだった。話は長いし、難しくて聞くのは面倒だ。けれど、ここで聞いた内容を陛下に報告すれば、俺の評価が上がる。どうやら、彼女の研究結果が王国の発展に貢献しているらしい。それなりに役立つ内容だということ。
だから、長くて難しくて面倒でも、話は聞いておく。今日の話もまた、陛下からの評価を上げるために。
「はい。話しません」
なのに彼女はまた、予想外の答えを言った。聞き間違いだろうか。いいや、確かに彼女はそう言った。
「……なぜだ?」
「報告する内容を用意していませんから」
「な、なに……!?」
そういえば、今日の彼女は手に何も持ってきていない。いつもは、報告する内容をまとめた紙の束を押し付けられるのに。本当に、魔法についての話をしないのか。
俺の目の前に座っている女は、本当にナディーンなのか。
あれだけ俺にまとわりついて、大好きな魔法の話を延々とする彼女。だが今日は、全く違う態度。先程見た時に感じたときと同じように、別人のように思える。
しかし、顔を確認したら間違いなくナディーンである。別人なわけがない。ならばどうして、こんなに変わってしまったのか。
いや、そんなことよりも。何も用意せずに俺に会いに来たのか。それなら、彼女は何の役にも立たない。会う意味がないじゃないか。
「用事がないのなら、帰れ!」
「わかりました。今日は、これで失礼します」
「……え?」
流石に、それだけ言ったら慌てて何か出してくるだろう。そう思ったのに、彼女はあっさりと引き下がった。
俺が呼び止める前に、ナディーンはさっさと部屋から出ていってしまった。
「何なんだ、アイツは……!」
部屋に残された俺は、正体不明の焦りを感じていた。なんだこれは。もっと強く、彼女を引き止めるべきだった。
いいや、王子の俺が焦る必要なんてない。彼女を引き止めるなんて、みっともないだけ。時間が経てば、以前の彼女に戻るだろう。
とりあえず今は、彼女のことなんて放っておこう。今のうちに、彼女以外の女性と楽しめばいいや。
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